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百合百景 ~二分で読める百合短編~  作者: 荒井チェイサー
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目を閉じてキスをして

 私は彼女とキスをする時、目を開けてキスをする。

 幸せそうに唇を当てながら、感覚を全てそこに集中させている様な表情を間近で楽しめるのは、この世で私一人だけ。


 だけど。


「ねえ、なんでキスの時に目を開けているの?」

 そう言われた時は、心臓が止まるかと思った。

 彼女が目を閉じているのは間違いが無い筈。だけど、それがバレたのはなんでだろうか。

 表情を崩さないように『そんなわけないよ』と言うと、彼女は微笑んだ。


「どうしてバレたの?って顔してるね」

「バレるもなにも、目は閉じてるよ」

「ふーん……じゃあ、目を開けていると仮定して、一個だけアドバイス」

「なに?」

「目を閉じると、気持ちいいよ。だって、感覚が唇だけになるからね」

「なに、それ」

「さ、いいから、しよっか」

「何を?」

「キス」


 彼女はそう言って、私の目を手で隠してから唇を合わせた。

 今までにないぐらいの感覚が、唇から伝わる。

 温もり、柔らかさ。

 感覚を通して、暗闇の中にぼんやりと彼女が浮かび上がり、体の中に入ってくる。

 一つに溶けあうような感覚に襲われながら、私は体を小刻みに震えさせる。

 口の横から溢れる涎が、顎を伝って落ちていく。優しくなぞる涎は、顎を愛撫しているかのようだ。


「ほらね、凄いでしょ?」


 私の顎を両手で持ちながら、唇を離して彼女は笑う。


「バカ」


 素直になれず、悪態をついたが、彼女はニヤニヤ笑うだけだった。


「気持ち良かったでしょ?」

 彼女の言葉に頷きながらも、私は「もうしない」と伝えてスタスタと歩き始める。

 後ろから、謝りながら追いかけてくる彼女。

 自分の唇に指を当てる。


 だって、あんなキスを何度もしたら……私、唇だけじゃ満足できなくなるもの……。

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