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かのじょにせつなき青春なんてにあわない~世界から忘れられた歌姫を救いだせ~  作者: すずと


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第21話 楽しい野球の始まりだー

 そんな会話も無意味に終わる。


 最近はタクシーもアプリ決算らしいね。目的地に着いたら金も払わずに降りて行く。


 なんか無銭乗車をしている罪悪感と、どこか優越感みたいなものが合わさったなんとも言えない感情が渦巻いたが、日夏が涼しい顔をしているので、変なプライドで俺も涼しい顔をしておくとしよう。


 さて、VIP待遇でやって来たのは、枚方市は淀川河川敷。そこの野球場だ。ここではよく、少年野球の試合やら、草野球の試合が行われているのを目にする。今回は目にするんじゃなく、自分自身が試合をする立場になったってもんだな。


 会場に到着すると、既に両チーム揃っているみたいで、一塁側が草野球のおっちゃんチーム。三塁側が美ヶ丘北高校野球愛好会チームとなっていた。


 俺と日夏は三塁側へと足を運ぶと、こちらに気が付いた楓花がこちらに駆け寄って来る。


 陸上の短距離走選手よろしくな走りで、いっきに距離を詰めて来る姿は、うん、やっぱり犬だな。


「世津くん。日夏さん」


 あれだけのダッシュで息を切らさずに俺達の前に来たので、日夏も、「この子はどんな体力をしているんだろう」と不思議そうな顔をしていた。


「今日はよろしくね」


「秋葉さん、ごめんなさい。関係ない私まで付いて来てしまって」


「そんなことないよ。でも意外だったな。日夏さんも野球やりたかったなんて」


「え?」


「ふぇ? 違うの?」


「いや、私は見に来ただけなんだけど」


「あれ、そうなの? 私、てっきり試合に出たいから世津くんに頼んで来たのかと。人数も日夏さんを入れたらちょうど九人になるんだよね」


 日夏を入れて九人だったら、楓花も出る気ってことだな。


「えっと……」


 試合を見に来ただけのつもりが、こりゃ出る流れになってんな。


「出てみたらどうだ。野球は見るよりもやる方が楽しいしさ」


 そう言ってやると、日夏は少し考えてから、「そうね」と頷いた。


「秋葉さん。私もやってみて良いかしら?」


「もちろん。日夏さんのグローブとかも持って来たからね」


 そう言って楓花が日夏の手を引いてベンチの方へ戻って行く。その姿は、犬がご主人様に遊んでとせがんでいるようにも見えるな。


 あいつ、前世は犬なんじゃなかろうか。


 彼女達に引っ付いて俺も三塁側の方へ行くと、先輩達が出迎えてくれる。


「うぃっす、四ツ木」


「よく来てくれたな」


「待ってたぞー」


「先輩方、今日はすみません。いきなり試合出してくれなんて図々しいお願いしてしまって。それに、俺だけじゃなくて日夏も……」


 頭を下げると、「やめろって」と優しい声を出してくれる。


「四ツ木のお願いを断るなんてできるはずないだろ」


「そんなことより肩、治って良かったな」


「四ツ木と一緒に試合出たかったから楽しみだぜ」


 暖かい言葉に、ちょっとばかし、うるってしてしまう。


「それにしても、日夏さんはお前の彼女か?」


「すげー美人だな」


「四ツ木―。秋葉という彼女がおりながら、あんな美女にまで手を出しやがって。年下のくせにー。このこのー」


 あ、はい。先輩達が女関係のことに口出しをしてきやがる。良い人達なんだけど、このノリは非常に面倒くさい。


「あははー。俺、相手チームに挨拶してきますー」


 それを言い訳に逃げるように一塁側の方へと駆け足で向かって行く。


 一塁側の草野球チームも九人ギリギリみたいだ。このチームの雰囲気は、なんというか、大衆居酒屋みたいな感じだな。


 野球帽を後ろに被り、ユニホームはボタン全開で腹も全開。スパイクじゃなくてサンダルという、ゆるゆるな感じ。でも、うん、これが草野球って感じで俺は良いと思う。


「にいちゃん、相手チームの子かいな?」


 ベンチにいたひとりのおっちゃんが俺の存在に気が付いて声をかけてくれる。


「はい。今日はよろしくお願いします」


 頭を下げると、「おおー!」とベンチがわいた。


「礼儀正しくてええ子やなぁ」


「ほんまな。ウチの会社の若い奴等に教えてやりたいわ」


「それな。挨拶なんかろくにでけへんからな、あいつら」


「注意するとすぐにパワハラやって言うてくるしなぁ」


「それに比べてにいちゃんは挨拶できて偉い。ウチの会社こーへんか? 給料はずんだんで」


 当たり前のことをしただけでスカウトされたんだけど。


「あははー。あ、そういえば審判ってどうしますか?」


 話をすり替えるように言うと、「あ、それな」と簡単に話題に乗ってくれる。


「会社に主審の免許持ってる奴おるからひとり連れて来てるわ」


「主審の免許を持ってる人って珍しいですね」


「やろー。まぁこき使ったってや」


 おっちゃんがバックネットの方を指差すと、主審らしき人がスコアボードにチョークでなにかを書いているのが伺えた。後で挨拶に行かなくてはな。


「塁審はおらんから、各々の判断でよろしゅーな。際どいのんは、じゃいけんで決めよか」


 ジャンケンをじゃいけんって言う派なんだ。とか思いながら細かいルールを確認しあってから、プレイボール。


 さぁ、楽しい野球の始まりだ。

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