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Sさんの場合

 あなたも恨み、ありませんか──?

 この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、怨霊の皆さんにインタビューを敢行!

 なぜ怨霊になったのか? どんな恨みがあるのか? についてうかがい、生きている我々が怨霊にならないように注意しよう! という大変学びのあるコーナーです。

 本日はゲストに、怨霊のSさんをお呼びしております!


「よろしくお願いします」


 こちらこそ、よろしくお願いします。

 Sさん、とても疲れた顔をしてらっしゃいますね?


「え? ああ……はい……」


 えっ、めっちゃ疲れてるじゃないですか! 栄養ドリンク飲みます? 霊界通信で送れないかな。


「お気持ちだけ、ありがたく……。カフェイン摂取すると、眠れなくなりますから……」


 眠るってことは、Sさんは生き霊ですか?


「そうですね。不眠症気味です」


 あら……。ということは、眠れないほど、恨んでいる?


「恨みというよりは、後悔でしょうか」


 後悔!

 それが理由で怨霊になってしまった感じですかね?


「そうですね」


 あ、くわしいお話を聞かせてもらう前に、Sさんについてお聞かせください。


「60代、女性、生き霊です」


 例によって、私、パーソナリティには、霊界通信でSさんのお姿が見えております。

 現代の方ですね。優しげなおばあちゃん……という印象です。

 ……Sさんの後悔について、お聞かせいただけますか?


「はい。前回の放送を聞いて……ちょっと私と似たところがあるなって思ったものですから」


 前回というと、Rさんですね? Rさんは介護離職について、時代への恨みを持っている怨霊の方でした。

 ということは、Sさんも介護を?


「介護も少ししました。病院での付き添いみたいな形でしたが……。母が入院していたんです」


 そうでしたか。過去形でお話されているということは、お母様は亡くなられた?


「……はい……。そのことで、後悔があって」


 あ、今、スタジオで、ピッ……ピッ……ピッ……と、心臓の測定器みたいな音がしています。

 これは、Sさんが聞いていた音かもしれませんね。

 それで、いったいどのような後悔ですか?


「ああああ……。心拍の音……」


 Sさんがおびえています。

 大丈夫ですか? 一旦CM入れます?


「お、お願いします!」


 かーしこまりました!

 ではここで、一旦CMをはさみます。

 CMのあと、Sさんのお話をくわしくうかがっていきます。続きはCMのあとで!


***


 はい。本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナーは、Sさんにお越しいただいております。

 Sさんは生き霊の方で、お母様が亡くなられた……と。

 そのことで後悔があるというところまでは、うかがいました。

 ……落ち着かれました?


「はい……。ご面倒をおかけしました」


 いえいえ! Sさんは、一体どのような後悔をされているんですか?


「母が死んでしまったのは、私のせいなんです……」


 えっ!? 介護殺人とかですか!? そういう後悔!?


「違います! 母を手にかけたりなんかしません!」


 あ、よかったぁぁぁ!

 ものすごくビックリしましたよ!


「母は、もう自分では食事を食べられなくなっていて……ずっと胃ろうだったんです」


 胃ろう……というのは?

 すみません、あまり詳しくなくて。

 医療用語ですかね?


「身体に穴を開けて、胃に直接栄養剤を流し込むんです……」


 そ……そうなんですね……。


「飲み込む力が弱くなってきたから、気管や肺に入ってしまわないように、直接胃に……」


 なるほど。そういう医療があるんですね。


「はい……。母はずっと入院していました。たくさんの管に繋がれて、かろうじて生きている……そんな状態でした。でも入院費用が、かさんできて……。もう無理だ……って……」


 ……。

 入院生活に、お金の問題というのはどうしても関わってきますね。

 生命保険に入っていると、入院保障なんかもついてたりしますが……それでも長期の入院ともなれば、懐事情は苦しくなります。


「はい……。病院に何度か、治療をやめますか? って相談されていたのですが……やめてしまえば、母は亡くなるじゃないですか。だから治療を続けてくださいって言っていたんです……。でも、でもお金に限界が来てしまって……」


 そうでしたか……。

 治療をやめれば、Sさんのお母様は亡くなってしまう。

 かといって、治療をつづければ、入院費用がかさんでいく。

 命とお金を天秤にかけなくてはならなくなった……そんなところでしょうか。

 とても、おつらい経験をされましたね……。


「そんなの……お金の切れ目が、命の切れ目だなんて……そんなのあんまりです……」


 ピッ……ピッ……と、また心拍を測る音が聞こえてきます。


「ごめんなさい! ごめんなさい! お母さん! うちにもっとお金があったら、お母さんももっと長生きできたのに……!」


 あ……。リスナーの皆さんにも、聞こえたでしょうか。

 今、ピーッ……と……、心音が止まりました。

 Sさんが、わっと泣き伏しています。


「私の後悔は……母の治療をやめてしまったことです……」


 その後悔で、Sさんは怨霊になられたんですね……。

 ……失礼ながら、お母様は何歳でしたか?


「90歳です……」


 そうですか……。

 ……私なんかは、それはもう寿命なんじゃないかって思いますけどね……。


「寿命だったとしても! 私が治療をやめてくださいとお医者さんに話してしまったから……!」


 そうですね。家族には、長生きしてほしいものですよね。

 ……すみません。変なことを言ってしまって。


「後悔はどうしても、残るじゃないですか……」


 はい……。

 Sさんの後悔、しかと受け止めました。

 この番組を聞いているリスナーさんにも、届いたと思いますよ。


「ありがとう……ございます……うう……」


 Sさんの生き霊が、だんだんと薄くなっていきます……。

 ……Sさん、お話を聞かせてくださって、ありがとうございました。


 それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめです。

 ……「死について、悩みは尽きない」……これでしょうか。

 医療が発達して、長生きできる人が増えました。

 私はそれをいいことだなぁと思っていたんですが、こんな側面も……あるんですね。

 これから先も、Sさんはお母様の死と向き合っていかなくてはならない。

 理想の死に方として、ピンピンコロリなんて言いますが……、この時代、それが一番いいのかもしれません。


 さて。この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回もお楽しみに!

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