花と手
「写真、撮らせてほしいな」
私が園芸部の佐和子にそう言うと、彼女は今植わっている花を見てブツブツと言い出した。
しばらくして
「ヒマワリが一番きれいに咲いてるから、これがいいと思うよ」
グンと伸びた茎に、太陽と見間違えるような活力ある色を帯びた花。
確かに写真に撮れば栄えそうなものだった。
けれど、私が求めているのはそういうものではなかった。
「確かにきれいだよ、だけど……私が欲しいのは美しいものなんだ」
佐和子は首をかしげる。
「由奈の言うことって、たまに意味わかんない。ゲージュツカって感じ」
「そうかな、私としては普通に説明してるつもりなんだけど」
「つもりなだけなんだよ」
「んー……私が撮りたいのは花じゃないの。佐和子の手なんだよね」
「手?」
佐和子が自分の手を見る。
「なにも美しくないよ?泥だらけで、何も面白みがないし」
「そう?泥と白い肌が栄えて、すごくきれい」
「そうかな……」
「うん、だから撮らせてくれる?」
「別に、手だけなら」
佐和子の両手の上に今から植える花を乗せて、写真を撮った。
家に帰り、カメラをチェックする。
両手に乗せられて空を見上げている花、そしてそれを支える土まみれの無垢な手。
汚れた手を見て、彼女を穢した事実に興奮した。
そして、自分の穢れを自覚して……少しだけ死にたくなった。




