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【改稿版】治癒術師の非日常─辺境の治癒術師と異世界の魔術師による運命物語─  作者: 物部 妖狐
第一章 【日常から非日常へ】

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第5話 飯を待つ間 ダート視点

 ──そんなわけで、運が良い事にばあさんが言っていたバカ息子に助けられて、そいつの家でご飯をご馳走になる事になった。

あんまり、人の家に関してとやかく言うことじゃねぇのは分かっているけれど、ばあさんの屋敷と、似たような匂いがすると思ったのが個人的な感想だ。


「お、良いところにテーブルとイスがあるじゃん!俺はここで座って待ってるから早くしてくれよ?」


 腹が減り過ぎてもうダメかと思ったが、やっと飯が食えると思うと、思わず嬉しさから顔が緩んでしまう。

後は、飯が来るまでの間、椅子に座りながら疲れた身体を休ませて貰って……けどその前に窓を開けて新鮮な空気を取り入れる。


「すぐに用意しますから、しっかりとそこで待っててくださいね?」

「おぅっ、ちゃんと待ってるぜ?だから早く作ってくれよ?」


 待ってるとは言ったけれど、何故か俺の顔を見たままだらしがない顔をしてやがる。

黒い髪に特徴的な青い瞳、そして芸術品のように整った容姿で見られるのは、悪い気はしないけど……少しばかり気恥ずかしい。


「……ん?おぃ、どうしたんだよ、飯を作ってくれるんじゃねぇの?」

「え?あ……いえ」

「あぁ?どうしたんだよ」


 気になって声を掛けたけれど、返事がなんだかそっけない。

……遭難している間、風呂に入る事もできなければ、汚れた服から着替える事もできなかった。

途中で川でもあったら、身を清めることくらいは出来ただろうが……それすら出来なかった……つまり今の俺は臭い。

もしかして、あまりの体臭のきつさに黙っちまったんじゃねぇのか?けど冒険者をやっている以上、依頼次第では野営を行うことぐらいなら多々あるから、これに関してはしょうがないとは思うけれど、初対面の奴に臭いと思われるのは女として嫌なものがある。


 まぁ……悩んでもしょうがないし、今更臭いを気にしたところでそう思われちまったのなら、もはや手遅れだ。

ここはもう諦めて、飯を作ってくれている間、適当に周りを見たりして暇をつぶそう。

とはいえ……テーブルには小難しそうな題名の本が一冊あるだけで、それ以外にはこれといって、興味が惹かれるようなものがない。

とはいえ大人しく座っていても、空腹感を我慢するのが段々辛くなっていくだけだから嫌だ。

それなら、内容が頭に入らないだろうけど、読んで暇を潰した方がいい。


「なぁ、この本読んでもいいか?」

「あ、はい……全然構いませんけど、大事な物なので汚さないでくださいね?」

「人の物を汚しやしねぇよ……ったく、んじゃ読ませてもらうぜ?」


 さすがに勝手に読むのは悪いから、声を掛けてから読み始めたけど……薬草に関する説明ばかりだ。

確かにこれは治癒術師にとっては大事な本だろうから、汚されたくないのも納得が行く。

なんせ、こいつの事をバカ息子と呼んでいたばあさんが、毎年情報を更新しているのを知っているからな。

俺もたまに依頼を受けて指定された薬草類を集める時があるが、危険な割には報酬が安いせいで、正直割にあってねぇ。


「……しかしまぁ、こいつがあのばあさんのバカ息子ねぇ」


 思わず口に出してしまったけれど、正直もうちょい性格が悪い奴を想像していた。

けど実際は、初対面の俺に対して飯を作って食べさせてくれる良い奴で、全然イメージと違う。


 それにしても、本の内容が難しくて全然わからねぇ、

……俺が治癒術師じゃなくて、魔術師だから当然なのかもしれないけれど、源流が同じなのにどうしてここまで理解が出来ないのか。

理屈としては、魔術はイメージを形にして相手にぶつければいいだけなのに、治癒術は生物の構造を理解するという、頭が良い奴じゃねぇと出来ねぇような小難しい事を求めて来る。

という事は……こいつも野蛮な俺とは違って頭が良いんだろうな。


「……それにしても飯が出て来るのがおせぇな」


 作って貰ってる癖に何を言ってるのかとは思うけど、正直言ってそろそろ本当に空腹が限界だ。

とはいえ、さすがに早く出せと大声でせかすわけにはいかねぇし……、いや、もしかして俺が何が食いたいのか分からなくて困ってるのかもしれない。

飯屋に行ったらウェイトレスが注文を聞きに来るけど、ここは飯屋じゃねぇ……ちゃんと俺から食いたいもんを言わねぇとな……。


「あっ……そうだ!俺は肉が好きだから、出来れば肉を入れてくれよな!無かったら我慢するけど!」


 とりあえず大声で聞こえるように伝えたから、何を出せばいいのか悩んでいても大丈夫だと思う。

けど、料理が出来るのは良い事だ……俺は塩を付けて肉を焼くことしか出来ねぇから、もし出て来た飯が上手かったら、ばあさんのところに連れて帰る道中でこいつに作らせてもいいかもしれねぇ。


「……それにしてもなんつーか、良い匂いがしてきたな」


 これはうめぇもんが食えるかもしれねぇと期待で胸が高鳴る。

とりあえず飯を飯を食って落ち着いたら、色々と込み入った話をさせて貰おうか。

そう思いつつ、読んでも内容が全然理解出来ない本を読み進めることにした。

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