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百合百景 ~二分で読める百合短編~  作者: 荒井チェイサー
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あたりまえ

 プールの授業ほど困るモノは無い。

 折角していた化粧は入る前から落とさなきゃいけないし、水着は肌の露出こそ少ないが、体のラインが出て恥ずかしい。何が恥ずかしいって、アタシの体には断崖絶壁があるからだ。豊かな脂肪の詰まった袋は、無い。あるのは、絶望と言う名の壁だけだ。自分がここに上ろうとするロッククライマーなら『絶壁』という名前をつけるだろう。

 そんなプールに入り終えると、心がささくれ立った。泳げたとか泳げない以前にめんどくさすぎてイライラしてしまう。

 机に突っ伏して寝ようとすると、頭からタオルを被せられた。

「薫子、頭ちゃんと拭きなよ」

 友人である奈美恵がそう言うと、頭を撫でるようにして拭いてきた。

「薫子の髪の毛はふわふわでキレイなんだから、ちゃんとしてやんないとダメ」

 世話焼き女房かよ、なんて心の中でツッコミをいれながら、ワシャワシャとされる感覚を存分に味わう。

 なんだか気持ちいい。

 このまま寝られたら、どんなに気分がいいだろう。

 布と髪の擦れる音を聴きながら、瞼を閉じる。

 眠りの世界に自分が消えていきそうになる直前に、なんで髪の毛を拭かれるのが気持ちいいのかに気付いた。


 当たり前だ。

 自分の好きな人に拭いてもらっているのだもの。

 頭を撫でるよりも丁寧に、慈しまれながら、愛でてもらっているのだから、当たり前。

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