表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合百景 ~二分で読める百合短編~  作者: 荒井チェイサー
19/137

君から貰うよ

 センター試験を三日後に控えた水曜日、私は高熱を出して寝込んでいた。

 あまりの熱の高さに、今が夢か現実かがわからない。目の前で坂本龍馬と織田信長がドレスを着てダンスしてるのは……現実?

 笑いながらくるくると回る2人を見ていると、頭がふらふらとしてきた。その場に倒れ、真っ暗な天井を見ていると、ふらふらとする頭に、冷たい物が乗せられた。

 少し冬の匂いがする。

「志穂……大丈夫?」

 聞き慣れた声がした。

 目を開けると、紗世先輩が私の頭に掌を乗せているところだった。

「紗世せ……」

 びっくりして上半身を起こそうとすると咳が出て、言葉が遮られた。

 先輩は私の頭を押さえて、ベッドに倒して、布団をかける。

「起きたらダメ。少しでも寝てないと……」

「はい……というか、先輩なんで私の家に来てるんですか!大学は!?それに、約束は!?」

「大学は休みだよ。試験が終わったからね。それと、約束、ねえ……」

 私と先輩が交わした約束。

「先輩、もしかして忘れてませんよね……?忘れていたら……私……」

 12月の中頃にしたデートで、私は紗世先輩と約束をしたのだ。

 紗世先輩の通う大学に合格するまで会わない、もし会ったら、もうキスはしない、と。

 紗世先輩は気を遣ってくれたのか、私に会おうとはしなかった。だけど、今日会いに来た。ということは、もう別れる気なんだ。

 先輩の顔が自分の涙で歪んでいく。

「おいおい、どうして泣くんだい」

「だって……先輩が会いに来たってことは、私にお別れを告げに来たってことですよね。わかってます、こんな試験前に風邪ひくアホ娘なんか、先輩とは釣り合わないです」

 先輩から、溜め息が漏れた。

「何をバカな事を言ってるんだい。私は志穂と別れたいなんて1ミリも思っていないよ。今日、私がここに来たのは、ある物を貰いに来たのさ」

「ある物?」

「目を閉じてごらん?」

「あ、はい」

 目を閉じてすぐに、唇に先輩の唇が触れた。先輩はいつものキスとは違う念入りなキスをすると、唇を離した。

「これで……志穂の風邪、私が貰ったからね」

 目を開けると、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに笑う先輩がいた。

「ほら、プレゼントの前渡しでもあるんだから、絶対に大学に合格しなきゃダメだよ」

「……はい!」

 涙が零れ落ちそうになるのを、グッと堪えた。

 だって、この涙は、合格した時に流したいから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ