諸々の不安を抱えながら
帝都に呼ばれるのは2回目だ。この前は意味不明な裁判に付き合わされて、ツンドラ候の館で毎晩のようにドンチャン騒ぎを繰り返していたっけ。一応、最低限の利益というか、実力で支配していたウェルシーの領有を公に認められたけど、帝国宰相には、うまく丸め込まれてしまった。
今回は、もし、ゆっくりできるようなら、帝都の名所旧跡を見て回ることにしよう。
プチドラは、執務室の机の上に立ち上がってわたしを見上げ、
「マスター、なんだか楽しそうだけど、どうしたの?」
「楽しそう? そう見えるかな。せっかく帝都に出向くなら、観光旅行も兼ねてと思って」
「余裕だね。観光旅行もいいけど、油断しすぎないようにね」
「分かってる。帝国宰相の前でボロを出すことは、絶対にないようにしないと」
わたしがそこはかとなく物見遊山の期待で胸を膨らましていると、ドーンが執務室に入ってきて、
「カトリーナ様、それほど大変なことではありませんが、一応、お耳に入れておきたいことがございます」
なんだか微妙な表現だ。それほど大変ではないが、耳に入れておきたいこと?
ドーンによれば、混沌の勢力が宝石産出地帯に大挙して押し寄せたが、猟犬隊の奮戦によって撃退されたとのこと。確かに、撃退できたなら、大変なことではない。ただ、この前は混沌の領域からあっさりと駆逐されてしまったのに、今回は敵の攻撃を簡単に撃退できたというのは、なんだか妙な話だけど。
「詳細については照会中ですが、今回の敵軍は言わば烏合の衆で、たやすくやっつけることができたそうです。前回は犠牲をものともせず、基地外じみた突撃精神でわが軍を圧倒したのですが、今回はからっきし意気地がなかったとの話です」
「そういえば、あいつ、あのハーフ・オークは?」
「ヤツですか。ラードのような魔法使いは確認されていません。敵側から見れば、とりあえず攻撃してみたが、手強そうだったので退却したということではないでしょうか」
出発前に気持ちの悪い話だ。今回の攻撃ではカオス・スペシャルを使っていないようだし、ラードが指揮をとったわけでもなさそうだ。試験的に攻撃してみて、こちらの様子を見たのだろうか。だとすれば、次の攻撃が本番ということになる。もし、ラードが前線に出て魔法を使って攻撃をすれば、猟犬隊で防ぐのは難しいだろう。
仕方がない、メアリーとマリアには親衛隊とともに、宝石産出地帯の守備についてもらおう。魔法科も、しばらくの間は場所を移転することになる。
こうして、諸々の不安を抱えながら(しかし帝都観光は期待しつつ)、帝都への出発の日を迎えた。わたしは後ろ髪を引かれる思いで、伝説のエルブンボウなどの荷物を風呂敷包みに詰め込み、隻眼の黒龍の背中に乗って、帝都に旅立つのだった。




