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会えば喧嘩ばかりの婚約者と腹黒王子の中身が入れ替わったら、なぜか二人からアプローチされるようになりました!?  作者: 黒木メイ


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9/15

薬の効果が切れるまで後五日(2)

「あー……もうこれ以上考えても無駄だわ。それよりも、もっと有意義な話をしましょ」

 ため息を吐くソフィアに、レオン(クリスティアーノ)は首を傾げる。

「というと?」

「昨日の続き、というか最初からもう一度聞かせてくれる?」


 それはフィンからの報告の後、ソフィアが尋ねた『この入れ替わりの本当の目的について』だ。

 あの時、二人がいたのはテキトーに入った部屋。事前に用意されたわけでもない部屋は誰が突然入ってくるかもわからず、あれ以上込み入った話などできなかった。本当ならフィンの報告もきちんとした部屋で聴きたいところだった。残念ながら、抜け出してきたことを怪しまれずに帰すためには致し方なかったが。

 けれど、今二人がいるのは仲たがい(?)をしていた婚約者同士の関係性を元に戻すために、王家がわざわざ用意した部屋だ。わざわざ人払いをせずとも、皆気を利かせて人が寄り付かないようになっている。

 それでも念のためと、二人は一つのソファーに座り、顔を寄せ合い、小声で話し始めた。これなら万が一空いた扉から覗かれても大丈夫だろう。


「そもそも、この入れ替わりを思いついたきっかけは僕の立太子の話が内々に決まり、王弟派が派手に動き出したことにあったんだ」


 ソフィアは無言でうなずく。

 その話は知っていた。この国には王太子候補が二人いる。一人は現国王の一人息子であるクリスティアーノ。そして、もう一人は現国王の弟であるフェルディナンドだ。クリスティアーノにとってフェルディナンドは叔父となるが、年は十四歳しか変わらない。まだまだ壮年期にあり、大人の色気をまとい女性人気も高いフェルディナンドは、王族特有の傲慢さとカリスマ性を併せ持っている。たいして、クリスティアーノはまだ年若いが、『天才』の異名をつけられるほどの頭脳の持ち主。だが、それを鼻にかける様子もなく、分け隔てなく人に優しい(というのはレオンの気やすい態度を見ればわかる)。彼ならば良き賢王となってくれるだろうと期待されている。


 真逆の支持層を持つ二人。

 どちらが立太子してもおかしくない中、国王はとうとうクリスティアーノを次期王太子の器だと認めた。という話は内々に広がった。内々、といいつつもこういった類の話は貴族(特に当主)には伝わりやすいもの。故に、次期当主のソフィアの耳にも入っていたのだ。

(お父様からも王弟派には近づくなと言われているのよね)

 ペンネッタ伯爵家はレオンを婿入りにすると決めた時点で、第一王子(クリスティアーノ)派だ。


「その『動き』について詳しく聞いても……?」

「もちろん。先日、あったようなことが僕の身に起きた、と言えばいいかな?」

「っ。つまり、暗殺者が?」

「いや……その時点ではまだ脅し程度だったんだ」

 聞けば散歩の途中、上からバルコニーに置いてあった植木鉢が落ちてきたそうだ。レオンがすかさず動いてくれたおかげで無傷だったようだが、それも当たっていたら大怪我になっていた可能性は否めない。


「そんなことが数回続いてね……まあ、それもあって、レオンに休みをあげられなかったんだよね」

「たしかに、第六感が異様に発達しているレオンが側にいれば安全性は格段に跳ね上がるものね」


 申し訳なさそうなレオン(クリスティアーノ)だが、その話を聞いたらたしかにレオンが異様に忙しかったのも納得できる。


「回を重ねるごとに危険度は上がっていって、さすがに僕も限界を感じて……」

「それで……」

「そう。いくら僕でも我慢の限界ってものがあるからね。いい加減腹が立って」

「え?」

「だって、こちらはいつ狙われるかわからないからずっと気を張っていないといけないんだよ? 理不尽じゃないか」

「ま、まあ……たしかに?」

「だろう? だから、こちらから動くことにしたんだ」

「……まさかそれで入れ替わりを?」

「うん。しかも、おあつらえ向きにソフィーが城に突撃してきてくれただろう? あのおかげで入れ替わった後の流れもスムーズにいったんだ。相手が油断するような状況を作りつつ、入れ替わりがバレないようにフォローもできて、こうして強力な協力者も得られた」

「完璧だ!」と喜ぶレオン(クリスティアーノ)に、ソフィアは唸り声をあげる。不満はあるが、否定はできない。


「じゃあ、あの暗殺未遂事件も、クリスが張った罠にまんまと相手がはまる形で動いてくれたわけね」

「そう」

「でも、あれで終わりじゃなかったと……捕まえた人たち全員が死んだ上に、近くに敵がいるのが確定したわけだものね」

「まあね」

「……それもクリスは気づいていた……というか予定通りだったんでしょ?」

「……さすがソフィアだね」

 にっこりとほほ笑むレオン(クリスティアーノ)。本来のレオンなら絶対にしない表情――なにを考えているのかわからない笑み――にソフィアは背中がぞくりと粟立つのを感じた。


「どこまで潜り込んでいるのか、それを明確にしたかったんだけど……相手もなかなか証拠消しがうまくてね、はっきりするまであともう少しって感じかな」

「レオンには最後まで教えるつもりないの?」

「うん。だって、レオンに教えたらすぐにバレそうだもの」

「……たしかに」

 しかも、直属の部下の裏切り。知ったら激怒して後先考えずに本人に突撃しそうだ。

「そういう意味では、腹を割って話せるのって暗部とソフィーくらいなんだよね」

「あー……」

(仕方ないとはいえ、後でレオンが知ったら騒ぎ立てるでしょうね)

 苦笑するレオン(クリスティアーノ)にソフィアも同じ表情で返す。


「まあ……レオンなら何も知らなくてもなんとかしてしまうでしょう」

「うんうん。相手も僕だと思って舐め腐っているしね。実際、毒殺じゃなくて物理的にどうにかしようとしている時点でね~」

「……それを自分で言うのって虚しくない?」

「いやー懐かしいなあ。ソフィーのその遠慮のない感じ」

 いい笑顔を浮かべるレオン(クリスティアーノ)とは対照的に引きつった顔のソフィア。


「えーと……もしもの話なんだけど。相手が毒殺しようとしてきたらどうなの? 大丈夫なの?」

「あの体は毒に慣らしてあるし、大概の毒なら寝込む程度ですむと思うよ」

 それを聞いて、ホッとするソフィア。

「それなら大丈夫かしら……っていうか、レオンなら毒物も第六感で避けそうよね」

「だよね! そこらへんも実験……あ、いや、レオンならできそうではあるよね。うんうん」

(実験、今完全に実験って言っていたわよこの腹黒王子!)

 ジト目を向けると、なぜかレオン(クリスティアーノ)が嬉しそうな笑みを浮かべる。


「その目を向けられるのも久しぶりだな~」

「……クリスって変態?」

「かもね? 相手はソフィー限定だけど」

「はあ?」

「あ、動かないで。抜けたまつ毛が頬についてる」


 そう言っておもむろに手を伸ばしてきた。「自分で取るから」と断る前に大きな手が肌に触れ、思わず目を閉じた。

(……すぐ近くに気配を感じる。妙な感じ)

 一度閉じた目を開ける勇気がなくて、じっとそのまま耐えようとした。


「ま、まだ?」

「ん? ああ、うん……ちょっと待ってね」

(?!)

 声が想像より近くで聞こえて慌てて目を開いた。と、同時に部屋の扉が激しく開いた。


「お、お、おまえら~!!!!!!!」

「レ、レオンッ」

 咄嗟に名前を呼んでしまったが、クリスティアーノ(レオン)の声が大きすぎてかき消された。

 クリスティアーノ(レオン)は大股で近づいてくると、勢いよくソフィアを己に引き寄せ、レオン(クリスティアーノ)を引き離した。

「なにしてたんだよ?!」

「べ、別になにも」

「なにもだと?!」

「ちょ、ちょっと声大きすぎ」

「仕方ねえぐっ」

 慌てて彼の口を手で塞ぐ。部屋の扉を見れば、すでにレオン(クリスティアーノ)が動いていた。外にいるらしい護衛騎士たちに指示を出し、戻ってくる。三人いるからと、完全に扉を閉めて。


「外で護衛するように言ったから」

「ありがと」


 取り繕った笑みを浮かべているレオン(クリスティアーノ)と仏頂面のクリスティアーノ(レオン)が、気まずげなソフィアを真ん中にしてぎゅうぎゅうにソファーに並ぶ。


「で? なにしてたんだよ」

「べ、別になにもしてないわよ」

「なにもしてないだぁ? こんな近くにいて?」

 と言って、ソフィアの肩を引き寄せるクリスティアーノ(レオン)。

「ちょ、しーっしーっ!」

 それよりも彼の声の大きさが気になり、焦るソフィア。

「ちょっと、(僕の体で)そういうのやめてくれる?」

 そう言って、レオン(クリスティアーノ)がソフィアを抱き寄せ、クリスティアーノ(レオン)を押しやる。

「嫌だね! (なんで俺が引きさがらねぇと、なんねぇんだよ)」

 またもやクリスティアーノ(レオン)がソフィアを引き寄せようとして、ついにソフィアがキレた。

「二人ともいい加減にして! はい、離れる!」

 振りほどかれた二人は、怒り顔のソフィアを見て我に返ったようで黙って従った。


「まったく……」


 と言いつつ、ソフィアはさりげなく服の上から心臓の上に手を当てた。そこはありえないくらいに激しくドキドキ鳴っている。けれど、あいにく今のソフィアにはそのドキドキを冷静に分析する余裕はなかった。せめて今、どちらか一人だけが相手であったのなら、この高鳴りの対象が――誰の体に触れられたからなのか、誰の言葉に動揺したからなのか――はっきりわかったのかもしれない。

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