Uさんの場合
『怨霊の背景を探る!』、このコーナーは、怨霊の方々にインタビューを敢行!
なぜ怨霊になったのか? どんな無念があるのか?
この世に囚われている理由を聞いて、生きている我々が怨霊にならないようにしよう……というコーナーです。
本日はゲストに、怨霊のUさんをお呼びしております!
「Uです。よろしく」
こちらこそ、よろしくお願いします。
例によって、私パーソナリティには、Uさんのお姿が見えております。霊界通信って便利ですね!
Uさんは、何のお仕事をされていたのでしょうか。アームカバーとエプロンをしてらして、職人さんっぽい印象ですが……。
「いや、そのまま。職人です。木工が多かったかな」
なるほど、そうなんですね!
早速ですが、Uさんはどんな無念を抱えてらっしゃいますか?
「えーと……うまく説明できるかわかんないけど。……親方や先輩が、技術を教えてくれなくて」
なるほど?
「いじめとかそういうのではなく……こう、昔からの『見て学べ』みたいな……」
あー! はいはい!
職人の世界では、そういうことがよくあると言いますね!
「自分の技術を磨くのが仕事なんで、まあ、ある程度しゃーないなーってとこはあるんですけど。……でも『使えない』って怒るのは、ちょっと違うだろ、と」
なーるほど。
「使えない」って言い方、感じ悪いですね。
「そうそう。『使えない』っていうなら、使いものになるように教えるもんじゃね? と。道具じゃないですから、僕らも。……まあそれ言って、親方からゲンコツ食らったんスけど」
あらー。昔の職人さんだと、そういうこともあるかもしれませんね。
割と聞きます。高度成長期時代の職人さんが技術継承に積極的ではなくて、技術が断絶してる業界がある……って。
「ですよねぇ。技術が断絶するより、後続に教えた方がいい。縁起でもないって言われるけど、親方が亡くなったり、退職したりして技術が失われてからじゃ、遅いんで」
なるほど。Uさんの無念は、そういうところですか?
「はい。『使えない』『使えない』って、ウルセーんだよ、タコ! と」
わははは! 切れ味鋭い!
お、バイクですかね? これは。ブルルンとエンジンの音が聞こえてきます……。
「さっき話したようなことが原因で亡くなったとかじゃないんス。僕、突然事故で亡くなったんで。でも自分の人生を振り返ってみたときに、あれはないよなぁ……って」
そうでしたか。
ではここで、一旦CMをはさみましょう。
CMのあと、Uさんのお話をうかがっていきます。続きはCMのあとで!
***
はい。本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナーは、Uさんにお越しいただいております。
Uさんは事故で亡くなられたときに、自分の人生を振り返って、思うことがあった、と。
技術継承がされなかったことに、不満をお持ちだということでしたね。
「はい。……先輩や親方が代わりに全部やってしまうのって、ちょっと違うんじゃないの、と」
なるほど。後続を育てるために、任せてくれてもいいのに……ってことですね?
「僕の出来があまりよくなかったんだろうなーと、反省するところはあるんですけど。でも後続にある程度任せて、それをフォローするのも先輩や親方の役目なんじゃないか……と思うんス」
なるほどなるほど。
Uさんは職人さんですが、一般企業などでもたまに聞く話ではありますね。
仕事の割り振りをせずに、できる人が抱え込んでしまう……というケース。
できる人の方も、休日に呼び出されて休みがなくなってしまったとか、過重労働になってしまった……なんてことがあると聞きます。
「それ、後続が育ってたら、避けられることじゃないですか?」
まあ、そうですね。
サポートに入るだけでも、ちょっと違ったりします。
「ですよねぇ。しかも『使えない』って言う割に、僕のアイデアを使ってたりするんス。意味わかんないですよ。『使えない』ならアイデア使うなよと」
あー。それは腹立ちますね。
「しかもですよ! 親方には『自分のアイデアです〜』みたいな顔して提案してるんス。いや、それは違うだろ!? Uくんが考えてくれましたーとか、一言言えば済む話じゃないですか? 筋通せやって思っちゃって」
うーわー! いますいます!
そういう、手柄を横取りするタイプの人!
器用なんでしょうけど……、私はその手の世渡り上手、あんまり好きじゃないですねー。
不器用でも一生懸命やってる人の方が、好感が持てます。
「Uくんが考えてくれましたーって親方にも言ってくれるなら、全然いいんスよ。だって、いい作品を作るのが、職人の役目じゃないですか」
職人さんは、やっぱりいい仕事するのが一番ですからね。
「そうっス。仕事である以上、そのアイデアも含めて、評価とか給料とか決まるわけじゃないですか。……なんか、ずっこいなーって」
たーしーかーにー。
それが恨みの元ですか?
「いや、恨んではいないっス。ずる賢い奴だなぁとか、親方ちゃんと見とけやとは、思いますけど。……先輩の顔をじっと見てたら、うろたえてたし。そっからは、ちゃんと、Uくんのアイデアですって言ってくれるようになったし」
お! それはよかったですね!
しかしそれなら、なぜ怨霊に?
おっと……またエンジン音が聞こえてきます。
結構大きいですね。リスナーの皆さんにも聞こえますかね?
「あー。僕ね、欲しい車があったんスよ。シャコタンの、いかつい、かっけーやつ。それ買うために、お金貯めてたんですけど。……事故って死んじゃったんで、買えなかったんスよね」
なるほど! そういう無念でしたか。
「そうそう。なんで買えなかったのかなぁ……と考えてたら、アイデア横取りされたことを思い出しちゃって。……あれがちゃんと評価されてたら、もっと給料あったんじゃね? もしかしたら車買えたんじゃね? って……」
ああー。そういうのって就職氷河期以降、結構ありましたよね。
こんなにブラック労働してるのに、なんでこんなに給料安いんだ? みたいな。
……今、若者のナントカ離れーみたいなことがよく言われてますよね。
でもそれを買うお金や余裕がないと、離れてしまうのは仕方がないことです。
ライフワークバランスがちゃんとしてないと、余暇を過ごすにしても、趣味にお金を使うにしても、難しいじゃないですか。
ちゃんと対価を得るってことが大切で、そこを疎かにしちゃったのが「失われた30年」の原因なんじゃないかなーと、個人的には思います。
内需って、日本で働く人のお給料で成り立ってますからね。
「あー。僕は昭和に亡くなったんで、全然ピンと来ないんですけど」
わはは。そうですか。
「業界の人不足とかもあると思いますよ。やっぱり人気のある仕事と、そうじゃない仕事ってあるんで」
ああー。それもあるかもしれませんね。
バブルの頃は、3Kとかいって、結構仕事を選ぶようなところもありましたから。
「仕事選ぶこと自体は、いいと思うんスけどね。……でもしんどいとこばっかりクローズアップするのは、残念っつーか。建築とか、一時期めっちゃ叩かれてた業界じゃないですか? でも建物が建ったとき、やっぱうれしいと思いますよ」
それはあるでしょうねー。
私の友人で、親御さんが建築関係の方がいるんですけど。
子供の頃、よく「これは父ちゃんが建てたんだぞ」って聞かされてたって聞いてます。
「ですよね。僕の友達の職人さんも言ってました」
エンジン音、すごいですね。
これはUさんが乗りたかった車の音ですか?
「そうかもしんないっスね。事故って轢かれたときの音かもしんないけど。あははは」
そ、そうですかぁ……。
Uさん、本日はお話を聞かせてくださって、ありがとうございました。
「全然いいっスよ。なんか、他の人みたいに深刻な恨みとかじゃなくて、すんません」
いえ! お話をうかがえてよかったです。
さて、それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめです。
……『不器用でも、一生懸命!』……これ、Uさんの生き方だったんじゃないかって気がします。
私はそんなUさんの話が聞けてよかったですね。
がんばった対価をきっちり得ることは、健全な社会を維持するためにも必要なんじゃないかって思います。
……あら。エンジン音に、パラリラパラリラーという懐かしの音が混ざって聞こえますね。
怨霊……ではなくて、スタジオの外を走ってるみたいです。
暴走族って、絶滅してなかったんですねー。わははは!
さて。この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回もお楽しみに!




