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百合百景 ~二分で読める百合短編~  作者: 荒井チェイサー
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水着は、去年と一緒でよろしいですか?

 自分が女という生き物であるのが嫌な瞬間というのは、山程ある。

 けれど、それ以上に楽しいと思える瞬間があるから、私は女でいられる。

 だけど今、その『嫌な瞬間』の前にいる。

 毎年毎年更新される洋服の流行から少し外れる水着選び。

 去年の水着を使えばいいのだけど、それは、自分の中のプライドが、というよりも、他の女の子の視線が痛い。

 高校最後の夏休みだし、進学組の自分は海に行くのもプールに行くのも少ない回数だろう。たかだか二、三回しか使わない水着のためにお金を使うのも、なんだか馬鹿らしい。

「やっちゃん、決めた?」

 水着売り場で鬱々と考える私の後ろから、泰美が声をかけてきた。

「いやー……どうせ海とかプールとか行かないだろうし、今年は買わなくていいかなー……って」

 目線をそらして前を向くと、泰美が後ろから抱き付いて来た。

「んじゃあ、しょうがないねえ」

 溜め息を吐きながら泰美が耳元でそう言ってきたので、少し悲しくなった。

 就職を決めている彼女は、今年の夏休みは遊び惚けるだろう。

「特に意味もなく大学には行きたくないし、親、苦労させられないから」

 三年生になる少し前、悲しそうに、でも、何かを悟ったかのような彼女の顔がいまだに忘れられない。

「でもさあ、来年は行こうねえ」

 泰美が少し強めに私を抱き締める。その腕に軽く手を添えながら、呟く。

「来年だけじゃなくて、毎年行こうよ」

「当たり前だよお……そんなの、当たり前……」

 Tシャツの背中に温かな染みが広がる。目の前の景色が水に溺れるのを防ぐために、上を向いた。

 冷房の風が目に当たり、溜まり始めている涙を少しだけ乾かした。

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