なんとなく:主人公をカッコよく書こうと思うな
【なんとなくでエタった場合】
誰もがカッコ悪いよりは、カッコよくありたいと思うでしょう。
そして小説とは、作者さんの空想や願望を文章として具現化させたものです。
例えば、異性にモテたい。
例えば、現実には不可能な活躍をしたい
例えば、完璧超人でいたい
作品の自己投影して、作者さんは主人公をカッコよく書こうとするでしょう。
長編では九割九分エタります。
原理は単純です。
カッコいいキャラをカッコよく書くには、『カッコいい場面』しか書けません。
しかしカッコ悪いキャラをカッコよく書くには、『カッコ悪い場面』と『カッコいい場面』の二系統を書く必要があり、書けるからです。
単純に考えただけで、使えるネタが倍半分違うのですから、単にカッコいいだけでは早々にネタ切れしてエタるに決まっています。
それに、カッコいいキャラをカッコよく書き続けるのは、かなり大変です。
小説の場合だと、キャラクターの外見をいくらカッコよくしても、所詮は文字の羅列だから意味がありません。単に『カッコいい』だけの説明では『ふーん。それで?』で終わりです。
だから誰が見ても『カッコいい』と思う言動をさせないといけません。
しかし、キャラをカッコよく書くのは、誰でもできますが、カッコよく書き続けるのは、ほとんどの人はできません。
才能ある主人公が、誰もがカッコよく思える方法で、スタイリッシュに問題を解決し、異性が惚れて不思議ない状態にするのは簡単です。
でも主人公に特定の恋人を作る気がないから、断れますか?
そこでヘタれたら台無しです。男らしいとも言えますが、素直に『俺の夢はハーレムだ! ひとりと付き合う気はない!』と叫んだらアホと欲望丸出しです。
そこで作者さんは、告白を断って尚、まだ異性が惚れても不思議ないと思える、カッコいい断り方が作れますか?
並の才能でやったら、主人公は『カッコいい人』から『自分に酔ってるイタい人』にジョブチェンジします。
『カッコよく書こう』という気持ちだけで長期連載しようとすると、設定や雰囲気がコロコロ変わり、作者さん自身がなにを書きたいのかわからなくなり、結果エタります。
だから世に出ている長期連載の大作は、かなりの割合で、主人公がカッコ悪い面を持っています。
普段からそんな言動をしていれば、カッコ悪い反応をしたって、許されるのです。
それにギャップが生まれます。日頃なにも活躍していないなら、活躍した時には一層目立つのです。普段は未来の世界の青ネコロボットに頼ってばかりの万年ダメ小学生が、映画版大長編では妙に男らしくなるのもそれです。普段はやりたい放題で誰もが眉をひそめる不良が、雨の日に捨て犬を憐れんでいたりすると、すごくいい人に思えてしまう、あの理屈です。
小説ならば、クライマックスは誰だって、主人公をカッコよく書こうとするのです。
結局主人公は、主人公であるだけで、カッコいいのです。キメるところだけキメれば充分なのです。
だから全てカッコよくしようとすると、無理が出るのです。
勘違いしてもらっては困るのは、一辺倒にキャラをカッコよく書くなと言ってるわけではありません。一話完結の短い小説ならば、充分に魅力的に書き上げることは可能でしょう。
ただし、長編連載では難しいです。やろうと思えば普通は使わない工夫が必要です。しかも一話完結型のエピソードを積み重ねるタイプ、同一設定の短編集的な作品でしかできないと思ってください。陰謀の裏に世界の存亡が関わるような、RPGのような一連の巨大ストーリーを描こうとする作品には向いていません。
キャラを『カッコよく書く』と言うより、『カッコ悪い場面を書かない』と言う説明の方が正確ですが、『カッコいいだけのキャラ』を作ろうと思うなら、主人公の描写を極限まで減らすことです。
すなわち、ストーリーテラーを主人公以外にする。
これを例にするのは、ちょっと微妙なのですが。
誰もが知ってるであろうシャーロック・ホームズ。
名探偵の代名詞で、推理モノ作品ではよくモチーフや比喩として使われて、一般的にはカッコいいイメージを持たれていると思います。
でも実際にコナン・ドイルの小説を読んだ人は、少ないのではないでしょうか。
ホームズは、冷静沈着で行動力に富み、推理力は抜群。バイオリン演奏や射撃、数々の武術が達人クラスである、非常に有能な探偵として描かれている一方、女性嫌いで人付き合いが下手な奇人という設定です。
ここまで読んで、『自分の書いたエタ小説主人公の設定と変わらないじゃん』と思われた作者さんもいるでしょう。完全無欠俺Tueee主人公だけどヘタレだったり中二病だったり、そういう欠点を設定する人が多いように思いますから。
だけど決定的に異なることがあるはずです。キャラ像ではなく、書き方に。
シャーロック・ホームズの冒険は基本的に(例外もありますが)、助手のワトソン教授の視点で、彼の書いた記録として描かれています。
ホームズがカッコいいと思われているのは、ストーリーテラー=ワトソンにし、主人公ホームズを客観視することで、奇人である描写を削ってマイルドにし、誰もが感心する名推理を行う場面を見せているからです。
名探偵だが奇人。つまりホームズは特別カッコいい設定のキャラではないのです。
なのに、カッコ悪いところをあまり見せずに、カッコいいところを見せているから、そんな風に感じれるのです。
しかしエタる小説は、そんな工夫がされていません。少なくとも自分は、例外的な作品を見たことはありません。一人称文章ならば当然、三人称文章でも、主人公をストーリーの進行役にして、カッコ悪いところも描く――逆に言うと、カッコ悪い場面を書かないとならない状態にしています。
カッコいいキャラを書きたいのか。
カッコいい場面を書きたいのか。
そこを見定めていないと、エタる原因になります。




