何回でも、おやすみを聞かせて
佳奈が飲んでいるうつ病の薬は、眠る前にしか飲むことができない。
あまりにも強い眠気がくるから、というのが理由だ。
最低限の生活以外、ベッドの上でしか過ごすことができない彼女にとっては『眠る前』というのは存在しない。
朝、昼、夜。
その区別なく彼女は生きている。
だから、私が毎食後に彼女にこの薬を渡している。
「沙耶ちゃん、ありがと」
心が弱りきった彼女が発するその言葉に、胸が痛くなる。
彼女をこんな風にした会社が憎い。
頑張りすぎて、こんな風になってしまった佳奈に対して、何もしないあいつらが憎い。
心の中をかき乱すその気持ちをどうにか押さえつけて、私は佳奈に微笑みかける。
「いいよ。じゃあ佳奈、寝よう」
独り寝用の布団に潜り込んで、彼女の手を握る。
彼女の手がギュッと握り返してくれて、手からじんわりと温かさが伝わってくる。
私の中の黒い気持ちが、佳奈にまで伝わりませんように。
彼女がうつ病になったその日に信じなくなった神様に、祈ってしまう。
彼女の手から力が抜けていき、安らかな寝息が聞こえてくる。
今度は私がその手を強く握る。
彼女の中にある、どうしようもない憂鬱な気持ちがこちらに流れてきてほしいと思いながら。
ギュッと、その手を握る。




