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気紛れは猫のようで、白髪のようで。
「ねえ、ここ」
昼休み、机に突っ伏して寝ていると隣のクラスの楓香が私の髪の毛の一本を摘まむとクイクイッと引っ張った。
「痛っ……何するのよ!」
「いや、だって……白髪生えてるし」
摘まんだ髪の毛から指を離そうともせずに彼女はそう言ってきた。
「抜かないでよ……」
「なんで?」
「痛いし……抜いた後、またその三倍の白髪が生えてくるって言われてるからよ」
「そうなの?」
「そうなの!だからもう、指離してよ」
「はいはい」
彼女は指を離すと、頭を軽く撫で、教室から出て行った。
猫のように気紛れに現れて、そして、また気紛れに去っていく彼女。
型にハマった行動しかとれない自分とは違う彼女に、私はいつの間にか惹かれていた。
引っ張られたせいで少し痛みの残る頭を撫でながら、この白髪を抜かないでおこうと決めた。
手櫛で髪の毛を整える。
今日はもう、白髪が生えていることを誰にも指摘されたくないから。




