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百合百景 ~二分で読める百合短編~  作者: 荒井チェイサー
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恐怖症の神様

「『明日は目が覚めないといいな』って歌った人、誰だっけ?」

「……誰だっけ」

「もう、綾ったら忘れてたの?」

「奈々もでしょ」

「私は綾が聴いてたのを隣で聴いてただけだから、覚えてなくて当然よ」

「そう」

「ああ、でも、なんだか黒い髪がすごく綺麗な人が歌っていた気がする」

「そっか」

私は奈々の細くなった手を握る。

強い薬のせいで、現実と夢、過去と現在もわからなくなっているか弱い彼女の手を握る。

「ねえ、奈々。なんで、いきなりそんなことを言うの?」

「その歌詞が素敵だと思うからよ」

「そう」

辛い現実よりも、素敵な夢を奈々は選びたがっている。

「じゃあ、奈々……私と一緒にそういう世界に行く?」

彼女が手を握り返し、頭を私の胸に預けた。

「綾となら……いいかもね」

胸にある死の色をした染みが広がって、優しく心を撫でるのがわかる。

2人で死ねたなら、幸せかもしれない。

神様が与えた試練に抗うための愚かで甘美な手段を、選びたくなる。

「馬鹿」

「綾こそ」

胸の中で奈々はそう言って眠り始めた。

彼女をベッドに寝かせて、その唇に口づけをする。

あの歌詞の後に続く言葉を彼女は思い出せないようだった。

歌詞は、こう続く。




太陽が昇った『明日』が来て、私を笑ったーーーと。




その歌詞に願いを込めながら、恐怖を与えようとしてる神様を呪った。

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