38 殺される前に殺戮。
※残酷な描写ご注意※
生まれたての赤子の時からこの孤児院にいるルジュとは、長い付き合いだ。
一番の長い付き合いの幼馴染。互いの性格上、喧嘩一つしたことなかった。
そんなルジュが、私を敵と見做して睨みつける。裏切ったと決めつけて敵意を示す。
私はその敵意に怒りを覚えて睨み返した。私だってこうなってしまって大変遺憾なのに、私に敵意をぶつけられても、噛み付き返したくなる。
そんな私とルジュの間に入って止めるのは、レフだ。
「やめろよ! ベラも! ルジュは本気じゃない! ただっ、こんな状況だから、八つ当たりしただけで、本心なんかじゃ」
「関係ない」
ルジュの敵意が、本気じゃないただの八つ当たりだとしても関係ない。もうどうでもいい。
「それより、何かあったの? 明日には安全な王都に向かってもらおうと思って、準備してって言いに来たのだけど」
ルジュなんて置いといてなんとか怒りを鎮めて、落ち着いて状況を把握しようとした。
そこで飛びついてきたのは、ミリー。私に必死に抱き着いてくるミリーは、上手く喋れないほどに泣きじゃくっている。
泣きじゃくっている理由を話したのは、孤児院の院長。
「今日孤児院に来た新参者の人達が……今夜、ミリーを連れて行くと宣告されました」
青い顔で震える声で、打ち明けた。
早速だ。あまりにも手が早い。この孤児院で一番美しい少女はミリーだ。連中はミリーから、連れ去るつもり。
「チッ! なら、今すぐ、見付からないように裏から脱出を! マラヴィータ子爵邸には、秘密の地下室があるから、そこで一旦匿う! 全員です!」
計画を変更。明日まで待てない。けれど、出発するには手配が間に合わない。だから、今夜は地下に隠す。
秘密の地下については、同じく古い屋敷に住む犯罪組織も知っている可能性があるが、マラヴィータ子爵邸には乗り込まないという賭けに乗るしかない。
バタバタと院長達が最低限の荷物をまとめる中、怯え切って泣きじゃくるミリーをきつく抱き締めて宥めてやる。
「オレも……王都に行くべき?」
レフが尋ねた。自分も一緒に孤児院のみんなと行くべきなのか、と。
「孤児は絶好の獲物だから、見付かるのはマズい。それに、ミリーについていって。私はいけないから」
ミリーの頭を撫でながら、私はレフにそう頼む。
「わかった。……でも。オレは必ず、戻るから」
レフは戻ると宣言した。
「絶対にベラの元に……」
レフの言葉の途中で、騒ぎが聞こえた。外だろう。
もう夜だ。連中が狙い通り、ミリーを連れ去りに来たのだろう。
院長達の悲鳴が耳に届く。暴力を振られている音も聞こえてきて、堪らずにルジュとレフが飛び出す。
「みんな、ミリーと一緒に隠れて。私がなんとかするから」
他の子ども達にも、ミリーと一緒に隠れるように告げて、遅れて私も飛び出した。
犯罪組織であろう男が二人。突き飛ばされたのか、ローリーが倒れていた。院長も、暴力を受けたのか、膝をついている。
ルジュとレフが食って掛かっていたが、大人の男に敵うわけもなく、殴られて蹴られていた。
「やめなさい!」
「あ? 領主様のお嬢様じゃねーか」
「警告よ、この場から立ち去らないなら、魔法で攻撃するわ」
「何毛を逆立てているんだよ。田舎の令嬢にしては美人だ」
下卑た笑みを浮かべた男が手を伸ばしてくる。
私の髪に触れてくるから、バシッとその手を振り払う。
それでカッとなったのか、その男は私を殴りつけた。
生まれて初めて受けた暴力に、受け身も取れず、玄関に頭をぶつけて倒れるしかなかった。
「「ベラ!!」」とルジュとレフの声がした気がするも、反応が出来ない。
「おい。領主の娘は、マズいだろ。そういう約束だったじゃねーか」
「はぁ? こんななんもねー領地の子爵なんか、こわかねーだろ! むしろ、こんな容姿を売らなくちゃ損だろ?」
「たっく。だから、領主も、娘をさらって売るって仄めかせただけで、ビビったわけだ」
ゲラゲラと、男の嘲笑いが響く。
視界が揺らぐ。定まらない視点で見えたのは、冷静でいられなくなったのか、魔物化したレフの姿。緑色のグラデーションの大きな翼を動かして風の魔法で、私を殴った男を吹き飛ばす。
「魔物だと!? 殺すのは、もったいないよな!?」
男が下種なことを言っては、ボウガンを構えた。飛び回って避けようとしたレフだったが、大きな翼を射抜かれた。
ルジュも反撃を試みようとした姿が視界の端で見えたが、魔法が発動する前に腹を蹴り飛ばされてしまう。
レフは翼を負傷し、ルジュも倒れた。
頭を打ったことで、ふらつきながらも、私は立ち上がる。頭に触れた手には、血がべっとり。真っ赤だ。
前世の死を思い出す。
前世もそうだ。
理不尽に、殺された。ストーカーが不法侵入までしてきて、いきなり首を切りつけて――――。
私は自分の血に溺れて死んだ。犯罪者に殺された。理不尽に殺された。
血に濡れる手。こめかみから出血が止まらないのか、輪郭を辿って落ちる血。きっと私の白銀髪も、血に染まっていることだろう。意識が朦朧としたままの私の思考回路は、めちゃくちゃだ。
けれど、伸ばされた手に、ほぼ反射的に反応した。右手首のブレスレットであるミニハクを、短剣に擬態させて、私の顔を覗き込んだ男の首を掻き切る。
崩れ落ちた男は、その傷の深さで、すぐに足元で絶命した。
前世の私のように、自分の血で溺死することはないだけ、マシな死に方だと冷たく思う。
「や、やりやがったなっ……!」
残るボウガンの男。矢を向けてきたが、私の魔法の方が早かった。
電光石火の雷の魔法を、ぶつけて丸焦げにする。今まで人にはぶつけたことのない威力。倒れたあとも震えているようだが、息絶えるのも時間の問題。そのまま死んでしまえばいい、とまた冷たく思った。
ドクドクと、頭の傷が脈を打っている気がする。また頭に触れようとしたが、私の両手はもう殺した相手の返り血に染まってしまっていた。呆然とその両手を見ていれば、ポタポタと滴り落ちる。
「ベ、ベラ……」
誰に呼ばれただろうか。わからない。
まだ意識が朦朧としているかもしれないが、今すぐにでも、するべきことがある。
「このことが知られたら、報復される。その前に……全員の息の根を止めるわ」
殺される前に、殺す。
理不尽な暴力を振るう相手には、理不尽なほどに強力な暴力で根絶やしにする。
それしかない。
冷静に努めたら、酷く大人びた声が出た気がする。けれど、必要な指示を下す。
「院長達はミリー達を連れて、マラヴィータ子爵邸に。必要最小限の荷物で、ジェラールに聞いて地下へ。レフはソードンさんが街にいるはずだから、悪いけれど、飛んでいって、街にいる連中を見付けたら動けないくらいに怪我をさせろと私の命令を伝えて。多いようなら、狩人でも兵士でも、みんなで捕獲させて。屋敷にいる連中の方は、私一人で皆殺しにするから」
指示は明確。そして、嘘でも冗談でもはない。
「ベラ! やめろ! 今、強い魔法を使ったし、何も一人じゃなくても! ソードンさんも大人も待ってっ」
よろめきながらも、私の肩を掴んで止めてきたルジュ。
「時間はない」と、待っている暇はないと告げる。
「じゃあ、オレも!」
一緒に行くと言い出すルジュの黒を帯びた魔力を、根こそぎ奪った。
魔力切れの症状で、ルジュは膝から崩れ落ちて倒れる。
「「!!?」」
「ルジュの魔力を奪っただけ。悪いけれど、ルジュは動けないから、運んで」
「ベ、ベラッ……」
止めたそうに手を伸ばしても起き上がれないルジュを、院長に頼む。
それから、次はレフに目を向ける。
「ソードンさんに、伝えてくれるわよね? それとも、あなたも、魔力を奪われて倒れたい?」
ブンブンと首を振るレフは、私の指示に従うと承諾した。
そのレフは魔物の姿。金髪は、先の方は羽毛。手には鋭利な爪。背にあるのは、緑色のグラデーションの大きな翼。右の翼に刺さったボウガンの矢を抜き取り、動かす。なんとか飛べそうだと確認をした。
「悪いわね。魔物の姿をさらさせて」
「ベラ……」
今まで魔物の姿を隠していたのに、それを領民にさらすことになる。それを謝罪しておく。
けれども、レフに頼むしかない。
「急いで」
「っ! すぐ呼ぶから! ソードンさんも、他の大人達も連れて行くから!!」
レフは約束して、急いで街へ飛び去った。
「ベラっ……!」
ルジュの手が伸びてきたけれど、院長に抱えられた彼の手は届かない。
頭の傷は痛むが、血を拭う。ルジュから奪った魔力を使って『風ブースト』で、素早く移動。
例の屋敷の前に到着すれば、私の気配に気付いた猫の姿のハク達が集まった。
門番はいない。タマに内側に入ってもらい、門を開けてもらう。
「連中は屋敷内にいる? 何人?」
門を潜りながら問うと、ハクはその場におすわりをして前足をぺしぺしと叩いた。
その叩いた数を数えれば、十五回。中にいる敵の人数だろう。
「この敷地内から、出ようとする犯罪者は足を食いちぎってもいい。抵抗するなら、殺しなさい」
ハク達にも、冷酷な命令を下す。私の命令に従うハク達は、獰猛な大型の魔獣へと姿を変えた。逃がさないように、裏手に回るキジとミケ。タマは一匹、二階へと上がっていく。
私はハクが押し破った玄関から、堂々と入った。
敵は十五人か。魔法を使って皆殺しにするには、魔力が足りない。
ずっと使うべきかどうか、答えが出ないままだった『魔力ポケット』。その中の魔力も使い切るつもりだ。
例え、魔力切れで死んだとしても、ここにいる犯罪者どもは皆殺しにする。
玄関から押し入ったことにいち早くに気付いた男に魔獣姿のハクが飛びつき、喉元を食いちぎる。
次から次へと何事かと出てきた男達は襲撃に気付いて反撃をしようとしたが、私はまた電光石火の雷魔法を放って殺す。武器を持つ者から優先していく。ハクは器用に魔法を避けるために、壁を駆けて飛び込んだ。
「おりゃあ!!」
「っ!」
突き当りの廊下で待ち構えていた敵に、バッドを振り下ろされた。咄嗟に左手を盾にしたため、直撃した左手に激痛が走る。
魔力が減った私は、ここまで接近した相手の魔力を使ってしまおうと、魔力を瞬時に浸透させて爆発させた。男の上半身は吹っ飛んだ。
驚いた。意外と相手の魔力を遠隔操作して、自爆をさせる手が使えるみたいだ。
なら私の『魔力ポケット』の中の魔力を、使い切らずに済むかもしれない。
相手が使おうとする魔力の方が操りやすい。なんて、場違いにも、学ぶ。
右手には、ミニハクが変形した短剣を握って振るう。一人、また一人と殺していく。
魔法をぶつけられた時だけ、自分の魔力を使って防いだ。
『万能眼』を持ってすれば、相手の魔力の動きも視えるし、操るのは簡単だった。
廊下に血が飛び散り、血の海になる。男どもの死体が転がっていく。
裏手から入ってきたキジとミケと合流した。ちゃんと見逃さないように殺してくれたようだ。
クイッと顎で魔獣姿のハクが、執務室であろう部屋の扉を示す。残りはここか。
確かに、家主の男が入っていく姿を見た。
私が頷きで合図を送れば、ハクが蹴破る。火魔法が放たれるが、それを魔力操作で打ち消す。
避けたらしいハクの無事を一瞥して確かめたあと、机の向こうの男と目を合わせる。
「やめてくれ! やめろ! 何が望みだ!? 許してくれ! 命だけは!」
犯罪組織のリーダーのくせに、錯乱した様子で命乞いをしてきた。ガタガタと震えて、壁の隅で腰を抜かしている。初対面の不愉快な笑みなんて影も形もなかった。
だが、慈悲をかけるつもりはない。
「ハンッ。好きに暴力を振るってきたのでしょ? 存分に理不尽な暴力を受けて、怯えて死ねよ」
吐き捨てた私は、短剣の形をしていたミニハクをブレスレットに戻し、机の上のペーパーナイフを手にした。
「刃物は、よく研ぎ澄まされた鋭利な刃の方が、傷が鮮やかな切り口になるから痛みが軽いのよ」
「ま、まさかっ」
「これで切れば、かなり痛いでしょうね」
「ば、バケモノめッ!!!」
そう罵倒されても、私には何も響かない。冷酷に一瞥するだけし、無駄な足掻きをしないよう足で押さえつけて、ペーパーナイフを喉に突き刺す。『万能眼』で、わざと急所を狙った。
倒れた男は、自分の血で噎せる。
「自分の血で溺れて死ぬって……とっても怖いでしょ」
前世の私と同じ死に方を見つめた。
この領地に手を出そうとしたのだ。苦しんで死ね。
1話目の冒頭シーンをようやく回収いたしました!
長かった……!!
領民を守るための決断。悪の手が伸びる前に、悪を根絶。
いや、根絶は出来ませんね。しかし、領地に土足で入った犯罪者どもの大半は、皆殺し完了です。
ベラの冷酷さにリアクションください!
ポイントもブクマも、励みにさせてください!
よろしくお願いいたします!
2026/02/07




