FIle:40 揃い踏み
「ななな、なんなんだね、一体!?」
「それを聞きたいのはコチラの方ですよ! 外で何が……?」
激しい振動のあまり、ドアが独りでに開いていく。
そうして視界を塞ぐ板の奥に見えたのは、道路を焼く爆風の波であった。
「ここは市街地ですよ!? どこの馬鹿ですか、ミサイルなんて使っているのは!!」
「ひぃッ!! ヤツだ!! もう一人の私だ!!」
「つまり、ここにいなかった強化外骨格が暴れているわけですか……!!」
「頼む! あとはアイツだけなんだ! 早くやっつけてくれ!」
「簡単に言ってくれますね──」
だが、氏の口ぶりから残党はいない。黒幕の一人だけが外に待ち受けているということが分かる。
ならばとナツメさんを下手に移動させるよりも、ボクらが出向いた方がビルも安全だ。
このまま立て籠もってもミサイルの雨で倒壊しかねない。
「ん……んん……」
「ニャ! マサム、ナツメが起きそう!」
「し~、静かに。 ナツメさん、しばらくこのまま寝ていてください。 煩い近所迷惑のバカは懲らしめて来ますので」
「わ、私はどうすればいい!?」
「氏もここでいいすよ。 どうせ今さら何処へ隠れようと変わりませんので」
「ほ、本当に大丈夫かね……?」
「マサム、強い! コテツも、強い! 大丈夫ニャ!」
「そういうことです。 その代わり、この人を診ていてください。 紳士なんでしょう?」
震える彼にナツメさんをそっと抱かせる。
人の温もり、護らなければならないという使命感、役割を与えてやる。
するとサイトウ氏の顔付はみるみる変化していった。
そこには怯えて青ざめた情けない男の陰は無く、一人の立派な紳士の目付きがボクを見返している。
「ご婦人……そうだな。 私が巻き込んでしまったのだ、命に代えても!!」
「もし起きても、上手く誤魔化してあげてください。 それでは──」
コテツの背をポンと叩くと、揺れ止まぬビルを共に飛び出していく。
外へ一歩踏み出せば、たちまち焦げ臭い煙が鼻についた。
【チェック:黒い煙】
生焼けた肉の焦げる刺激臭。これは人間の焼けた臭いだ。
G・Gに叩きのめされていたハンターが何人か巻き込まれたのかもしれない。
その中に彼女が入っていないことを祈るばかりである。
「G・G! いないのですかッ!」
「オ~ッホッホ!! お呼びかしらぁ、『子犬』ちゃん?」
聞き慣れた高笑い。
そのキンキンと耳鳴りするような声が頭上から響く。
気が付いて見上げる前に、その声の主の方から降りてきた。
「シュタッ! 決まりましたわ──!!」
「はぁ……今までなにやってたんですか……こんな騒ぎにならないように、キミに任せて行ったんですよ?」
「あ! デッカイ人! ニャんかボロボロ?」
「フン! 失礼ですわね! ちょっとスーツが焼けただけですわ! いくら強度があっても特殊カーボンは火に弱いですもの」
そう言い張ると、身体を軽く掃っていく。
身体の方はピンピンしているから心配するなという意味だろう。
流石は全身ナノマシンの塊、サイボーグよりしぶとい女である。
「言い訳はそれだけですか?」
「ワタクシがちょっと百人組手で疲れたところを狙ってきたから、ほ~んのちょっとだけ長引いただけですわ!! 断じて! 苦戦などしていませんわよ!!」
「はいはい、そうですか。 それで、メタルスーツの方は──」
「ぬぁ……? マサム! あっち! ニャんか、コッチ見てるよ!」
「あちらですわ。 本ッッ当にしつこいんですのよ! アイツ!!」
「まぁ、ここで氏を殺さないと、今度は自分の身が危ういでしょうからね。 ハンターがハンターに狙われるのは御免でしょうし」
「あら? 『子犬』ちゃんに、同業のお邪魔虫だって言いましたかしら?」
ボクがメタルスーツの正体に言及すると、G・Gはキョトンと眼を見開いて驚く。
立ち込める黒煙むせた喉をゴホンと鳴らすと、彼女に事情を説明してやる。
ただし、時間も余裕も無いので手短にだ。
「調べて来たんですよ。 あの中身は、サイトウ氏と『同じ顔』なんです。 つまり、キミが本当に狙うべき賞金首はアッチってことです」
「な~~~るほどですわ!! そういうことでしたのね!! んも~!! ワタクシをここまでコケにしてくれるなんて許せませんわ!!」
「その怒り、たっぷりと利子付きで請求してやりましょうか」
「うニャ! コテツも怒ってる!」
「オ~ッホッホ!! さっきまでは多勢に無勢でしたけれど! 今度は逆転開始ですわ!! お覚悟あそばせまし!!!」
盛大に高笑いを上げると、G・Gは指先をビシリと突き上げる。
相手は勿論、ビルの上から爆撃していたメタルスーツだ。
それを宣戦布告と受け取ったか、はたまた仲間との連絡が付かないことに気が付いたのか。
ヤツは脚部のブースターを蒸かしてホバリングしながら降りて来ている。
地に脚着くその前に、拡声器でブレた男の声が響いてきた。
「チッ探偵か……貴様等がいるってことは、中はもうダメか」
視線の見えない全身鎧。それでもコチラを見下している視線はハッキリと感じ取れる。
【チェック:メタルスーツ】
特注のクロオビとは違い、かなり『ずんぐり』とした太っちょ。『ワン・タン』といい勝負だ。
マッスルメタルを使用できないと、ここまで造りに差がでてしまうらしい。
だからといって油断は出来ない。各部は相当にカスタムされており、あのG・Gを手こずらせるだけはある。
「聞くまでもないですが……キミがニセモノ、『ドッペルゲンガー』ですね?」
「ドッペルゲンガー? あぁ~ハハッ、なるほどね。 そうだと言ったら?」
「勿論、殺します」
「ほぉ~? 違うと言ったら?」
「ウチの人間に手を出したこと、後悔させてやります」
「フッ、いいねぇ。 跳ねっかえりは嫌いじゃねぇ。 だが、こっちもケツに火が着いてんだ。 大人しくしてやる義理はないと思えよ」
「んも~!!! ちょっと、アナタ達!! ワタクシを蚊帳の外にしないでくださいまし!! この喧嘩はワタクシが! 先に! 買ったんですのよ!!!」
「はいはい、お金持ちは何でも買えて偉いですね。 それより、ちゃんと事務所を守れなかったんですから、今度こそシッカリしてくださいよ?」
「シッカリするニャ、デッカイ人!」
「むき~!! だったら『子犬』ちゃん! どちらが先に獲物を落とせるか、勝負ですわ!! ワタクシが勝ったら、チョンボもチャラでしてよ!!」
「だから協力してくださいって言ってるんですけど……はぁ、本当に噛み合わないですね、この人……」
いがみ合い、口喧嘩が加熱して連携の崩れているボク達であったが、敵からすればそんな事情知ったことではない。
仲直りを待つバカはいないとばかりに、両腕のバルカンポッドを連射し始める。
『バルルルルルルルルッ!!』
「ぶっ殺す前に聞いておくぜ。 サイトウは中にいるんだろうな? 賞金のためにヤツの首がいるんでな。 手下には顔は潰すなと念を押したが、今じゃ確認もできやしねぇ」
拡声器の声が銃撃音のノイズで聞き取りにくい。
それでもおおよそ言いたいことは分かっている。向こうも獲物の心配だろう。
お互い、首の取り合いのためにこの場へ来たのだ。間違いない。
「まったく、キミのせいで先制攻撃を許してしまったじゃないですか!」
銃弾の横雨を躱しながら、ボクらは路地裏へと駆ける。
「ワタクシのせいじゃありませんわ!! ワタクシせいじゃありませんわ!!」
ともかく射線から外れなければ勝ち目が無い。
ミサイルがあるのでビルの中へ逃げ込むわけにもいかず、ガムシャラに足を動かした。
「ぬぁ……どっちでもいいニャ、この煩いのどうにかして~マサム~!」
コテツは耳を塞いで首を振っている。するとパーカーのカバーが下りてスクリーンマスクに変わった。
埃も防ぐハイテクフードがピッチリと密閉し、幾分か防音機能も果たしてくれるらしい。
すぐにスクリーンの顔文字が笑顔に変わる。
「ニャ! ニャんか聞こえなくなった!!」
「コテツ! もう両手は自由になりましたね?」
「うニャ! 大丈夫!」
「でしたら、爪を使って壁を登ってください! ヤツはボクらを追ってくるはず! 後ろに降りて挟撃しましょう!」
小さく頷くと、コテツはシャカシャカと壁を引っ掻きメガビルディングの彼方へ消えていく。
これで目視では気が付かないだろう。
「んまぁ! 『子犬』ちゃん、ナイスアイディアですわね!」
図体だけはデカイG・Gがご機嫌に肩を組んで来る。
体格が違い過ぎて二人三脚状態だ。走り難くて仕方ない。
「むぐ、ちょっと邪魔です! 暑苦しいので並ばないでください!」
「んまぁ、冷たいですわね~」
「キミはボクの後ろにいてください! 無駄に頑丈なんですから! 弾避けは頼みましたよ!」
「ちょっと! 人をなんだと思ってますの!!」
「ボクより強いんでしょう? それくらいやってくださいってば!」
「そこまで言われたら仕方がないですわね! いいですわ、オ~ッホッホ!!」
「この人、本当に面倒臭いんですよね……」
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