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Tさんの場合

『怨霊の背景を探る!』……。

 このコーナーでは、怨霊の皆さんに霊界通信を通してインタビューを行い、なぜ怨霊になったのか? どんな無念があるのか? についてうかがっていきます。

 怨霊の方々の無念を聞いて、生きている我々が怨霊にならないように注意しよう……という、意外と社会派のコーナーです。

 本日はゲストに、怨霊のTさんをお呼びしておりま……え? どなたがTさん? 何人もいらっしゃいますけど。

 ……あ、今日は学校なんですかね? 教室のような風景が見えます。机が並んでいて、さまざまな年齢・性別の方が座っています。

 チャイムまで聞こえてきました。なんだか懐かしいですねー。


「きりーつ。礼! よろしくお願いします」


 はい。よろしくお願いします。

 それで、本日のインタビューに応じてくださったTさんは、どなたでしょうか?


「はい。私です」


 例によって、私、パーソナリティには、霊界通信でTさんのお姿……というよりも、教室とそこに集まった面々が見えております。

 なんだか、さまざまな年代の方がいますね? セーラー服におさげ髪の女学生っぽい人もいれば、ブレザーを着て髪を染めている若者もいます。

 Tさんはどのような無念から、怨霊になられたんですか?


「前々回、ヤングケアラーの話、してたでしょ? 私の話も聞いてもらえるかも……って。そしたらみんな出たいって」


 あはは。そうなんですね。

 前々回のRさんは介護離職をされた方でしたね。介護する中で、ヤングケアラー……家族を介護している若者も見かけた……とおっしゃっていました。

 しかし、皆出たいって……これだけ人数がいると、うまくインタビューできるか、ちょっと不安ですね。

 生きている人間に霊が取り憑くなんて話をたまに聞きますが、怨霊同士でもそういうことがある?


「うーんと、私たちは学校にいる怨霊です。みんな、学校に行きたかったって無念を抱えています」


 あー! それで学校に!

 なるほど、そういうことだったんですね。

 無念の内容としては、似通っているわけですね。


「理由は、みんな違うんですけど」


 そうでしたか。

 ちょっとここで、一旦CMをはさみます。

 CMのあと、皆さんのお話をくわしくうかがっていきます。続きはCMのあとで!


***


 はい。本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナーは、Tさんを筆頭に、学校に行きたかった無念を抱えた人たちにお越しいただいております。

 Tさんはどのような理由で進学をあきらめたんですか?


「私はヤングケアラーです。介護が必要な家族がいて」


 ご家族の介護に追われて、学校に通えなかった……ということですね。

 前回、前々回で介護の話が出てきたので、ちょっと調べたんですが……。

 介護と一口に言っても、状況はさまざまみたいですね。

 たとえば徘徊する方を介護する場合などは、あまり目を離すことができない。

 Tさんは学校に通えないほど……ということですから、あまり目を離せない方を介護していたってことでしょうか。


「はい。家で勉強はしてました。でも、介護しながらで……。成績が落ちちゃって、受験に失敗してしまいました」


 それは悪循環ですね……。

 自宅介護されてたんですね。


「はい。前にインタビューを受けてたRさんが、『恵まれた人たちは努力不足だと、簡単に言えちゃう』って言ってたの、本当で……。私、頑張ってないわけじゃないのにって……。介護して、家事もして、お医者さんにも付き添って、受験勉強もして……なのに私の努力不足にされてしまうのが、どうしても納得いかなくて。これ以上、どう頑張れっていうの? って……ぐすっ……」


 ああ、泣かないでください。Tさんは頑張りすぎるほど、頑張ってらしたんだと思います。……悔しいですよね。

 私の友人から聞いた話なんですが、受験シーズンって、親もすごく気を使うそうですね。

 私も、夜食を作ってもらった記憶があります。

 他の受験生が勉強に専念できる中で、Tさんはそういうわけにはいかなかった。


「はい……。ぐすっ……」


 誰か、ハンカチかティッシュ持ってません? Tさんに貸してあげてください。


「はいはい! 先生! 次! 俺! 俺!」


 あははは! オレオレ詐欺みたいな人がいますね!

 いかにも昭和という感じの……タンクトップに学帽をかぶった方です。

 あなたは、どんな理由で学校に行けなかったんですか? 聞かせてください。


「俺は、貧乏だったから学校に行けませんでした!」


 ああー。経済的理由というやつですね。よく聞きます。

 昭和の人っぽいですが、現代でも似た話を聞きますよね。

 ……そこでギュッと唇を噛み締めているあなたは?


「あ……私は……。『女の子には学がなくてもいいだろう』……って」


 うわあ……。今だとSNSとかで炎上するやつですね。

 昔はそういう親、たまにいました。

 今は女性も社会で活躍する人が多いですから、多少は減ってきたのかなーと思いますが……。

 隅っこで恥ずかしそうにしてるあなたは?


「え? この流れでオレ? 恥ずかしいな」


 まあまあ、そう言わずに。


「オレ、勉強できなくって。ほんっと勉強が苦手だったんスよね。親からは手に職つけろって言われたんスけど。……でも同学年の連中が進学してて、ちょっと羨ましかったな。その輪の中に、だんだん入れなくなっちゃうってーか」


 なるほどー。疎外感があったってことですね。

 聞いてみると、さまざまな理由が出てきますね。

 恵まれた人たちは、進学したいならすればいいじゃん、みたいなことを簡単に言ってしまいますが、残酷ですよね……。

 努力だけでは、どうすることもできないこともある。

「苦労してても、大学に行ってる人はいる!」みたいなこと、言う人もいますけど、ヤングケアラーのTさんみたいに、そもそもの勉強時間が確保できない……という人だっています。

 経済的理由のある人にだって、女性に学は必要ないと言われてしまった人にだって、「自分でお金を貯めて、行けばいいじゃん。奨学金だってあるでしょ?」なーんて、簡単に言えてしまう人がいるのも、確かです。

 でもそれ、一度社会人になって、自分の生活費を稼ぐようになると、なかなかそういうわけにはいかないんですよね。

 学校に行く時間は、働けない。自分の生活を維持するのにお金が必要だから、後回しに……ってなってしまうんですよね。

 恵まれすぎた人たちにそういう苦労を伝えるのって、とても難しいなぁと思います。


 世の中には色んな人がいて、もうなんか、ぶっちゃけ、やばい人もいるじゃないですか?

 そういう人たちからぶつけられる心ない言葉を、ある程度スルーするっていうのは、必要なんでしょうけど……。

 それでも悔しいことには、変わりないですよね。それが無念になってしまうこと、あると思います。

 そういう、無念を抱えた怨霊の方々の言葉を聞く……というのが、この『怨霊の背景を探る!』というコーナーの意義でもあるんじゃないかなーと、パーソナリティの私としては、思いますね。

 誰かの何気ない一言が、怨霊を生み出しているかもしれないんだぞ……と。

 まあそんなこと言ってたら、何にもしゃべれなくなっちゃうんでね!

 私はしゃべりたいので、怨霊を生み出しちゃうかもしれないけど、しゃべりますよ! わはははは!

 ……あら? キーンコーンカーンコーン……とチャイムが鳴りましたね。


「きりーつ。礼。ありがとうございました!」


 Tさんを筆頭とした怨霊軍団が、一人一人、教室から出ていきます……。

 それぞれの生活に、帰っていくんですかね。

 ……Tさんとそのお友達の皆さん、お話を聞かせてくださって、ありがとうございました。


 それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめです。

 ……「人生いろいろ! 事情もいろいろ!」……雑なんじゃないかって? わははは! その通りです!

 でもね、これ、THE 真理ってやつじゃないかなぁ。

 本当に人それぞれ、事情を抱えてるわけじゃないですか。

 だからうかつに他人の事情に首をつっこんで責めるの、本当によくないですよね。

 インタビュー自体が、他人の事情を聞く……みたいなところ、あるじゃないですか?

 気をつけないとなーと、背筋が伸びる思いです。


 さて。この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回もお楽しみに!

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