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Rさんの場合

 世の中には、さまざまな悩みを抱えた人たちがいます……。

 人生も悩みも色々ですが、ときに深い恨みの念が、怨霊化してしまうことも……。

 この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、怨霊の皆さんにインタビューを敢行!

 なぜ怨霊になったのか? どんな恨みがあるのか? をうかがっていくコーナーです!

 本日はゲストに、怨霊のRさんをお呼びしております!


「こんにちは!」


 こんにちは! 本日はよろしくお願いします。

 Rさん、元気いっぱいという感じの方ですねー。

 あまり怨霊という感じがしませんが、恨みをお持ちなんですか?


「はい! 自分、恨み、あります!」


 わははは! 『恨み、あります!』と来ましたか!

 では早速ですが、Rさんについてお聞かせください。

 生き霊か死霊か? 死霊ならいつぐらいに亡くなられたのか……とか。


「自分は40歳、男性です! 生き霊です!」


 お、生き霊の方なんですね。

 生き霊のお姿と、現在の本体のご年齢は一致してる感じですか?


「自分には見えないのでわかりません! ただ、おそらくそのままなのではないかと! なぜなら、今現在、恨みを抱えていますので!」


 なんか……こんなに元気な生き霊の方がいるんだなって、驚いています。わはは。

 例によって、私、パーソナリティには、霊界通信でRさんのお姿が見えております。

 現代の方ですね。キビキビとした印象の、体育会系っぽい方ですねー。


「恐縮です!」


 Rさんの恨みについて、うかがいたいのですが。


「介護問題ですね!」


 介護! それはまた……。

 日本が高齢化社会になって、もう長いですが、介護の問題はいくつか出てきていますね。

 介護施設になかなか入居できないだとか、介護士が不足しているとか……。

 あとは、セクハラや暴力なんかも聞きます。介護をしている側、介護を受ける側、どちらでもですね。

 ちょっとセクシーな作品なんかで、女性看護士さんと患者さんがムフフな関係になる展開とかあるじゃないですか?

 ああいうのを実際にやろうとしてしまう認知症患者さんもいらっしゃるらしいですね。

 ……介護、大変だと聞いてます。お疲れ様です。


「お気遣い、ありがとうございます! 自分は、介護施設で働いているわけではありません! 自宅介護ですね」


 自宅介護! なるほど。

 施設への入居待ちの間……とかですか?


「最初はそう思っていたんですが……なかなか入れず、長引いてしまいました!」


 そうでしたか……。

 それではRさんの恨みというのは、自宅介護に関すること……でよろしいんでしょうか?


「介護離職ですね」


 あー! あー……それは……大変なご苦労をされているのではと、お察しします……。

 お話の途中ですが、ここで一旦CMをはさみます。

 引き続き、Rさんのお話をくわしくうかがっていきます。続きはCMのあとで!


***


 はい。本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナーは、Rさんにご出演いただいております。

 Rさんは生き霊の方で、自宅介護をされているそうです。

 介護離職についての恨みがある……というところまでは、うかがいました。

 介護するにあたって、仕事を辞められたんですね?


「はい! それまでは、警官として働いておりました!」


 あー! だからこんなにキビキビしてらっしゃるんですね!?

 それで、親御さんの介護をすることになって、お仕事を辞められた……と。介護をされて何年ですか?


「五年です!」


 五年……長いですねぇ。


「先日、自分が介護していた父が、亡くなりまして」


 あ、お亡くなりになられたんですね。

 それはご愁傷様でございました。


「お気遣い、痛み入ります! それで自分の長い介護生活も、父の死と共に終わりを告げたわけですが」


 ああ……はい。そうなりますね。

 介護が終わったとき、介護されていた方は、色々な感情を持つと聞いています。

 喪失感の強い人もいれば、解放感のある方もいる、虚無感に襲われる方もいるそうですね。

 Rさんはどういった感情を?


「父の死に対して、不謹慎ではありますが、自分は、ほっとする部分がどこかにあったように思います! やっと終わった……と」


 なるほど。そうでしたか……。


「父との仲は良好でしたし、もちろん、悲しいのですが……。この後、自分の人生、どうしたものか──と」


 あああー。介護で離職された方には、特に多いといいますね。

 まるで自分の人生が、介護する人に吸い取られてしまったように思えることもある……と、聞きました。


「はい。自分にも、人生や生活があります! ですから、再就職をしようと探しはじめたのですが──これがなかなか見つからず、困っている次第です!」


 そ……それは困りますね……。

 五年となると、結構なブランクです。

 再就職って、難しいんですよね。特にブランクがあると、なかなか新しい仕事が見つからない。


「なかなか雇ってもらえるところもなく。かといって、以前の仕事に就くこともできず」


 警察ですもんね。以前の仕事に……というわけには、いかないでしょうね。

 警備員とか、交通誘導の仕事がありそうな気もしますが。


「……争奪戦の様相を呈しており!」


 えっ!? 争奪戦なんですか!?


「はい! 自分と同じような境遇の人、定年退職して新しい仕事を探す人などが、思いのほか多く……」


 なるほど、そうでしたか……。

 定年退職してから、年金を受給するまでの期間、働かないといけない人たちもいますからね。


「今は機械に任せる企業さんなども多いので、働き口があまり多いとは言えず」


 あああ、そうかもしれません。

 うわあ!? スタジオに、ザッザッザッ……と足音が響いています!

 たくさんの黒い影が、列を作って……これは行進していますね。軍隊……? いや、Rさんの警察での思い出とかですか?


「いえ、自分というよりは……就職氷河期世代の霊ですね」


 氷河期世代の霊!?

 就職氷河期は、仕事を見つけるのが大変でしたよねぇ。正社員として就職できても、ものすごくブラック労働だったり、ある日突然会社都合で契約社員にされてしまったり……。

 派遣切りに遭った人たちの炊き出しとか、あったくらいですもんね。

 Rさんも氷河期世代ですか?


「そうです」


 あ、黒い影だったのに、だんだんと姿が見えてきましたね。

 よく見ると、スーツ姿ですね……。皆一様に疲れ切った顔をしています……。

 あっ、一人、列から弾かれました! 青紫色の顔をして、血を吐いていますね……。


「病気になられたのかもしれませんね」


 あっ……また一人……。

 わあ! この人、Rさんと同じ顔をしてますよ! 敬礼して、就職氷河期世代の霊を見送っています!


「……自分もこんな感じで、退職したんでしょうね」


 就職氷河期の霊たちが、行ってしまいました……。


「こうやって、就職氷河期世代はどんどんリタイアしていったんです。過酷な労働で精神や身体を病み、あるいは妊娠や出産などライフステージの変化で、介護で……。そうして、なかなか元の列に戻ることは難しい」


 なんという……。

 最初、軍隊の霊なんじゃ? こわっ! と身構えちゃいましたよ。

 ……過酷な時代でしたね。


「はい。そして、まだ尾を引いています。……自分の再就職先が見つからないのも、その影響の一つでしょう。さまざまな理由で、仕事にあぶれた人が多い世代ですから」


 ……これは、国の失策ですね。

 色々と対策もしてくれてはいたのでしょうが……。


「高齢化社会ですからね。老人と子供に福祉が手厚いのは、わからなくもないですが……。子供は育てば、手がかからなくなる。しかし老人を介護するとなると、何年で介護が終わるのかは、わからない」


 そう……ですね。おっしゃる通りです。

 私は氷河期世代が、老人や、新しい世代を生かすために、見殺しにされたようなものではないか──そんなふうに考えてしまうことがあります。

 だって病院に行くと、お年寄りが多いじゃないですか?

 歳をとると病気や怪我が増えてくるというのはわかるんです。

 でも会話を聞いていたら、ただおしゃべりをしにきているんじゃ? というような方もいる。

 老人に、ここまで手厚く福祉を振り分ける意味があるのかな? と疑問を持ってしまうことがあります。


「いえ。自分のように介護離職する人間を減らすためには、老人への福祉は必要だと考えます。介護離職は現役世代、即戦力が抜けることになるので──。ただ、子供への福祉の充実は、もっと必要でしょう」


 なるほど。Rさんはそうお考えなんですね。


「はい。これは日本という国が、貧しくなってしまった──ということでもあるんでしょうね」


 なんとも世知辛い話です。

 氷河期世代へのサポートも、忘れないでいただきたいですね。


「はい。苦しい中で踏ん張っている人たちは、多いですから──。自分は病院で、ヤングケアラーも何人か見かけました。ヤングケアラーも、ああいった列からはみ出してしまった人たちと言えます」


 ヤングケアラーですか……。

 家族の介護をする若者のことですね。

 Rさんが介護離職されたように、学校に行けないとか、仕事をできずにいる若者もいます。

 

「はい。セーフティネットの拡充が急務であると、自分は考えます。恵まれた人々は、努力不足であると、簡単に口にしてしまう。しかしそれは違う。ただ恵まれた環境にいただけです」


 そうですね……。

 なんとも……胸がギュッと苦しくなります。

 

「なのにその恵まれた環境にいただけの人たちからも、リタイアした人たちは責められてしまうことがある。……いつから、こんなふうになってしまったんでしょうね……。自分は、時代を恨みます。戦中生まれの人々も、かつてそうだったと思いますが……」


 なるほど。個人では、どうすることもできませんからね。Rさんの恨みも、ごもっともです。

 ……Rさん、お話を聞かせてくださって、ありがとうございました。


 それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめです。

 ……「予算の振り分け、もうちょっと考えて!」……ですかね。

 就職氷河期世代はそういう時代だったとはいえ、しんどかったですね。いまだにその余波で苦しんでいる人々がたくさんいます。

 生まれた時代や環境によって、受ける恩恵の差が激しすぎるんですよ。

 Rさんがセーフティネットをと言っていましたが、本来社会保障って、そういう恵まれない時代や環境の人々を支える……という考え方なんじゃないですかね。

 だからこれまで、戦争を経験してきた老人への福祉が手厚かった。

 でも今はもう、高度成長期世代の人々が老人です。もうそろそろ、予算の振り分け方を変えてもいいんじゃないかなと、私なんかは考えてしまいます。

 介護離職だって、氷河期世代が裕福だったら、ある程度、アウトソーシングできたわけじゃないですか。

 ……本当に、なんとかならないもんですかねぇ。


 さて。この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回もお楽しみに!

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