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百合百景 ~二分で読める百合短編~  作者: 荒井チェイサー
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ジダンダ

「おっはよー!」

 マナミの背中に微かな柔らかさと、そして、確かな重さがかかった。

「だーかーらー……!」 怒りをこめながら振り向くと、同級生のアスカがニヤニヤしていた。

「いきなり背中にぶつかる挨拶やめろっての!毎回毎回お前の無い乳がぶつかって痛いんだよ」

 誰に聞かれても構わない、今、この言葉が言えるなら、という思いを声量に出しているかのようだ。

「んー、愛情表現だし?」

「やめろってば!もうっ、ウザい!」

 日向ぼっこで縁側に伸びる猫のように、背中でまったりとしていたアスカは振り落とされた。

 そのまま前に進もうとするマナミに聞こえるように、口を尖らせて囁く。

「じゃあ、やめよっかなー」

「そうね、やめなさい」

「じゃあ、マナミ以外にやろうかな」

「や……」

 アスカは卑怯だ。

 他の人にそんなことをするのを、簡単に容認なんかできない。

 こんな風にのし掛かられたら、慣れた人じゃないと怪我をするかもしれないのだ。

「もうっ、ウザいっ!」

 足で地面を蹴りながら『アタシにだけやれば』という言葉を飲み込む。こんなこと、言えない。目の前でニヤニヤしながら、そう言ってくるのを待つコイツの前では。

 頬に、熱が集まるのがわかる。だけど、それが怒りのせいなのか、恥ずかしさのせいなのかだけは、わからなかった。

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