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百合百景 ~二分で読める百合短編~  作者: 荒井チェイサー
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2匹の人魚

「人魚姫のラストシーン、知ってる?」


オレンジ色のスープの中に沈んだようになっている夕日の入り込む教室で、葵がそう言った。


「泡になって消えるんでしょ」

「そうだよ……陸の王子様に憧れた人魚姫は声を失って、命まで失う」


夕日を見ながら、葵が何かを悟ったかのような顔をしていた。


「それでも……」

何かを言いかけていた。

彼女はためらいつつも、言葉を続けた。


「それでも歩美は……陸に上がろうとする?好きな人が遠くても、何かを失うとしても」


そこで気付いた。

ああ、これは彼女の一世一代の告白の前準備なのだと。


ならば、答えは1つしかない。



「うん。好きなら、失うことよりも得るものの方が多いから」



彼女の顔に、スッと喜びの色が入った気がした。


「ねえ、歩美……驚かないで聞いてほしいんだけどね」


彼女が私に近づいてくる。

何もかもわかってる私は、両手を広げた。

飛び込んできた彼女は、何も言えなくなっていた。

胸に、温かい物が沁み込んでくる。

涙で濡れる胸元を気にしながら、夕日を見た。


自分達を溶かしてしまいそうな太陽が見える。

その時に、ふと思った。


「ああ、今だけ葵は人魚姫だ。声を失っている」

そんなことを。



「歩美……あのね」

涙声の彼女の言葉の続きを待ちながら、自分も声を失っていることに気付いた。

頬を伝う涙が、それを教えてくれた。

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