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Oさんの場合

 怨霊の抱える恨み──。

 なぜ怨霊になったのか? どんな恨みがあるのか? 

 ……この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、霊界通信を通して、怨霊の方にインタビューを行います。

 我々生きている人間が死後、怨霊化しないためにも知っておきましょう……という、意外と社会派のコーナーです。

 本日はゲストに、怨霊のOさんをお呼びしております!


「こんにゃろう! 澄ました顔で、あれこれ言いやがって!」


 おおっと!? いきなりですね!?


「聞いてたんだよ! 前回の放送! ッカー! 好き勝手言いやがって! オレにも一言言わせろ!」


 ああ、前回の放送をお聞きだったんですね。

 澄ました顔では言ってないですよ。むしろ悲痛な顔で言ってました。まあ、ラジオなんで、伝わらないでしょうけど。あははは!

 Oさんは、前回の放送を聞いて、一言言いたいということで、ご出演いただいた感じですかね?


「そうだよ! ったく、前回前々回と、辛気くせぇ話しやがって!」


 いや、このコーナー、いつでも辛気臭いですよ。

 だって怨霊になった方へのインタビューですからね。


「胸糞悪いったら、ありゃしないよ!」


 おおっとぉ……。聞かなきゃいいのに、とは言わないですよ!

 それ言って大変なことになった人がいましたからね。

 ご意見の一つとして、ありがたく拝聴します。


 毎回お聞きいただいてるリスナーの皆さんはご存知でしょうが、私、パーソナリティには、霊界通信でOさんのお姿が見えております。

 ステテコに腹巻き、いかにも昭和の雷オヤジって感じの方ですね。肩に半纏を羽織って、洒落てます。


「ッカー! おべんちゃら! 褒めたって、何にも出ねぇよ!」


 いやいや、出てるじゃないですか。怨霊になって、Oさんが。


「ぶははは! そりゃあそうだ! 上手いこと言ったな、おい! 座布団一枚!」


 あはは。ありがとうございます。

 座布団十枚集めると、何かいいことがあるんですかね?


「オレが成仏する!」


 わははは! Oさんが成仏!

 それ、私にはお得な話じゃないですよー! がんばろうって気がしないなー!


「ッカー! なんでもかんでも、ガムシャラにがんばりゃいいんだよ! 現代ってのは、スカした奴ばっかなのかねぇ」


 いやいや、そういうわけじゃあありませんけども。……私もスカしてるわけじゃあありませんし、スカしてたらモテますよ……。


 さて、それではOさんのお話をうかがっていきましょう!

 Oさんは男性、六十歳くらいに見えます。


「おうよ! 昭和の頃に、なんだかんだ家族に看取られて死んだ、めでたい男だよ!」


 死んだのに、めでたいんですか? まあでも、家族に看取られながら死ぬというのは、幸せな死に方かもしれませんね。


「本当、ありがてぇこったなぁ……」


 お、急にトーンダウンしましたね?


「とーんだうん? 横文字苦手なんだよ! オレ、学がねぇからよ!」


 学というより、Oさんが生きていた時代もある気もしますけどね。

 急にしおらしくなったなぁと。


「ッカー! 雷落とす方がいいってのか!」


 いや、面倒なんで、雷は落とさないでください。わははは!

 おおっと……本当に空がゴロゴロ言ってますねー。雷が落ちて停電……なんてことになったら、番組の収録が止まっちゃうんで、やめてくださいね。


「そいつはわかんねぇな! 気分だよ! オレの気分次第!」


 ははは。一旦CMはさみましょうか。

 CMの間、雷対策しまーす。続きはCMのあとで!


***


 はい。本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナーは、Oさんにお越しいただいております。

 前回の放送を聞いて、言いたいことがある……と。


「おうよ!」


 Oさんみたいな方、あまり怨霊にならないんじゃって気がするんですが……。

 怨霊になられた理由をうかがってもよろしいですか?


「うっすら成仏しかけてたときに、前回の放送を聞いて、なんだこのヤロウ! と思ってな!」


 ……え? つまり、この番組への恨みってことですかー!?

 ちょっとちょっと、やめてくださいよー!


「言いたいこと言ったら、成仏するからよ!」


 成仏するんだ!?

 ……私、座布団十枚もらってないのに?


「ぶははは! 二枚目の座布団やるよ!」


 急に判定が甘くなりましたね!

 成仏したいのが見え見えです。


「そりゃあお前、オレだって成仏したいよ! 怨霊なんて辛気臭いだろ!」


 そういうもんですかねー。

 それで、Oさんが言いたいことというのは、どういったことですか?


「子供が悪さをしたらな、ゲンコツくれてやんだよ! おっ死んじまうまでブン殴るのはやりすぎだとして、手ェ出ることも、あるだろうよ!」


 令和の今では、あまり聞かない話ですね。

 海外だと、犯罪として逮捕されることもあります。


「馬鹿野郎! ここは日本だ!」


 時代によっても、そういう価値観って変わっていきますからね。


「よそ様に迷惑かける前に、家でしっかりしつけてやらにゃあならんだろうよ!」


 まあ、社会に出て、迷惑をかけるような人間に育ってほしくない……というのは、親として考えることなんでしょうね。

 でも、社会全体で育てる──という意識もあります。

 たとえば仕事。今は職業選択の自由があって、親の仕事を子供が継ぐことは少なくなりました。

 職場の上司や先輩に、仕事や仕事に対する姿勢なんかを教わることが増えています。

 学校なんかもそうですが、社会全体で育てる……という意識があるんですよ。


「社会全体でって、昔だってそうだったよ! 今、悪ガキなんかも増えてるじゃねぇか! 悪さの質が違うっていうかな。食いもん粗末にした動画撮ってインターネット? に投稿して、炎上してよぉ!」


 あれはさすがにいただけませんね。


「今どきは、すぐ虐待だ暴力だ事件だって騒ぎ立てやがって。オレらの時代なんか雷オヤジがいて、悪さしようもんなら、雷落としたもんだよ! 社会全体で育てるってのは、そういうことでもあるだろ! 愛情の一つじゃないのかね」


 叱ることも愛情の一つ……というのは理解できます。

 ただ、冷静に話せばわかる相手にも、問答無用でゲンコツ……というのは、ちょっと行き過ぎですね。


「あんただって、子供んときは、悪いことしたら母ちゃんに尻をペンペン叩かれて育っただろ?」


 あはは。そうですね。

 手が痛いってぼやいてました。


「そうだよ! 尻叩く方も、痛いんだよ! 今はそういうのをシレーッと流して、だんまり決め込んで、嫌われたくない奴ばっかりじゃねぇか!」


 今は逮捕されるケースもありますから、うかつに声をかけない人の方が多いんじゃないですか?

 雷を落とす度が過ぎて嫌われて、家族まで近づかなくなるケースもありますからね。

 それが老人の孤独死につながっていたりするのかもしれません。


「なんでもかんでも、行き過ぎはよくねぇのよ。今は子供が守られすぎてる。子供なんてなぁ! 失敗して、すり傷作って、大きくなってくんだよ!」


 それだけ痛ましい事件が多かった……ということでもありますよ。

 病院送りになったり、亡くなってしまったり……という。


「そこまで行くと、よくねぇな! ケンカをろくにしたことのない奴は、加減てもんがわかんねぇのよ! ガキのうちに、すり傷作らねぇから、インターネット? とかでも炎上すんじゃねぇか! 子供は無菌室やら温室みたいなところで育つモンじゃねぇの!」


 まあ、おっしゃる通りですね。

 でも今こういう世の中になったのは、過去に行き過ぎた事件がいくつか起きたから……というのもあるわけで。


「だーかーらー! どっちかに偏ればいいってもんじゃねぇのよ! 人間なんて聖人君子じゃねぇんだから、事件起こす奴もいんの! 親も学校の先生も医者もそうだよ。そういう奴には、ゲンコツかビンタだよ! 世の中ってなぁ、不完全な人間同士が、助け合って生きてんだよ」


 なるほど、Oさんは偏ってしまうことに対して、危機感を持っている……と。

 不完全な人間が助け合って生きているのが社会だというのは、本当にその通りです。


「一人ででっかくなったみたいな顔しやがって! 親はなくとも子は育つって言うだろ? ありゃあ根気強く、親みてぇに関わった人たちがいるってことだろ」


 そりゃあ一人で大きくなったわけじゃないでしょうけども。

 でもMさんの場合は、どう考えても違ってましたよ。親、学校、病院、施設、警察……そのどこでも虐待を把握していたのに、救うことができなかった。

 その結果、命を落としてしまったんです。


「ああ、あれは……見落とした奴ら、ゲンコツだな!」


 雷オヤジー!

 なんでもかんでも、ゲンコツで済ませるもんじゃないですよ!


「ゲンコツで済まないこともあるよ! そんときは、おまわりさんがワッパかけるだろ!」


 これでOさんの言いたかったことというのは、全部ですか?


「おうよ! 兄ちゃん、澄ました顔でペラッペラ言いやがるからよ! 一言文句言ってやろうと思ってな!」


 そうですか……。

 それで、このコーナーへの恨みは晴れましたでしょうか。


「スッキリ! 座布団八枚持ってけ! おう、これで十枚そろったな! 成仏だ成仏!」


 大盤振る舞いですねー!

 Oさん、本日はお話を聞かせてくださって、ありがとうございました!


 さて、それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!

 ……「雷オヤジは、ゲンコツで解決しがち!」。

 世の中は不完全な人間が助け合ってできているものだ……というのは、とてもうなずける内容でしたね。

 しかし何かされたときに許すかどうか? それを決められるのは、被害を受けた本人だけではないでしょうか?

 その上で──雷オヤジのゲンコツが必要なことも、あるのかもしれません。

 許さないことがあってもいいと、私は思いますけどね。

 だって、Mさんは帰ってきません。


 この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!

 あっ、雷が落ちましたね。わははは! Oさん、まだ成仏してないんですかねー!

 案外、Mさんの被害を見落とした人たちに、雷を落としていったのかもしれません。

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