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2-6  ダンジョンに逝く(1)

 セロリババアによると、アンビリコという町の名前は、へそという意味らしく、メディア世界の真ん中に位置するそうだ。


 そこにあるダンジョンは地下200階以上も続く迷宮。


 珍しいお宝、希少なモンスターがわんさかいる。そのためギルドからの仕事が相当ある。


 やって来る冒険者はプリマムギルドの登録者だけではない。世界各国から集まってくる。その数は1日に100人はくだらない。


 アンビリコはそうした冒険者を相手にして栄えている中規模の町。パッと見、プリマムと同じくらいだろうか。


「ダンジョンは地下100階より下にもぐると、自力では脱出できないって言われているの」


 奇跡の薬草とやらは地下75階なのだから、そこまで入れ込まなくてもいいはずだが、イセエビ以下狂信者たちは、プリマムギルドを出た途端、鼻息を荒くしはじめた。ダンジョンに乗り込むための準備に余念がなくなった。


 ニンゲングイの羽ですぐさまアンビリコにやって来る。日の暮れかかった町中のあちこちを行ってまわる。セロリババアが調剤するための薬草だの、アウトドア用品めいたものだのを買いあさる。


 俺はうんざりだ。朝から引きずり回されていたのだ。準備なんて、明日からでいいんじゃないのか? 


 結局、アンビリコで1泊となった。セフレかナンパか考えていた俺の計画はズタズタだ。


 クソッ。これも30万G強奪のためには耐えるしかねえのか。


「今回のクエストは地下75階だから問題ないけど、これから先を考えると、レシピットのフガムは大いに助かるわね」


 遅い夕飯を狂信者たちに付き合わされていた俺は、怒り心頭に無言でいたのだが、セロリババアの謎の発言に首をかしげる。


 フガム?


 PBパイセンに訊ねたら、ダンジョンから脱出する魔法らしい。


 ほう。ということは……。


 奇跡の薬草とやらを見つけたと同時に、怒号の罵りでこいつらを(しび)れさせてしまい、奇跡の薬草は奪い取る。ダンジョンから俺だけ脱出してしまえば、30万Gは1人占めだ。


 まあ、物事ってのは、そんな単純には運ばない。一攫千金(いっかくせんきん)を得るには、慎重に様子見だ。


 寝床(ねどこ)は木造建ての宿屋、PBパイセンと相部屋だ。チッ。せっかくだから、アンビリコの町のオンナを物色したかった。


「ギルドマスターじきじきのクエスト依頼かあ」


 パイセンはベッドに寝転がりながら、妙な物言いだった。むしろ、口許に怪しげな笑みを浮かべている。どこか、イセエビたちをあざけるような。


「なんスか、パイセン」


「レシピットは見どころがあるから言うけど、明日、ノヌーさんたちと一緒にダンジョンには行かないほうがいいからな」


「は?」


「明日の朝、早くにマジカエでプリマムに戻りな。黙って、1人で」


 こいつ……。


 俺は察した。ニタニタと笑っているPBの様子で察した。こいつは狂信者のフリをしつつ、俺と同じようにして、イセエビを狙っていたのだ。


「何を言ってんスか。俺はともかく、パイセンが1人であいつらを倒せるわけないでしょうよ。てか、俺の邪魔をするんなら、今すぐにでもパイセンをブチ殺しますよ」


「急に物騒だな。てか、レシピットの邪魔、って、何?」


「お互い悪党だ。言わなくたってわかるだろ」


 PBはじいっと俺を見つめてくる。


 俺は目玉を剥き出し、殺気全開で見下ろす。ちょっとでも変な真似をしたら、速攻で怒号、日本刀で一刀両断(いっとうりょうだん)


「そうだな」


 と、PBは緊張の糸をほぐすようにして鼻で笑う。


「レシピットの邪魔はしないよ。でも、レシピットこそノヌーさんに勝てるのか。もしかして、人間相手でも麻痺させられるのか」


「さあね」


 俺は(けむ)に巻きながら部屋のドアノブに手をかける。俺の本心を知られたからには一晩を共にするわけがねえ。いつ、寝込みを襲われるかわかりゃしねえ。


「どこ行く、レシピット」


「オンナの家」


「オンナ? アンビリコは初めてだろう?」


「これから引っ掛けに行く」


 PBの言葉をさえぎるようにしてドアを閉めた。




 アンビリコの酒場でアファアンヤというオンナを引っ掛けた。アファアンヤの家にて一泊し、狂信者どもに指定された時間前にはボロ宿に戻ってきたのだが、


 PBの姿が消えていた。


「どういうことだ、レシピット」


 なぜか、イセエビは俺を睨み据えてくる。 


「目覚めたらいなかったんですぅ」


 俺は捨て犬のような()れそぼった(まなこ)を返した。アファアンヤのイカした体つきを両腕にしていた事実などおくびにも出さず。


「ミスター・ノヌー、奴はクエストを目前にして臆病風(おくびょうかぜ)でも吹いたんじゃないのか」


「とにかく、クエスト攻略のためにはまごまごしていられない」


 イセエビは舌を打って不服そうであったが、信者たちの説得に応じ、PBの行方を追わずして、ダンジョンに向かうこととなった。


 狂信者どものあとを付いていく。いちばん後ろを歩く。ときおり、俺だけが後ろを振り返る。何の気配も感じないが、振り返らずにはいられない。


 PBは間違いなく尾行(びこう)してきている。昨晩(さくばん)のあいつの笑い方は、大金(たいきん)を狙っている悪党のものだ。


 させてたまるか……。30万Gは俺のものだ……。


 町を出て10分足らずでエアーズロックのような巨大な岩山のふもとにたどり着く。山の一部分が繰り抜かれており、そこがダンジョンの入り口だった。


「さて、行くか」


 気合いを入れるようにして呟いたイセエビの先導で、洞窟の中に入っていく。


 中は人の手が施されたかのように壁が垂直すいちょく(けず)られており、等間隔(とうかんかく)でランプの火が灯っている。


 薄暗いというよりか、明るい。自分たちの影がはっきりと見えるぐらいに明るい。


 また、通路の天井は高く、横幅もものすごく広い。5人が横一列に並んでもゆったりと歩ける。


 地下200階までこんな綺麗な洞窟なのかセロリババアに訊ねてみたら、少なくとも自分たちが潜ったことのある42F まではこの調子だそうだ。


 1Fから地下1Fに降りるさいも、ご丁寧に階段があるわけだった。


 意味不明だ。この巨大な洞窟は明らかに人の手が施されている。一体誰がなんのためにこんなものを作ったのか。


 地下1Fに下りると、早速、グーイがモゾモゾしていた。


 ハゲダルマボールが蹴飛ばして瞬殺する。ダンジョンにはモンスターがうようよ生息しているらしく、地下に(もぐ)れば潜るほど強くなっていくらしい。


 セロリババアは地図を広げながら、である。自分たちで作成したものだと言う。行き止まりだったり、トラップだったりと、1度来ただけでは順路が覚えきれないそうだ。


 面倒だな……。


 やがて、俺は地下5Fぐらいで帰りたくなってきた。日本刀を抜いて戦わされている。むしろ、当面はザコばっかりなので俺ばっかりがやらされている。


 そして、イセエビは俺ばっかりにやらせておきながら、Gは均等に分けてしまう。


 地下10Fぐらいになると、一撃では倒せなくなってくる。それなのに狂信者どもは見ているだけである。


「25Fぐらいから私たちもトライする。それまではレシピットがファイティングだ」


 Gは均等である。


 俺は段々と腹が立ってくる。喉も乾いてくる。クソッ。どっかに水汲み場はねえのか。


 戦わされているから、いつのまにやら俺が先頭を行かされている。


 そうして、13Fに来たところで、俺はトラップにかかってしまった。壁面(へきめん)から突如(とつじょ)として何本もの矢じりが発射(はっしゃ)されてきて、そのうちの3本を食らってしまった。


 すっげえ痛い。腕とか首とかこめかみとかに矢がぶっ刺さっている。血がだらだら出ている。


「大丈夫か!」なんて、脳筋どもが駆け寄ってきて矢を強引に抜いたわけだが、もうちょっと優しく抜けってんだ! バカ野郎!


 さらに俺を腹立たしくさせたのは、セロリババアの一言だった。


「道、間違えちゃった! こっちじゃなかった!」


 はあ? 矢がぶっ刺さったってのに「ごめん」の一言もねえのか、この野郎。前世だったら即死だぞ? だいたい、まだ13Fだってのに道を間違うってどういうことだ。


 セロリババアはあわてて草をすりつぶす。俺の傷口に訳のわからねえ粉末をこすりつけてくる。


 俺は笑顔で取り(つくろ)おうとしたが、さすがに引きつってしまう。


「集中力が切れたな。インターバルだ。ついでにランチにもしよう」


 イセエビが言って、休憩することになった。


 ハゲダルマボールが干し芋と、魔法瓶を取り出してきて、コップに注いでいく。チッ。湯気が出てやがる。喉が渇いている俺は冷たいもんが飲みてえんだ。


 こいつらは見ているだけだから、わかっちゃいねえ。


「まあ、先は長い。ゆっくり行こう」


 ハゲダルマボールがほざいているのだが、先は長いとはどういうことなのか。俺は不穏なものを覚えた。


 ちょっと怪しさを感じたので、訊ねてみる。


「目的の75Fにはどのくらいで辿り着けそうなんですか?」


 すると、3人は一斉に「うーん」と唸った。


 は? 俺の愛想笑いも陰を帯びていく。


 イセエビがとんでもないことを言った。


「42Fまでは2デイであった。そこからは我々には未知の領域だ。ゆえにゴールは早くても3日後。下手をすれば5日か6日はかかってしまうかもな」


 ……。


 俺は魔法瓶のコップを、あぐらを組んでいるハゲダルマボールの膝元に返す。


「さて」


 と、腰を上げ、ランプの灯火に白い歯を輝かせた。


「短いあいだでしたがありがとうございました。僕は帰ります。パーティーからも抜けます。ども、ありがとうございました」

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