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百合百景 ~二分で読める百合短編~  作者: 荒井チェイサー
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何度でも、溺れる

 友達の奈々ななえのうるささには、本当に困っている。

 毎朝私のベッドまで来て起こしに来るし、あまつさえ、中に入って添い寝してくる。毎度毎度やめろと言ってはいるのだけど『はい!』ってものすごくいい返事『だけ』はする。その次の日には忘れて、潜り込んでくる。

 お母さんに朝から家に上がってもらわずに、玄関で待ってもらうようにしてと言ったけれど『アンタが起きるのが遅いし、起こすのが楽だからね』と言われて、何もしてくれない。

 それに、奈々枝がまとわりついてくるのは家の中だけではなく、学校でもそうなのだ。

 幼稚園から始まり、小学校、中学校、そして、今の高校生になるまで、奈々枝はずっとまとわりついていきた。

 いつも私の周りをくるくる回りながら、楽しそうに何かを話している。

 男でも女でも、私が他の子と仲良くしているの見ると、目じりを下げて、首をがっくりとさせてうな垂れていた。

 つくづく、めんどくさい友人だと思う。

 だけど、私は奈々枝を傍に置いておきたいし、彼女もそれを望んでいると思っている。


 彼女が、私の友人関係に嫉妬し、うな垂れた日は、決まって私は奈々枝を誘って、二人きりで帰る。

 途中でコンビニ寄って、彼女の好きな甘いカフェオレを買い、そして、私の部屋で、コップもストローも使わないで二人でそれを飲み干す。


 そう、口移しで私達は飲みきるのだ。


 自分の味を混ぜた、甘くてほんのりと苦いカフェオレを。


 その度に、いつも私はこう思う。


 ああ、まるで犬を手名付けるための餌やりだ。

 自分の匂いを混ぜて、相手に与えて慣れさせる。

 そんな、躾のような行為だ。


 でも、躾けられているのは、どちらなのだろう。

 この味を知って、やめられないのは―――



 唇を合わせながら、薄く目を開く。

 奈々枝の瞼も、薄く開いていて、目が合う。

 とろんとしたその瞳を見ながら、自分の中で出かけていた答えが、甘い味に溺れていく。

 それを振り払おうともせずに、私は溺れることにした。

 多分これからも、こうするだろう。

 何度でも。

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