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百合百景 ~二分で読める百合短編~  作者: 荒井チェイサー
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雪の眺め方

「あ、雪」


同居人である沙奈江の言葉を聞いて『今夜から降り出すでしょう』と言っていたアナウンサーの声が思い出された。


ああ、やっぱり降ったのか。

いつもとは違う寒さが、外にも職場にもあった。

風が吹くと痛く、そして静かな時はまるで時を止めてしまったかのようになる寒さ。

空の色はどす黒く、吐き出す先のない不満を抱えた人間のように見えた。

傍迷惑な天気だ。

社会人になった今では、雪を、電車の遅延に納期のズレに路面の凍結、肌への対策と着るものの選定……といったいつもと違うことを運んでくる『雪害』としか思っていない。


「迷惑だわ」

口をついて出た言葉を聞いた沙奈江が、私の頭にチョップを振り下ろしてきた。

「痛っ!」

彼女は私の頭を自分の手の側面を撫でている。

「綾ちゃん冷たい!あと、私だって手が痛い!どうすんの!」

「どうもしないわよ……おバカ。だって、迷惑なもの仕方ないじゃない」

「何が迷惑なの!」

「あんたも社会人なら迷惑でしょ。ただ地面を白く染める雪とやらに人間のシステムは大混乱、その迷惑の尻拭いをするのは私たち。雪が綺麗とか楽しいとか、そんなのはもう無いわよ。それに、無駄よ、雪が降った後に残るのは汚い塊じゃない。土と混ざれば雨と変わらない、それなのに表面だけ見て綺麗だね〜なんて無駄!」

一気にまくしたてると、沙奈江がもう一度チョップを振り下ろしてきた……が、私はそれを防御した。

反論できなくなるとチョップしてくるのは、沙奈江の癖だから、攻撃を読むのは楽だった。

「ズルい!」

「ズルくないよ、あんたがワンパターンなだけ」

「もう、綾ちゃんのバカ!」

「なんでバカなのよ」

「だって、せっかく2人で観られる景色なのに、明日の心配ばっかしてる。たまには明日のことじゃなくて今のこと考えようよ」

ハッとした。

そういえば、仕事に意識がいきすぎてた。

効率とか、計画とか、そういう機械的なことを優先しすぎていた。

でも、沙奈江にはそういうのが無い。

ただ、楽しいを見つけて、精一杯追いかけてる。

バカは、私だった。

「……そうね、ごめん」

沙奈江は満足そうに頷いて、私の頭を撫でる。

「大変素直でよろしい」

彼女はそう言うと、机の上にあったリモコンで部屋の電気を消して、片隅にあったストーブを消した。

隣の部屋から毛布を持ってきて、窓の側に座り、毛布で体を包む。

そして、私をその中に招いた。

頷き、その中に入って窓の外を眺める。

空から降る雪を眺めながら、沙奈江の温かさを感じる。

幸福を感じながら、今日からは雪が嫌いにならないだろうと、ぼんやりと考えた。

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