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1-10 10G

 昼メシはステーキハウスを目指した。


 白磁板(ホワイトボード)で見つけたところによると、Tボーンステーキ300グラム付きのランチが、1人前、200Gとある。今の俺の所持金からすると大したあれじゃない。


「アニキっ、こんなの無駄むだづかいしすぎッスよっ。トリカム屋だったら、200日分ッスよっ」


「そんなこと言っているから、お前はいつまで経っても甲斐性かいしょうなしなんだ」


「やっぱ、Lvが上がると……」


 とか、なんとか、ぶつくさとつぶやいているパツパツローブ野郎をよそに町にもどってき、目当てのステーキハウスのドアを開ける。


 ピンギがワーワーと騒ぐものだから、どんな高級店だろうと思いきや、店内は高級な風情をかもしだしているのでもない。


 内装が木造仕立て、わりかし簡素(かんそ)な、居心地のよさそうな店である。


 肉汁が鉄板の上でジュージューとはじける音色が、俺の胸を実にときめかせる。


 というのもつか、はじける音色の鉄板に向かい合っているのは、どこかで見た顔であった。


「あの青い髪の子、昨日の賢者の子ッスよ。どこかのパーティーに参加したんスかね」


 ピンギの言うとおり、クソガキはテーブルを合計3人で囲んでいた。クソガキのほかに、30代ほどの中年男性2人。


「いらっしゃいませ」


 店員がやって来、クソガキたちとは離れたテーブルに案内された。


 クソガキは俺たちに気づいておらず、もくもくとステーキを食べている。中年男性2人だけで和気あいあいと話に興じている。


「仲間っていうよりか、オッサンたちの手下って感じだぜ」


「あの2人のジョブは、1人が剣士、1人が盗賊って感じッスね。身なりからして、まあまあのランカーっぽいッス」


気色きっしょくわるっ。赤の他人をいちいち詮索せんさくしないでくれよ。これから高級肉を食べるってのに」


「す、すいませんッス」


「そういう値踏ねぶみをさ、あんなオッサンでやって何が楽しい? オンナのしならいつでも付き合ってやるけどさ、オッサンの話題わだいだなんて反吐へどが出る」


 せっかくの肉がマズくなりそうなので、肉のついでに麦酒(ビール)も頼んだ。


「昼間っから酒ッスか? 午後からまたLvアップに出るんスよね?」


「今日は面倒だから、もういいんじゃないの」


「ええっ! そんなあっ! 目指せ、フィアダイルじゃないんスか」


「なんか面倒だな……」


 俺は頬杖ほおづえをつき、物憂げな気持ちそのままに、クソガキたちのテーブルをなんとなくながめる。

 

 連中は、食事を終え、店員を呼び出していた。クソガキが財布から金貨を取り出している。オッサン2人は手の爪で歯糞はくそをかき出しているだけ。やはり、クソガキは金づるにされているだけのようだ。


 あんなやつらにむしり取られるなら、俺が奪い取ってやればよかった。


 連中は俺たちに気づかないままに店をあとにした。クソガキが、オッサン2人に連れられて行くような格好で。心なしか、ギルドの裏庭でやり取りした時より、覇気はきが失せている。


 もっとも、俺には関係ない。運ばれてきたビールに口をつけ、労働のあとの解放感とともにこの(ノド)はグビグビとうるおされていく。


「やっぱ、パーティに参加させるべきだったッス。オデたちのパーティに入れば、変な人たちにタカられることはなかったッス」


 そんなことより、と、俺はビールのジョッキをテーブルに置き、白磁板(ホワイトボード)をタッチ&スワイプしていく。


「どうしたんスか?」


「ふと思ったんだけど、どこかに瞬間移動するような魔法をさ、魔法使いなんだからそういうのを習得しゅうとくできないの?」


「できるッスよ。でも、1度行ったところに移動できる魔法ッス。フィアダイルに移動するってことッスよね。でも、無理ッス。オデが1度も行ったことのない場所に行くのは無理ッス」


「チッ」


 Tボーンステーキが運ばれてきて、柔らかな赤身肉に俺は舌鼓したづつみ。ピンギはフォークに刺した肉を口の中に運ぶ前に、何度も唾を飲み込んだ。瞳孔どうこうをギンギンにひろげながら。まるで、ステーキ童貞だ。


「そういうアイテムはないのかい。瞬間移動ができるアイテム」


 俺の問いかけにピンギは肉を噛みしめている最中だった。二十顎にじゅうあご、いや、三十顎さんじゅうあご、モグモグと、モグモグと、いつまで経っても喉に通さず、口の中を唾液だえき旨味うまみでいっぱいにして、口許くちもとアブラでテカらせて、その開ききった瞳で何を眺めているのやら、もう、わかりゃしない。 


「おい、聞いてんのかよ」


 三十顎をコクコクと揺らす。ようやく肉を飲み込んだが、いっときのあいだ、童貞喪失後のほのかな感動にひたっていた。


「そういうアイテムならあるッス」


 しかし、そのアイテムもやはり、1度行ったことのある場所にしか移動できないという。


 ビールで肉を流し込んでいきながら、俺は思う。ランカーであれば、フィアダイル山に行ったことがあるんじゃないだろうか。


 ピンギはすっかりステーキをむさぼっている。口の周りを脂まみれにして。


 俺は白磁板ホワイトボードを出してき、ギルドにMAILを送る。ジョー・ノヌーと面接希望。


 ステーキハウスをあとにし、噴水広場のベンチに寝転がった。


「Lv上げに行かないんスか」


「もう帰っていいよ。俺はこれからナンパするからさ。明日の朝、またギルドの前で」


「じゃあ、1人でLv上げに行くッス」


「そっか。くれぐれも気をつけて」


 ピンギの後ろ姿を見送りつつ、噴水広場をながめていく。物売りのおばあさんたちが、7、8人、野菜や果物を絨毯じゅうたんの上に広げており、あとは水売りのオンナや天秤桶テンビンオケかついだみすぼらしい青年、兵隊などがたまに通りすぎていくだけで、ナンパをするには不作だ。


 やはり、若いオンナは夕方以降か。


 それに、ナンパするには、俺の身なり――。


 旅人の服に旅人のズボン。靴もナイフもベルトまで旅人。こんな色気のない服装では、誘えるオンナも誘えなくなってしまう。


 所持金も増えたことだし、武器や防具を探そう。


 物売りのおばあさんにそれっぽい店のありたずね、噴水広場をあとにする。


 30番街の通称「ファッションストリート」にやって来、軒先に並ぶ服飾店、雑貨店、冒険者向けの武器屋、防具屋もそれなりにある。店先を覗いていけば、値段もピンからキリまで、今の所持金で事足りるものから、まったく歯が立たない高価な武器も。


 わかったのは、今の所持金では中途半端なものしかそろえられないということだった。


 Lvもさることながら、Gもおぼつかないと来たもんだ。やはり、手っ取り早いのは、ランカーパーティーのコバンザメだと再認識する。


 服を買い揃えるのはやめにしようとしたところ、通りすがりに中古屋があった。


 せっかくだから、店の中を覗いてみると、なんと……、飾られている武器や防具の中に、日本刀が……。


 さぞかしお高いに違いない。と、思いきや、値札は10G!


 あわてふためき、店員を探す。店の奥のほうのテーブル、新聞を読みながら葉巻を吹かしているハゲ頭がいる。


「ダンナ! あの日本刀は本気で10Gなのか!?」


「ニホントー?」


 ハゲオヤジはメガネを外し、おっくうそうに腰を上げた。日本刀の棚の前にやって来ると、


「ああ、サムライソードのことか。あんちゃんとこの国じゃニホントーって言うのかい?」


「そんなことはどうでもいい。これは本気で10Gなのか?」


「そだよ。言っとくが、オレは勉強なんかする気ねえぞ。つっても、あんちゃんじゃサムライソードは装備できねえだろうよ」


「装備?」


「ハア? やだねえ、田舎モンは。サムライソードを装備できんのはな、武士モノノフのジョブだけだ。まあ、武士モノノフはこの世に5人もいねえだろ。10Gで誰も装備できねえガラクタを買ってくれるんなら、是非ともだけどな」


 ハゲオヤジは、何が可笑おかしいのか、ゲラゲラと笑いながら奥のテーブルへとすっこんでいく。


 装備――。とは、なんなのか……。俺はしばらくその場で突っ立って悩む。日本刀を振り回すぐらい誰にでもできることなのに、サムライのジョブじゃなければ装備ができない?


 試しに、俺は日本刀を勝手に手に取り、さやからかたなを抜いてくる。光り輝く刀身とうしんには、灰色アッシュグレーヘアーの俺の姿が映し出されている。


挿絵(By みてみん)


 上段に構える。振り下ろしてみる。横に払ってみる。べつだん、普通に振り回せているが。


 すると、いつからそうしていたのか、ハゲオヤジが腰を抜かしており、床に尻もちをついていた。


「あ、あ、あんちゃん――、あんちゃんは、モ、モ、武士モノノフだったのかい……?」


 俺は首をかしげる。


「いや……、愚者だけど……?」



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