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Iさんの場合

『怨霊の背景を探る!』……。

 恨みつらみが、怨霊の元となる──。

 当ラジオ番組は、怨霊となった人々にインタビューを敢行!

 怨霊の恨みを聞くことで、今現在生きている人々に警鐘を鳴らす番組である!


 前回までのあらすじ……。現在八人の怨霊へのインタビューに成功した当番組だが、そのうち数名から「しきたり」という名の組織の関与が語られる。

 長年「しきたり」から嫌がらせを受けてきた怨霊・Hさんへのインタビューを通して、我々は「しきたり」の実態の一端を知ることができた。

「しきたり」は情報を搾取するための構造であり、クリエイターはアイデアの闇取引を、産業界は違法マーケティングを目的に関与しているというのだ……。

 都市伝説? オカルト的な噂話? それとも集団幻覚? 「しきたり」とは、いったいなんなのか──!?


 ……当番組パーソナリティは、いろんな意味で、おびえていまーす!! もしかしたら、この番組のスポンサーも……。

 リスナーの皆さーん! いつも言ってますが、この番組が本当に打ち切りになったら、そういうことかもしれませーん! あははは!


 はい! というわけで、本日もはじまりました、『怨霊の背景を探る!』のコーナー!

 怨霊の方に、霊界通信を通じて、怨霊になった理由についてうかがっていきます。

 ……わっ、なんだこれ……え? ブロッコリーの欠片……? 前回Hさんが残してったやつですかね? もう、掃除してって言ったのに!

 え? ……掃除はした? でもスタジオの床やデスクの上にあるよ?

 あっ……ブロッコリーの欠片がもぞもぞと動いています……どういうことぉー!?

 こ、怖がっててもらちがあかないので、本日のゲストの方をお呼びしたいと思います。

 本日は、怨霊のIさんにお越しいただいておりまーす!


「ああああ、僕、出てもいいんですかね? 本当に? いいんでしょうか?」


 もう番組ははじまってますから、出演されてますよ!


「う、うわあああああ!」


 Iさんは、ちょっと混乱状態にあるようですね。

 どうしてそんなふうにおびえておられるんですか? 人前に出るのが得意でない……とか?

 あ、もしかして、ブロッコリーの欠片が怖い?


「ブロッコリーは、特には……食卓に並べば、普通に食べますし……。ただ、僕、『しきたり』で加害してた側なんで……」


 えっ!? 「しきたり」で加害していた側!?

 大変気になるところですが、まずはIさんについて、おうかがいしていきます。Iさんはご存命ですか?


「いえ、亡くなってます。2年ほど前かな?」


 2年前ですか。では怨念も新鮮ということですね。

 いったいどのようにして、亡くなられたんですか?


「それが、よくわかりません……。ただ、亡くなる前日に、怨霊が枕元に立っていて──」


 怨霊が!? え!? 呪い殺されたんですか?

 これは……これはものすごく、気になる話です!

 具体的には、どういう感じだったんでしょうか。


「『しきたり』の嫌がらせを苦に自殺した方が、怨霊化したみたいです。でも呪い殺されたかどうかは、わかりません。……無数の異様なものの気配はありましたが……」


 あああ……。

 前回のHさんは『しきたり』の嫌がらせを苦に自殺されたんですよ……。

 もしかして、Hさんなんじゃ?


「さぁ……どなたかまでは、ちょっとわかりません……」


 お話の途中ですが、一旦CMです。CMをはさんで、引き続き、Iさんにお話をうかがっていきます。なぜ怨霊になられたのか、まだ聞けていませんからね。続きはCMのあとで!


***


 さて、引き続き、Iさんからお話をうかがっていきます。よろしくお願いします。


「よろしくお願いします」


 Iさんが怨霊になられた理由については、まだうかがえていません。しかし「しきたり」に加害側として関わっていた……という、重要な証言が飛び出しました。


「そうで……うわっ! ブロッコリーの欠片が! う……動いてる……! 虫がいたのか!?」


 あらー。ブロッコリーの欠片がもぞもぞしてますね。

 これね、前回Hさんがお越しくださったときに、天井からぶら下がってたブロッコリーです。

 スタッフが掃除をしてくれたらしいんですけど、拭いても拭いても、出てくるらしくて──まるで、怨念みたいですよねぇ。

 床とかデスクの上にブロッコリーの欠片が落ちてますが、気にしないでください。


「いや、そんなこと言ったって、気になりますよ! うごめいてるし!」


 わははは! ところで、Iさんは、どのような怨念をお持ちなんですか?


「しれっと進めますね!? 僕ですか? 僕は──『しきたり』に関わってしまったことを、後悔しています」


 ほほう? ということは、後悔から、この世にとどまって怨霊化してしまった感じでしょうか。

 Iさんは、「しきたり」にどのような関与を?


「僕は指示を受けて、それに従っただけです。相手は悪い奴だから──と」


 相手が悪い奴? それはどういうことです?

 もう少しくわしくお聞かせいただけますか?


「はい。『しきたり』が嫌がらせのターゲットにしていたのは、ある女性でした。過去に、盗作をした──と。だから同じような目に遭わせることで、彼女自身に『わからせるように』と──そう聞いていたんです」


 ふーむ? 因果応報的なことですかね?


「そうですね。僕は、自分が正しいつもりでいました。彼女の被害に遭った人の代理復讐を、正義心からした。でも、間違いでした。……彼女、自殺したんです」


 あらー……それはまた……。


「何も、何も、死ぬことはないじゃないですか……! 彼女の作品や遺書に、嫌がらせについて書いてあって──そもそも盗作じゃ、なかったんです」


 え? どういうことですか?


「濡れ衣だったんです……。確かに彼女は、影響は受けていた。でも実際に読むと、別物だった。……舞台設定が似てる作品なんて、山ほどあるでしょう? 学園物とかファンタジーとか。それを加害側が『盗作だ』と決めつけていただけだった。──自分たちが彼女から盗作したことを、正当化するために」


 え? え? つまり──。

 加害側の口車に乗せられて、嫌がらせに加担してしまったということですか?


「……はい。彼女の作品は、盗作ではなかったんです。だからそれを理由に、彼女のアイデアを利用した作品を作っていた僕らは、ただの加害者──本当の盗作犯になってしまった。『わからせる』じゃなくて、『わからせられた』──そんな感じです」


 そうですか……。

 それで、自殺した女性が怨霊化したというのは?


「はい。夜中に家の前で、しくしくと泣く声がいつまでも聞こえてきて──。僕もメンタルが弱ってしまいました。ノイズキャンセリング機能がついたイヤホンをしたんですけど、それでも聞こえてくるんです」


 本物の怨霊の嘆きなら、イヤホンでは防げないでしょうねぇ……。

 おや? 机の上で、ブロッコリーの欠片がもぞもぞと集まっていきます……。

 何か、文字を作っている──?

 でもブロッコリーの欠片が足りなくて、文字を作れないみたいですね。

 コックリさんみたいな表があれば、意思疎通がとれますかね?

 あははは! ──ブロッコリーとの意思疎通って、なんだ。


「話、続けていいですか? ……彼女も、影響を受けることはあったようです。単語や表現に、他の作品に似た箇所はありました。偶然の一致や有名作品のオマージュもあった。歴史小説も書いていたし、資料や設定を共有した創作もしていた。……『しきたり』は、その因果応報だと言って、彼女の情報を闇取引してたんです。『身売り』と言って──。中には商業媒体の作品もありました。どう考えても、やりすぎです」


 そういえば、以前この番組でインタビューした、Bさんという方がいらっしゃいます。

 Bさんは、作品アイデアやプライバシーを無断で利用されたと言っていました。

 ──お、今スタッフが、コックリさんの表を作ってきてくれました。いいね! 仕事が早い!

 ブロッコリーさん、これで意思疎通がとれますかね?

 すみません、Iさん。お話の続きをお願いします。


「おそらくBさんみたいなケース、他にもあると思います。……だって、『しきたり』は、僕が彼女のアイデアを無断利用したことを理由に、今度は僕から情報を搾取したので」


 えっ……それ、かなり負のループに入ってません?

 しかしIさんのお話は、先日ご出演くださったHさんがおっしゃっていたこととも一致します。

「しきたり」は、「これまでお前がしてきたことだろう?」と正当化するけれど、被害者のしてきたこととは、少しズレがある──と。

 自分たちに都合のいい解釈をしたり、言いがかりをつけたり、濡れ衣を着せたりして、情報を搾取するそうですね。

 それが、より広くアイデアやプライバシーの情報搾取を行う目的であれば──非常におぞましい話です。

 おや? ブロッコリーさんの移動が終わったようです。

 順番に動いてくれてますね……えーと……「う」「つ」「ぼ」「か」「ず」「ら」……? ウツボカズラ?


「ああ……。『しきたり』は、お金か夢を選べと言います。そういうものを鼻先にチラつかせて、加害に加担させるんです。……食虫植物みたいですよね。多くの人が、甘い言葉に誘われて、加担しました」


 なるほど、ブロッコリーさんはそれを伝えたかったんですね。

 Iさんには、なにかそういう甘い言葉、あったんですか?


「僕の場合は、バズれるよ……と。確かに僕の作品は注目されました。……でも、悪い意味での注目だった。しかも今度は僕の作品が、彼女への加害を理由に盗用されるようになりました。アイデアを搾取されてしまったんです」


 まさに、食虫植物ですねぇ……。


「彼女、生前いくつか告発してたんです。SNSでも発信してたし、自分の被害も小説化してた。……僕の身にも、似たようなことが起きたんです。それで彼女が原因かと思って、死後も彼女を叩いた。逆ギレだろ、って。彼女のアイデアやプライバシーも無断で利用して、作品を作りました。手練手管で方々の人をだまくらかしている──とか。彼女の死後、告発や作品がSNSでバズって称賛されていても、目に入らないようにしていた。でも──彼女のせいじゃ、なかった」


 机の上で、ブロッコリーの欠片が動いていきます……!

「し」「き」「た」「り」……? 「しきたり」? その女性がやったのではなく、「しきたり」がやった──ということみたいですね。


「はい。そうだったみたいです。僕は彼女のアイデアを使うことに、良心の呵責がありました。だから妙なことが起こる原因は、彼女だと誤解してしまった。でも──ある夜、彼女が僕の枕元に立って……」


 えっ!? その方、いらっしゃったんですか!?

 それは怖いですね……。


「乱れた髪の隙間から、じっと僕をにらんでいました。いつものように、しくしくと泣いて──言ったんです」


 な、なんて?


「私じゃない──と」


 ……息の詰まる展開ですね。

 それで、Iさんはどうされたんですか?


「僕はそのとき、まだ彼女のせいだと思っていたので、文句を言ったんです。そうしたら彼女、そっと背を向けて去ってしまいました。あとには、たくさんの怨霊の気配が……。きっとこれまでの『しきたり』被害者たちの怨霊だと思います。一人や二人じゃなかった。……そうして翌朝、僕は死んでいたんです」


 ……はああああ。思わず深いため息が出てしまいます。

 しかしIさんはどのようにして、彼女のせいではなかったと気がついたんですか?


「はい。死後も気になって、あちこち見て回ってたんですよ。彼女の遺したさまざまな情報に触れたりだとか、加担してた他の人の様子を見に行ったりだとか。そこで知りました。これは『しきたり』の因果応報が僕にはね返ってきているだけで、彼女が原因じゃない……と。お金を選んでも、夢を選んでも、最終的には食べられるんだ──と」


 なんともやるせない話ですね。完全に悪循環じゃないですか!


「そうですね。ですから僕が怨霊になったのは……自分が彼女にしたことへの、後悔から──です。彼女は死んで、作品を作らなくなった。その分、彼女の夢を奪えるよ──中には、そんなふうに最初から奪う目的で嫌がらせに加担した人たちもいたみたいですね」


 えっ……えげつない話ですね。

 そういうので夢を叶えて、うれしいんですかね?

『蜘蛛の糸』とか蠱毒みたいな話じゃないですか。


「本当に、どうして加担してしまったんだろう。……奪う側になった人たちは、彼女がこれまでに受けて来た被害を全て、因果応報で受けることになるんです。彼女の人生はかなり波瀾万丈で、えげつない経験が多すぎる。絞殺されかけたり、ウイスキーの瓶で頭をかち割られたり……あんなのに耐えられる人なんかいません。もう地獄絵図ですよ。なのにそれを知らないから、彼女から奪うために嫌がらせをする人がいる」


 ……やっぱりIさんのお話に出てくるその彼女って、Hさんだったりしません?


「……わからないです。でも、彼女がいなくなってから、みんな気がついた。本当は彼女が守ってくれてたんだって。これまで彼女が嫌がらせに耐えて、防波堤になってくれてたって。……だからみんな、彼女に『戻って来てくれ』と言う。でも彼女は、死んでいる──。僕には『しきたり』に関わった後悔しかありません。浅はかな正義感だった」


 なるほど……。負のループから自分たちを守ってくれていた人を攻撃して追い出し、自殺に追い込んだってことですね……。

 なんとも救いのない話です。

 でも、後悔から怨霊になることって、あるんですね。

 あっ、机の上のブロッコリーの欠片が集まって、形を作っていきます。

 ……踊ってますね? これ……。なんで?


「僕が怨霊になった理由は後悔ですが、『しきたり』で甘い言葉をかけてきた連中への憎しみは、ちゃんとあります」


 ああ! なるほど! それで怨霊になられたんですね。

 Iさん、本日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


 それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!

 ……「うまい話には裏がある!」……こんなところですかねー。

 リスナーの皆さんも、気をつけましょう!


 この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!

 ブロッコリーさんも、ありがとうございました!

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