3-1 お前のアニキは俺、お前のオヤジは俺、お前の教祖様は俺
アーモ・クラーレ。いかなる手段で憂さを晴らすべきか。
メディアの世界に初めて降り立った、あの日、あの時間、あの憎たらしいツラ。
暴力で解決するのが一番だ。右拳でこめかみを粉砕するのが最上だ。パープルヘアーを鷲掴みにし、俺のヒザに鼻頭を叩き落とす。叩き潰す。叩き砕く。
アンビリコ反逆事件から3日が経ち、すでに俺のLvは38。あのムラサキイモは20がいいところ。怒号の罵りなど使うまでもない。
しかし、愚者と言えども、理性はある。理性が俺に問いかける。『そんなつまらない復讐劇でいいのか』
絶望を味合わせてやりたい。この世の春から一挙、地獄の底に転げ落ちるような――。
「先生!」
「アニキ! 何をボッとしてんス!」
「あん?」
我に返ったときには時すでに遅し、ゴールドグーイは超特急で崖下へと滑り去っていった。
「どうしたんスか、アニキ」
「今日は朝から様子がおかしいですけど、体調でも悪いんですか」
「この山にあきた。今日はもう帰ろう。噴水広場でナンパだ」
当然、下僕どもは騒ぎ立てる。
まだ、Lv30後半じゃないかと。
上位ランカーになるためには上位クエスト。
上位クエストをこなすためにはLvアップ。
LvアップにはGG狩り。
「1にも2にもそう言うけどな、1つ疑問を持っていたんだ。まずはその疑問を解決させてくれ」
「なんスか」
「最近、ピンギとメシスの覚えてる魔法が被ってきてる。どういうことだ?」
「そりゃあ、魔法使いと賢者ッスから」
「ハア?」
怒髪天突き抜け、胸倉をつかみあげる。
「何を至極当然って顔してやがる! こんな辺鄙な山でいそいそとLvアップさせてやってんだぞ! なのにだ! 3人組が3人ともマジカエとフガムを覚えてどうする! 使うのは1人だけだろうが! つまりだ、俺はそういう無駄なことのためにノドをからしてやってるんだ!」
この疑問について声をあらげるつもりはなかったのだが、ピンギの意識の低さが頭に来た。無駄を無駄と知っていても、なお、このバカは無駄を続けようとしているのだ!
「先生っ、パーティーで魔法が重なってしまうのは仕方ないことでっ」
「ガキのくせに訳知り顔してんじゃねえ。ブチ殺すぞ」
口をつぐんだメシスめがけ、緑色の巨体を放り投げる。2人とも崖から落ちそうになって、両腕をアワアワと宙に振り回しながら叫び上げている。
「仕方ねえってどういうことだ? なんで仕方ねえんだ? 賢者なら言ってみろや、コラ」
「ジョブでそうなっているんだから仕方ないじゃないですか」
と、青髪クソガキは半ベソで半ギレ。
「だったら、ジョブチェンジしろ」
「はあっ!?」
「教会に行ってカネを払えばいいんだろ。俺が払ってやるわ。メシス、僧侶にジョブチェンジしろ」
あ。今、思いついた。アーモ・クラーレへの復讐劇第一弾。あいつよりもはるかにLvの高い僧侶を育てる。
しかし、メシスはわなわなと両肩を震わせ、久々の逆ギレモード突入。
「するわけないじゃないですかっ! 賢者になるためにいくらGを払ったと思っているんですかっ!」
俺の弟子のくせに生意気だ。そして、カネのことを持ち出してきて、実に情けない。
よって、バチンッ、と、ビンタしてやった。
「ううっ、ひどい……」
「アニキ、こういうのはどうッス? オデが僧侶になるっていうのは?」
「何を言っているんですかっ! ピンギさんはLv34っ! ジョブチェンジしたら1からやり直しっ! しかも、2,000Gぐらいでなれるような僧侶なんて!」
バチンッ、と、ビンタしてやった。クソガキはうずくまってわんわんと泣き始める。
「ピンギをLv34まで上げてやったのは俺だ。そして、名ばかり賢者のクソガキにGG狩りを付き合わせてやっているのも俺だ。要するに、お前らのアニキは俺、お前らのオヤジは俺、お前らの教祖様は俺。それが気に入らねえのならマジカエでとっと立ち去れ」
ガキはぐうの音も出ずにうずくまるばかり。
「まあ、ピンギが僧侶になりたいらしいから、とっととプリマムの教会に行ってジョブチェンジとするか。善は急げと言うからな」
そんなことで、プリマムの町はずれにある教会にやって来る。ジョブ転職の手続きを取る。メシスの言っていた通り僧侶は2,000Gということだったが、ジョブチェンジの場合は+5,000Gも要求してきた。クソが。宗教法人ってのはどの世界でもボッタクリだ。
ちなみに魔法使いのジョブの金額は800Gだった。盗賊と並んで、いちばん安いらしい。
……。
ピンギの野郎、得してやがる。
再度、フィアダイル山でGG狩りに明け暮れた結果、愚者の俺はLv41、反逆児はLv32、そして、僧侶となったオトボケピンハネ野郎は1日にしてLv21という驚愕の伸び率だった。
「ピンギさんは魔法使いの土台があってのジョブチェンジだったので、基本的な僧侶よりも
ステータスが高めになっていますね」
などと、いつのまにやら反逆児も、すっかりご満悦&元の賢者ヅラである。
「アハハッ! さすがアニキッス! オデを僧侶に転職させるだなんて、英断ッス!」
こいつは口には出さないが、お得感が理解できている。カネを出した俺からすると、腹立たしくもある。が、アーモ・クラーレの鼻をあかすんであれば、こういう見っともない野郎が最適だ。
「ピンギさんも回復魔法が使えるようになったので、ボクと2人、パーティーには有利に働いていきますね」
あんだけ、ブチギレていたくせに……。
「今晩はオデがメシをおごるッス! アニキにお礼ッス! ラーハ屋でもどうッス?」
「そうだな……」
有頂天ぶりにドン引きのまま、メシスのマジカエに連れられてプリマムに戻ってくる。
ズタ袋の中が金貨でかさばっていることに気づき、ギルドに立ち寄る。
BANK窓口に向かうところ、インテロちゃんが視界に入るも、若い冒険者と話し込んでいた。日暮れどきとあって、人は数えられる程度、声もよく聞こえてくる。
「ねえ、今晩はどう? 昨日も一昨日も夜まで残業で、さすがに今日まで残業は働きすぎだろう?」
長身かつ、俺には及ばない程度のイケメンであるが、白いマントに白いベレー帽子、白いブーツのダサい野郎だ。
「今日も残業ですよ、私」
「あの胸の大きい女の子、この前もあの人に声をかけられていたッス。嫌がっているのに、よせばいいんス。アニキ、止めに入ったらどうッス?」
「は? なんで俺が」
「あの子、メシスさんのお気に入りッス」
「は?」
メシスに視線を向けると、青髪は気まずそうにして猫背になり、上目遣いに俺を見やって、何かを求めてくる。
「アホか。ナンパの邪魔立てなんて漢の風下にも置けねえ」
BANKの窓口は待ち人数もなく、受付カウンターにすんなりと入る。ズタ袋の中のジャリ銭をカウンターに置き、合計、5,787G。100G金貨5枚を手元に置いて、あとはすべて預ける。
ピンギとメシスもジャリ銭が貯まっているので、俺に続いてカウンターのオバサンに手続きを取る。
「だいたいだ、気に入っているオンナがいるんだったら、気に入った瞬間からアクションを起こせ――」
「ヴァー・バ・さ・ん」
つんつんつんつん、と、肩をつつかれて、黄色い声に振り返れば、オレンジヘアーのインテロちゃんであった。
「パブリースさんが言ってましたよ、史上最速でLv30になったイケメンがいるって。初めて来たときの約束、覚えてる?」
もはや、フレンド以外のなにものでもないインテロちゃんの口調と眼差しに、俺は複雑な気分になり、インテロちゃんの持ち場の受付カウンターに目を配る。
ホワイトマンは眉間に皺をよせ、俺を睨み据えてきている。てんでお門違いなので、あえてせせら笑ってやる。
ホワイトマンが怒りを押し殺すようにしてギルドから立ち去っていく。
「約束は忘れてないよ。けど、さっきの白いイケメンに食事に誘われていたじゃないか」
「あの人、私の好みじゃないですもん。それに、アーモ・クラーレさんのパーティーの人だし。ヴァーバさん、知ってる? アーモ・クラーレさん」
預金を終えたピンギがいつのまにやら隣に突っ立っている。俺の横顔をじっと見つめてくる。何が言いたいのか、置き物のようにして俺を見つめるばかりである。
「アーモ・クラーレ……。知らないな。そんなことより、今晩、どう? 約束の食事でも? いや、インテロさんは残業だもんな」
「ううん。17時でおしまいだから、それまで待っていてくださいね」
「い、いや、アニキ……。オデたちとラーハ……」
「もちろん、17時まで待っているよ。あと20分ぐらい大したことない」
インテロちゃんは手を振りながら自分の持ち場に去っていく。手続きを終えたメシスが目を丸めながらピンギと俺を交互に見やる。
「メシスさァん! 聞いてくださいッスゥ! アニキがあの胸の大きい女の子と、これからご飯に行く約束してたッス! オデたちなんか見捨ててッスゥ!」
「えっ……。そうなんですか、先生……」
「漢の世界は弱肉強食だ。じゃあ、また明日。いつも通りの時間にギルド前だ」




