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File:26 ボクの腕・コテツの身体(挿絵)

挿絵(By みてみん)

イラスト作成者:郡山(@koori_yama_160)様

『犬猿の仲』

「あなた怪我してますのね。 ツンツン……んまぁ~こんな安物で応急処置だなんて、不憫ですのね~。 『ウチ』のもっと性能の良いナノマシンを使ったらどうですの?」


「痛ッ! 突かないでください……それに、キミの言う『アリヨシ』の正規品は高すぎです。 ボクを破産させる気ですか」


「あらあらあら、そうでしたのね! ワタクシってば、全身に最高級ハイグレードのナノマシンをぶち込んでいるものですから、庶民の感覚がこれっぽちもわかりませんでしたわ! ごめんあそばせませ~!!」


【チェック:G・Gの身体】

 身体に一切の装甲義体(ハードウェア)を入れておらず、代わりにナノマシン置換(ナノウェア)で補っている。

 筋肉を強化し、肉体を進化させる、遺伝子改造禁止法の網を抜けた人体強化手段だ。

 この女クラスになると、生身でありながらクロオビスーツと同等の戦力になっていることだろう。


「それが自慢したかっただけでしょう、絶対……」


 ボクが脱力していると、彼女はそうだと言わんばかりに高笑いを返してくる。


 この女は会うたびにセレブマウントを取らないと気が済まないのだろうか。


 けれど、こうしたくだらない会話、何気ない日常、敵に狙われる恐怖と隔絶された空気は久しい。


 鬱陶しくとも煩わしくとも、やはりここが我が家なのだと今更ながらに実感する。


 そんな日常を引き裂くように、突然、物騒な物音が鳴り響く。


『ガッシャン、ドンッ』


「今のはッ……!?」


 すぐさまにG・Gの腕をすり抜けると、臨戦態勢のまま慎重に音の出所へと注意を向けた。


 ボクの緊張した声色が伝播したのだろう。ナツメさんとG・Gもピリついた雰囲気に包まれていく。


「まぁ、どうしたのかしら……マサムちゃん、見て来てくれる?」


「もちろんです。 危ないので、ここにいてください」


「お~っほっほっほ! 今こそワタクシの出番ですわね! 悪漢くらい、軽くブッ飛んばして差し上げますわ!!」


「むしろキミの方が危ないので、ここにいてください……ウチを更地にする気ですか」


「それは困っちゃうわねぇ。 一緒にここで待ってましょうか」


「えぇ~、ショボンですわぁ……」


 巨大な女が小柄なナツメさんに泣きつくような仕草ですがりついていた。


 あんな歩く重戦車なんかに暴れられたら、強盗どころの騒ぎではないのだ。


 キツクお断りするのは当然である。同情の余地はない。


 それに、仮に強盗が別口から来ようとも、あのゴリラなら盾にはなるはず。だからこそ非武装のナツメさんに任せるのが適当なのだ。


 これで安心してリビングを離れられる。あとは物音の主とご対面といこう。


「誰です、そこにいるのは──」


「痛っってぇぇ!! 噛みやがったぞ、コンチクショウ!!」


「これは、フカク君……?」


 返って来た返事は、思わぬ人の悲鳴。


 そういえば、ボクより先に上がって来ていたはずなのに姿が見えなかった。


 こんなところで何をしていたというのか。確かめようと部屋の奥へ脚を動かす。


 すると、食糧庫の隅で『彼とコテツ』が取っ組み合っていた。否、一方的にフカク君が負けていた。


「何やっているんですか、キミ達……」


「おい、マサム姉ぇ! コイツの躾け、どうなってんだよ!! いきなり噛みやがったぞ!!」


「フゥーーッ!!」


 見ると、確かに彼の腕にはコテツの口ががっぷりと喰い付いている。見事な一本釣りであった。


【チェック:目の前の状況】

 コテツは全身の毛を逆立て、完全に敵対モードだ。よっぽどのことがあったに違いない。

 近くには封の開いた『ちゅ~ぶ』が落ちていた。個包装の魚の練物だが、おでんよりもペースト状なのが特徴。

 そして、フカク君の工具セットも散らばっている。これで大方の予想はついた。


「まさか、女の子の身体を乱暴に調べようとしたんじゃないでしょうね?」


「違ぇって! ちゃんと餌やったっつの! その見返りに、ちょいと中がどうなってるか気になって……イデデデデ!!」


「ハァ……コテツ、もう許してあげなさい」


「フゥゥゥ……ニャ? あ、マサム! 聞いて! コイツ、悪いヤツ! コテツのこと、閉じ込めてたヤツと一緒!! 嫌い!!」


「だ、そうですよ。 まぁ悪人の弁明も、一応は聞いてあげましょうか」


 コテツは恥知らずの悪人と足蹴にすると、ボクの背後へとすっ飛んで来た。今も後ろから威嚇し続けている。


 どうやら、彼は相当に嫌われてしまったらしい。


「イチチ……クソォ………だいたい、マサム姉が悪いんだぜ? オマエ、猫拾ったって言ってたじゃねぇかよ。 それのどこが猫なんだっつの!」


「いっこうに猫ですが? ねぇ、コテツ?」


「うニャ! コテツ、猫!」


「ほら、どうです」


「いや、どうですじゃねぇよ、無理があんだろ!? 返事してんじゃねぇか!! それに、どう見たって人間だろうがよ!!」


 打てば響くようにツッコミを入れてくれる。やはり、弟を玩ぶのは癒される。


 先程の強引なゴリラペースで荒んだ心が、急速に回復していくのをひしひしと感じられた。


「まぁ、冗談はこれくらいにして……単刀直入に説明すると、この子が例の人体実験の成果物ですよ」


「あん? つーことは、その爪とかも遺伝子改造ってことか?」


「恐らくは……そうだと思いますけどね」


「いやぁ、そんなはずはねぇ!」


 フカク君は勢いよく立ち上がと、コテツにしてやられたらしいグシャグシャのリーゼントを瞬く間に直していく。


 身なりを整え終えた彼はビシリと見栄を張り、そのままボクの後ろにいるコテツを指差した。


「オレ様の眼に狂いがなけりゃぁな、そいつは間違いなく『メタルマッスル』だぜ!」


「なんなんです、それ……? 聞き覚えの無い名称ですが──」


「おっと、聞き覚えがなかろうが……マサム姉もよぉく知ってる物質なんだぜ、これがなぁ!」


「はぁ……?」


「ニャぁ……?」


 ボクとコテツは二人で顔を見合わせ、同時に小首を傾げる。


 何と言われようと、『メタルマッスル』なんて冗談みたいな名前、身に覚えがまるでないのだ。


 それはコテツも同様らしい。


「チッチッチ! 疑うってんなら、自分の腕に聞いてみるんだな。 そうすりゃぁ、すぐに答えが分かるだろうぜ」


 そう言って、彼は左手をコツンと叩くジェスチャーを見せる。


【チェック:鉄の左手】

 促されて指鉄砲(フィンガン)を覗き込む。

 銃口となる指の中は空洞。だが奥には弾丸が込められているはずだ。

 この状態でも関節は自由に動くし、何度撃っても強度に問題はない優れもの。


「これがどうしたって……いえ、考えてみれば今更ですが……なぜこんな空洞だらけの構造で動かせているのでしょう?」


「おっ、流石は姉貴! 気が付くのが早ぇな! そうともよ、普通は無理なんだぜ、そんな芸当はよ!」


「昔から製造も調整もフカク君頼りだったので、疑問にも思いませんでした……『不覚』です……」


「だッはははッ! その台詞をマサム姉から聞けるとは思わなかったぜ!」


 思わずこぼしてしまった言葉が彼のツボを刺激したらしい。腹を抱えてヒィヒィと笑い転げている。


 いつもならボクが主導権を握って玩ぶはずなのに、こうも笑いものにされてはカチンとくる。


 少し荒げた声色を隠しもせず、苛立ちながら続きを促すことにした。


「む……では、ボクの手は『メタルマッスル』なる素材のおかげで動かせていると?」


「そうムクれんなって。 まぁ、だいたいその通りだ。 ソイツは人間のシナプスにも反応するほど、電気には超敏感なんだぜ。 何より面白ぇのは、電気刺激を受けるとグニャグニャ曲がるってことだ」


「なるほど……まさに筋肉」


「しかも、どれだけ形状を変えようが壊れねぇ! 固く柔らかく、伝達率も良いと、まさに夢のような素材っつーわけよ」


「確かに、ボクの左手もやたらと堅いし、壊れたことはありませんね……」


「おまけに日本でしか出土しねぇから、超が付くほど貴重ときてる。 アメリカを産業で追い抜けたのもソイツのおかげからな。 ハードウェア技術が躍進したのもコイツの発見が発端なんだぜ?」


「そんなモノ、ボクのためによく用意できましたね……?」


「おっと、そうでもねぇよ。 マサム姉のは、関節部分に細切れをちょっとづつ入れてあるだけだからよ。 まぁ、それだって長年苦労してガラクタ置き場(ユメノシマ)のスクラップからかき集めたんだがな」


「そうなると、コテツの爪は『規格外の大きさ』ということですか──」

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