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近くて遠い
「好き」も「嫌い」も言ってもらえるだけ、いいなと思う。
「好き」と言われて嬉しいのはわかる、とよく言われ、反対の「嫌い」に関しては、否定されてしまう。
「嫌いなんて、言われたくないよ」
私の友達である亜美はそう言ってくる。
そうかなあ、なんて言いながら私は天井を見て、後は適当にお茶を濁す。
私の好きな人は、遠い。
2学年も違う先輩は、私のことを知らない。
それに、接点もない。
廊下ですれ違うだけでドキドキする。
あの人は遠い人。
悲しくなるほどに。
先輩にとって、私は砂つぶのような存在でしかない。
好きも嫌いもない。
感情の波を起こすこともできない。
天井に向けていた視線を前に戻すと、亜美が私をじっと見ていた。
視線が合うと、パッと目をそらして、
「帰ろ」
とだけ言って、鞄を持ってスタスタと教室の扉に向かって歩いていく。
近くても、遠い存在なのかな……。
なんて、少し自意識過剰なことを思いながら立ち上がり、私は彼女を追いかけた。
遠くで聞こえる吹奏楽部の音が、やけに耳に残った。




