2-3 禁じられた行為
ゴールドグーイを12匹、他にもニンゲングイや「イワヤマザル」というサルの群れをブッ殺していき、俺のLvはたちまち26になった。
たった一日でこれだ。心の笑いが止まらねえ。
「明日には30は軽く越えてきそうね」
セロリババアの言葉に、脳筋どもがうなずく。
「ミスター・ノヌー、明日は朝早くからGG狩りに出かけないか。今晩はペトロサ村に宿泊してだ」
傭兵のヒゲダルマボールが意味不明な発言。イセエビが「そうだな」とうなずく。
おいおいおいおい!
あんな崖っぷちの限界集落のどこに若いオンナがいるってんだ! なんなんだ、こいつら!
「ペトロサ村の地酒はなかなかだぞ?」
ヒゲダルマボールが俺の肩に腕を回してくる。
クソが……。
これだからザコを子分にしていたほうがマシなんだ。
Rank:Aになったら、こんなクソッタレども……。
ペトロサ村はゴールドグーイ目的の冒険者たちが頻繁にやって来るので、宿屋は当然、カフェとかパブとかバーとか、くだらねえところまで充実していた。
そんで、パブで歓迎会と来たもんだ。ウゼえ。こうなりゃ、イセエビのカネでやけ食いだ。
「もも肉の丸焼きと、ギガース牛のビーフジャーキー、フライドポテト――」
「レシピット」
ピーナッツバターに咎められた。3品ぽっちじゃねえか、と、思いきや、俺に顔を寄せてき、何者かに配慮するような神妙さで声をひそめる。
「このパーティー、肉は厳禁だから……」
「えっ?」
狐につままれたように連中を見やった。丸テーブルを囲む一団は、無言――、新入の無神経さ(?)を見て見ぬふり。というか、「ピーナッツバター、お前の教育がなってねえ」みたいな。いや、「この新入り、何を考えていやがんだ」かのような。
無言の圧。それによって形成された、緊張の沈黙。
いや……、じゃあ、先に言えや……。パーティーに入れる前に言えや……。わかっていたら、こんなアホな慣習を持った連中に参加しねえだろうが……。
「あっ。ああ、店員さん、今のは取り消しで」
情けないかな、俺は屈した。しばらくは高ランカーのコバンザメでいなければならない。
「レシピット。肉食はよくない」
ビールグラス片手に、イセエビが静かに説教を始める。
「キミは若いから仕方ない。だが、知るべきだろう。我々が食べる肉というのは、動物を殺したことで得られる。だが、動物は我々に食べられるために生まれてきたはずじゃない」
……。
モンスター、今日、めっちゃ殺したじゃねえか……。
「それに、動物の肉を食べると、心が荒む。知らず知らずのうちに荒む。しばらくは肉食を断ち切ってみたまえ。そうして、久しぶりに肉を食べてみたまえ。そのとき、わかる。心身が汚れていくことを感じる」
「ミスター・ノヌーの言うとおりだ。俺も昔は肉をむさぼっていたが、ミスター・ノヌーの教えを受け、今では穏やかな毎日だ」
教え……?
「そうだよ、レシピット。GGを麻痺させたあなたのスキルは素晴らしいものだけど、でも、あの罵りの奥底には、あなたの禍々しさを感じた。たとえ罵りであっても、心が穏やかであれば、モンスターへの慈しみがあふれてくるはず」
このババアは何をほざいてやがんだ!
ゴールドグーイをシビれさせるために、俺にさんざん怒鳴らせたあげくにこの説教だ。俺のレベルアップが目的だと言っているが、テメエらだってちゃっかりレベルアップしているじゃねえか! なにせ、こいつらだって12万ポイントの経験値を獲得したんだぞ!
自分を棚に上げて説教だなんてナメた連中だ。しかも、肉食NGという変な慣習を伏せたままで、俺をパーティーに入れた。詐欺行為もはなはだしい。
俺はピーナッツバターに視線を向ける。すると、ピーナッツバターはあわてて目を背けた。そして、ぎこちなくうなずく。
ピーナツバターもダマされたクチか。
ロイヤルナイツに在籍していたとかなんとか言っていた。名誉ある経歴なのだろう。その経歴を買われてパーティーに勧誘されたに違いない。肉食NGは伏せられたまま。
「言われてみれば、そうだったかもしれません」
俺は物分かりよさそうにして声音をゆるめた。
「僕はどこかでイライラしていたかもしれないし、どこかで殺気立っていたかもしれません。それはノヌーさんの言うように、肉を食べている行為から来ていたかもしれないとなると、食肉は断ってみるべきかも」
狂信者の3人は、ウムウムと偉そうにしてうなずいている。
翌日は日が出ないうちから村を出発し、GG狩りにはげむ。朝メシも昼メシも干し芋だった。信じられねえ。必要な栄養を満たしているとは思えねえ。肉を喰らう行為は心をすさませるだなんて、逆に肉が食えなくてイラついてくる。
フィアダイル山は昨日とは打って変わって霧が晴れており、GG狩りをしているパーティー3組とすれ違った。丸1日も罵声を吐き続けていたってのに、昨日よりも少ない9匹だった。
他のパーティーのせいだ。すれ違いざま、タックルして崖の下に叩き落とすべきだった。
んで、結局はLv32だ。チッ。
「レシピットの魔法ってギルド情報にも掲載されていませんし、どういう効果があるんでしょう」
ピーナッツバターが言い出し、ためしにモンスター相手にやってみようとなる。俺はさっさと帰りたいのだが、従わざるを得ない。
俺が今、覚えている魔法は、
ガズ フォメント プロベ リジュアナ
デガズ マジカエ イネブ デサタ
ガズを詠唱する。掌に紫色の煙玉が現れたので、イワヤマザルに投げつける。イワヤマザルは急に鼻を押さえて悶えだす。
「なんか、ちょっとクサくない?」
デガズを詠唱する。さきほどより大きな煙玉が現れ、イワヤマザルの群れに投げつける。煙玉は破裂すると、群れ全体に広がっていき、イワヤマザルはキイーッと悲鳴を上げながら、鼻や喉を押さえ始め、そして、一斉に後ろを向いて逃げた。
「すごいクサい。何、この匂い? もしかして、レシピットの魔法?」
セロリババアだけではなく、皆がクサいクサいと鼻をつまんでいる。俺はまったく何も匂わないのだが。
ニンゲングイが現れたので、フォメントを詠唱する。掌に白い粉が山盛り出てきたので、ニンゲングイにぶっかけてみる。すると、ニンゲングイはいっとき翼を広げたままピタリと止まった。やがて、急に目玉を剥き出し、俺にものすごい速さで突っ込んできた。しかし、俺とはまったく見当違いの方向に突っ込んでいき、そのまま崖の斜面にぶつかって自爆、ドサッと落ちてくる。
ニンゲングイはくちばしから白い体液を垂らしつつ、目玉を剥いてアヘアへしている。
プロベを詠唱すると、青い粉が掌に山盛りに出てきたので、ニンゲングイにかけてみる。ニンゲングイのアヘアへは停止し、目玉を剥いたまま、どこか一点だけを見つめている。
リジュアナを詠唱すると、緑色の煙玉が出てきた。ニンゲングイにぶつけてみると、急に翼をバタバタと動かし始め、ギャーギャー鳴き出した。苦しんでいるというより、ハイテンションになっている。やがて、飛び立ち、空をぐるぐるとまわりだす。
イネブは青い煙玉。ハイテンションの怪物鳥に投げつけると、ポトッと落ちてきた。熟睡している。くちばしから体液を垂らしながら。
デサタは黄色い煙玉。投げてみると、なんの反応もない。
デサタは人間にしか効果がないのだろうか。
ともかく、どれもこれもロクな魔法ではなく、狂信者たちからも感想はなかった。
「ノヌーさん、せっかくだからレシピットのマジカエでプリマムにムーブしない?」
気まずさを払うようにして言ったセロリババアだが、俺には意味がわからなかった。
「マジカエを使うとどうなるんでしょう」
「昨日、ニンゲングイの羽根を使ってここまで移動してきたでしょう? あれと同じ。記憶にある町や村ならいつでも移動できるの。魔法使いや賢者が習得できる魔法だけど、レシピットもそっち系統だから習得できていたのよ」
「ミスター・ノヌー。これからはニンゲングイの羽根に500Gも費やさずに済むな」
「そうだな。マジカエはありがたいかぎりだ」
ほほう……。他の魔法はクソの役にも立たねえが、これならもはや、こんな奴らに付き合う必要はなくなってきた。
俺は「マジカエ」と唱え、脳筋連中ともどもプリマムの町に戻ってきた。
明日は10時にギルド前に集合となった。今晩はくだらない飲み会などは無いらしい。
腹がへって仕方ない俺は、バカどもと別れると、さっそく、ステーキ屋を目指す。
「レシピット」
チッ。ピーナッツバターが追いかけてきた。
「ノヌーさんたちと別々だからって、肉を食べたりするなよ。あの人たち、匂いでわかるから」
俺は白白しい思いでピーナッツバターを見つめる。こいつには俺がお見通しなのか、それとも新入り思いのお人好しなのか。
反抗的な眼差しに俺の意図を察したか、ピーナッツバターは表情をこわばらせた。
「Lvが上がったからって、妙な考えはよせ。ノヌーさんたちの制裁はハンパじゃないぞ」




