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File:42 ハンティング・キャッツ

「や~りましたわ!! これでワタクシ達の大勝利ですわよ~!! オ~ッホッホ!!」


「高笑いしてないでボクのことも気にしてくださいよ! このままトマトみたいに潰れるのはゴメンなんですが!!」


 爆風の横風にあてられ、空中でなすすべもなくバランスを崩した身体。


 ミサイル捕縛のためにワイヤーガンのカートリッジも使い尽くし、このままでは本当にこの世の別れが来てしまう。


 猫でもなければまず助からないだろう。


「あ、そうでしたわ! ほいっと」


「うっ……」


 落ちていく浮遊感が納まり、腰を中心に優しく抱きかかえられる感覚。


 先に着地していたG・Gがキャッチしてくれたらしい。


 大柄な彼女に軽々と抱えられていると、まるで自分がか弱いお嬢様のようで気恥ずかしい。


「あら! 『子犬ちゃん』をお姫様抱っこしちゃいましたわ! よ~ちよち、怖かったですわね~! もう大丈夫でしてよ~!」


「む、喧嘩なら今すぐにでも買いますよ」


 羞恥で赤らんでいた顔は、すぐに怒りの色に変わる。


 少しでも恥らんでいた自分が馬鹿らしい。


 それを誤魔化すように、左手の指鉄砲(フィンガン)をカチャリと彼女の顎に突き付ける。


「お、おほほ! 他愛ない冗談ですわ!」


「はぁ、まぁいいですけど……それよりドッペルゲンガーです」


「心配ありませんわ! アイツならワタクシがキッチリと息の根を──」


「んなわけあるか! バァカ!! メタルスーツがこれくらいで潰れるわけねぇだろ!!」


 裏道を封鎖する爆炎の中。ノイズ交じりの拡声器が木霊する。


 蜃気楼と黒煙で見えないが、確かにスーツの原型らしき影が揺らいでいた。


「なんですの!?」


「聞いた通りですよ、ヤツはまだ死んでいないってことです! キミはいつもそうですね、すぐ調子に乗って爪が甘い!」


「う、煩いですわね! アレで死なない方が悪いんですのよ!!」


 トドメを刺したくとも、肺の空気すら乾きそうな熱気ににやられて近寄れない。


 好きで口喧嘩しているわけではなく、それしかできることがないのだ。


「コイツを棄てるのはもったいないが……テメェらに掴まるよりはマシだ! あばよ! サイトウの首と賞金は貰ってくぜ!!」


『ボシュン』


【チェック:炎の中の不審な物音】

 通路の奥で、何かが勢いよく射出される音がした。

 おそらくだがメタルスーツの後部に備わっている脱出装置だろう。

 この細道を封鎖されては、どんなに早く見積もっても事務所に着くより先にサイトウ氏が殺される。


「やってくれましたね……」


 ギリ、と唇の端を噛む。


 脱出装置の起動に反応したのか、メタルスーツは更なる爆発を生じて破片が襲う。


 幸いなことにボクはG・Gの腕の中。


 無駄に硬い彼女の特殊カーボンスーツに対しては無力な罠だが、足止めには充分な嫌がらせであった。


「むき~!! ワタクシの獲物でしたのに!! これでは、全然完璧じゃありませんわ~!!」


「ですが……まだ奥の手は残ってます」


「奥の手ですの? あら、そういえばオチビちゃんが見当たりませんわね?」


「つまりそういうことです」


 ボクはコートの内側に隠した銃弾を一発取り出すと、左手に装填して人差し指を天にかざす。


 パン、と小さな空裂音を上げて飛び出したソレは、空中に綺麗な一本線を描いていた。


 頼れる相棒に合図を送るために信号弾である。


 すると、すぐに路地裏の奥から男の悲鳴が轟いた。


「ぎぃやぁぁぁぁ!!」


 悲鳴が止み、しばらくすると、炎の隙間を縫って黒い何かが跳んで来る。


 壁を蹴り、三角跳びで炎の壁を難なく乗り越えて来たのはコテツであった。


 そして、少女が口に咥えているのはサイトウ氏を同じ顔の男性。


「まぁ! ネズミを捕まえたお利口な猫ちゃんですわね!」


「ニャふ! マサム、これでいいニャ?」


「上出来です。 よしよし、キミはどこかのゴリラと違って本当に賢くて助かります」


「なんなんですの!? ゴリラさんだって森の賢人でしてよ!!」


「ニャっふ~! コテツ、偉い子! えへへ~!」


 気絶した男を道路に捨てると、コテツは目一杯にボクの手に甘えて来る。


 コチラもそれに応えて精一杯の甘やかしをしてあげるのであった。

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