表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合百景 ~二分で読める百合短編~  作者: 荒井チェイサー
124/137

夜と闇の違い

「ねえ『夜』と『闇』の違いはなんだかわかる?」


彼女はそう問う。

答えなどありはしないと、私は知っている。

ただの戯れであり、明日の生活には何の意味もなさないただの雑談。

けれども、それが愛しくて仕方ない時間であることを、彼女も私も知っている。


「答えは用意してないんでしょ?」


「……いつだって、私は答えを用意してないよ。だって、ただ……会話を楽しみたいから」


クスリと笑う彼女が、いつもの癖で右手の人差し指を自分の唇に軽く当てた。


ああ、彼女は今を心底楽しんでいるんだ。

その癖を見て、確信をして、私は会話に滑り込んでいく。



「そうだな……夜は救いがあって、闇は救いがない感じ」

「なるほどね……」

「美月はどう思うの?」

「恵奈と一緒だよ、夜は救いがある……だって、朝が来るからね」

「じゃあ、一緒の答えを持ってるのね、私たち」

「でも、一個だけ補足したいな」

「補足……?」

「闇は確かに暗くて救いがないんだけど……誰かが光を放ってくれたら……とても眩しくて、それを求めてしまうと思うんだ。だから、深い光を手に入れるのは、闇かもしれない」

「深い光……か」


美月が私の手をとる。


「ああ、あったかいな……恵奈の手」


愛おしそうに私の手を撫でて、うっとりする彼女。

私の手から、彼女の体温が伝わる。

この手を握れば、彼女だってわかるんだろう。

闇の中であったとしても。


光も闇もない世界でも、彼女さえいれば……私は私でいられる。


そして、そんな絶望的に映る世界でも私たちは幸せでいられると思う。

互いの手を放さなければ、いつまでも。



私は手を伸ばして、床に転がっているこの部屋の電気のリモコンを取ると、照明を落とした。

それが合図だった。


これから、私たちが溶け合う……合図。



相手の体温で溶かされるのを想像しながら、私は次に美月に聞く質問を決めていた。





「ねえ美月、私の体温で溶けるのと、自分の体温で相手を溶かすのなら……どっちがいい?」


次の質問を頭の中で繰り返しながら、私は闇の中でクスリと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ