微かな寝息

　春の日差しが入り込む教室で、香は机の上で寝ていた。

　連日の夜更かしと、六時間目の体育でやらされたマラソンのせいで彼女の疲れはピークに達してしまい、着替え終わるとそのまま寝てしまった。

　クラスメイト達は彼女を起こすのも悪いと言いながら、このまま教室に置いていくのが面白いという顔で彼女を放置して皆帰っていった。

　オレンジ色の日差しを浴びながら、彼女は一人、夢の世界を歩いていた。

　隣のクラスにいる月乃が教室を覗く。

　彼女は机で突っ伏して寝ているのが香だと知ると、音を立てないように近くまで歩き、そして彼女の前の席に座った。

　微かな寝息を立てながら眠る香の頬に唇を軽く当てた。

　香は少し声を上げたが、そのまま寝息を立てている。

　月乃はこのまま香が起きなければいいのにと思いながら、ニヤニヤしながら彼女の顔を眺めた。

　香は、微かな寝息を立てているフリをしながら、また月乃がキスをしてくるの待っていた。

　オレンジ色の日差しだけが、その２人を見下ろしていた。