源の燭台〈4〉
エリカ・リシュルドルフ・レイヴァ。
アキラ=ヤナギに剣をむける女性の名だった。
ーー貴方が志す想いを開示しなさい。
エリカのアキラに促した目的は、何の為なのか?
アキラは、エリカに何を応えるのか?
そして、たどり着いた場所にリーナ=キリシマは居るのか?
物語は、翠。
アキラに、新たな試練が待ち構えたーー。
***
「《称号》は、此れからの『時代』に要らない。俺は【此処】で強く誓った。必要なのは誰かを支えて共に生きること、大切なモノはけして手離さない、自分らしさは何かということに気付く。此処にいる皆から学んだことを、俺は大切に想う人と『歴史』として刻める。遠い未来にまで繋げることが俺の役目だと、あんたにいうっ!」
目の前にいるエリカに、アキラは睨み付けた。
「本気なのね」
「ああ、そうだっ! あんたが俺の言葉をどう受け止めようが何だろうが、あんたと闘うしかないだろう?」
アキラを見据えるエリカ、エリカを睨むアキラ。
エリカは剣の切っ先をアキラにむけて、アキラは拳にした掌から緋色の炎を焚かせて直立不動の姿勢の状態で口を突く。
「無駄な闘いは、致しません。アキラ、でしたね? 少々無鉄砲なところがありますが『男』としての勇姿は、見込みがあります。良いですか? あくまでも、貴方の今の揺るぎない心に私が身を引く。其処をしっかりと胸に刻ませるのですよ」
エリカは、凛として澄みきる声でアキラに言うと、剣を鞘に納めた。
エリカは兜を脱いで腰をおろして雑草がはえる地面に静かに置く。そして、立ち上がると鎧、籠手、靴と身に纏う全ての防具を脱ぎ、七分丈の薄紫色のパンツと翡翠色が光沢する袖無しのトップス姿となって、漆黒の長い髪に手櫛をした。
「久しぶりですね、ミリィ」
エリカの顔は、やわらかく。女性らしい仕草をしていた。
「はい~っ! エリカさん。本当に……。お懐かしゅうございますぅう~」
ミリィは声を震わせて、目から溢れる涙を拭うこともせずにエリカを見つめた。
「あなた達は、知りあいだったのですか?」
アキラは、咄嗟の出来事に呆然とした。
「【此処】に集う……。偶然ではない、運命と縁の糸に手繰り寄せられたと、思います。糸の役目をされた方は、貴方ならば察する筈です」
エリカはアキラに歩み寄り、笑顔で言う。
「ご案内を、お願いします」
アキラは、エリカに深々とお辞儀をしたーー。
***
エリカは、アキラ一行を《ろうそく立て》の建物を塞ぐ木の扉前に連れてきた。
「【此処】では《源の燭台》と、呼ばれています。ある世界では『灯台』という呼び方をしています」
エリカは扉の取っ手に右手で掴むと、扉を建物の外側へと引いて開く。
真っ暗だ。と、アキラは中に入ると辺り一面を見渡している最中、扉が閉まる音にアキラは呼吸を止めるように驚愕する。
アキラは焦るあまりに暗闇の中で出口を探す。手で触れるのは、石を積み上げた壁。歩けば、褄先に硬い固体が当たり堪らず悲鳴をあげるをするばかりだった。
「慌てないで、アキラ」と、何処からかエリカの声がした。
「エリカさん、あなたはやっぱりーー」
「落ち着きなさい。先程、私があなたに言ったことを忘れたのですか?」
アキラが険相をして身を構えていると、暗闇に蒼い炎が照らされる。
「私は蒼い炎を操る能力があるの。そう、あなたと同じく“幻人”の血が私の中に流れているから……。」
蒼い炎を掌で焚かせるエリカがアキラに言う。
「あなたは、一体何者なのですか?」
「……。先ずは、やるべきことをすませなさい。すべてが終わったら、お話を致します。勿論、ミリィとソールを含めてです」
エリカは掌の蒼い炎を建物内に解き放す。
炎は高く、上にと螺旋状となって次々に蒼白く焚き付けていく。
ーー私が出来るのは此処までです。アキラ、先はあなたの目と脚で確めなさい……。
声と共にエリカの姿は消えるーー。
***
点々として、螺旋状に焚かれる蒼い炎を道標にして、アキラは上へ、上へと歩いて昇っていく。
途中で足元の感触が気になり、アキラは足を止めて靴底を押し当てる。
階段を昇っている筈なのに、足場がない。証拠に下を見下ろすと最初にいた場所がはっきりとみえていた。
考えてもきりがない。と、アキラは、今度は駆け足で階段を昇っていく。
ーー糸の役目をされた方は、貴方ならば察する筈です……。
同時に、少し前のエリカの言葉を思い出した。
一緒に来た『仲間』達は、エリカがいう《源の燭台》の外で待つことをした。だから、アキラはひとりで《燭台》の上を目指すをしていた。
誰も傍にいない。そんな状況で、アキラはひたすら上を目指した。
まるで階段を昇りきった。アキラは、点々として焚きつく蒼い炎を目印にして、途切れたところで足を止めた。
見渡すかぎり、さらに先に行くための道標は見当たらない。それでもアキラはおそれることなく、再び歩くことを始める。
今度は、直進して歩く。そして、再び螺旋状となって上を昇っていくを、アキラは繰り返した。
時がたつ感覚はなく、アキラはひたすら昇っていた。
アキラは立ち止まって、前方に見えるうっすらと瞬く薄紫色の光に気付いた。
アキラはのどを鳴らして、光へと歩み寄り始める。
徐々に光の瞬きがはっきりとしてると、アキラは思った。
この先に。と、確信したかのようにアキラは、はや歩きをした。
そして、ついに。その時が訪れたのだった。
《燭台》の出入口と同じ形の扉。アキラは躊躇うことなく、扉の取っ手を右手で握りしめた。
扉を、内側へと押して開く。
薄紫色の光が照らされている。アキラは、いよいよ確信をした。
「リーナ……。」と、アキラの濃青色の瞳を輝かせ、呼んだ方向へとまっすぐと歩いていく。
たどり着いた場所の中央にゴブレットの形をした燭台が二本置いてあり、それぞれに薄紫色の炎が焚き付けていた。
アキラはとうとう、来た。
燭台をはさんで置かれている乳白色のベッドの上に、リーナが薄紫色の装束を身に纏い、横たわって静かに寝息を吹いていたーー。
「リーナ、僕は来たよ。だから、起きて」
リーナのやさしい寝顔を見つめながら、アキラは言う。




