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Nさんの場合

『怨霊の背景を探る!』、このコーナーでは霊界通信を通じて、怨霊にインタビューを敢行!

 なぜ怨霊になったのか? どんな恨みがあるのか? その理由を探っていきます。

 我々が死後、怨霊化するほどの無念に取り憑かれないためにも知っておきましょう……という、意外と社会派のコーナーです。

 本日はゲストに、怨霊のNさんをお呼びしております!


「こんにちは。よろしくお願いします」


 こちらこそ、よろしくお願いします。毎回お聞きいただいてるリスナーの方はご存知でしょうが、私、パーソナリティには、霊界通信でNさんのお姿が見えております。

 一言で言うなら、昭和のおっかさん! って感じの方ですね。エプロン姿で、肩のところに湿布を貼っているのが見えています。


「あらやだ! 見えてしまってます? お恥ずかしい」


 いえいえ。怨霊になっても肩、こってるんですか?


「いいえ。生前は肩がよく痛みましたから、湿布を貼りましたけどね。身体の痛みとは無縁です」


 怨霊になっても肩が痛む……というわけではないんですね。

 ちょっとした疑問なんですが、怨霊の方の姿って、どういうふうに決まるんですか?


「生前に馴染みのある姿をしている人が大半です。たまに、自分のなりたい姿になる人もいますよ」


 そうでしたかー! Nさんとお話ししていると、ちょっと自分の母親に連絡しようかなって気持ちになります。あはは。


「お母様はまだご存命?」


 いえ、亡くなってます。ですから霊界通信で……と。

 せっかく霊界通信を番組で使わせていただいてますからね。


「呼びかけに応えてくれるといいですね」


 うーん、いつか母と話せればおもしろいでしょうが、霊界通信で呼びかけても返事がないってことは、とっくに成仏しているのかもしれませんね。それはそれで、いいことかもしれません。

 ──母ちゃん! オレ、元気にやってるよ!


「ふふふ。もう生まれ変わっているかもしれませんよ」


 えっ、三十三回忌もまだなのに!? それはそれで、ちょっとさみしい気もしますねー。

 さて、それではNさんのお話をうかがっていきましょう!

 Nさんは女性、五十歳くらいに見えます。先ほど生前とおっしゃっていたので、死霊の方ですかね? 亡くなられたのは、昭和の頃ですか?


「そうです」


 Nさんが怨霊になられた理由をうかがってもよろしいですか?


「うちの旦那、とにかく怒りっぽくて、手が出るタイプの人で──」


 あら。昭和の頃は、ちょいちょい聞きましたね。


「子供が、暴力で亡くなったもんですから」


 えっ……ええっ!?

 前回インタビューしたMさんが、児童虐待で亡くなられた方でしたが……。

 Nさんの立場としては、それを見ていた側……ということでしょうか。


「はい。Mちゃんは、私の子供ではなさそうなんですけど……でも前回の放送を聞いて、私の後悔を聞いてもらえないか……と」


 なるほど、そうでしたか……。

 ではNさんが怨霊になられたのは、虐待を見ていることしかできなかった後悔から──ということでしょうか?


「はい……。おっしゃる通りです……」


 そうでしたか……。

 スタジオの空気が淀んで、ずっしりとしています……。梅雨どきって湿気が増えて、なんだかうっすらと身体が重いなーってこと、あるじゃないですか?

 あれが、より重くなった……みたいな感じですかねー。

 なんとなく想像できるところもあるんですが、CMの後、Nさんからくわしいお話をうかがっていきます! 続きはCMのあとで!


***


 はい。本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナーは、Nさんをお迎えしております。


「……お願いします……」


 スタジオのどんよりとした空気はそのままですね。

 Nさんは肩、重くないですか? 大丈夫です?


「私の肩くらい……うちの子の苦しみに比べたら……」


 ……かなり後悔してらっしゃるようですね。

 Nさんがうつむいて、鬱々とした表情になっていきます……。


「当たり前ですよ……。だって、私がお腹を痛めて産んだ子です……。旦那なんて、お腹が大きくなるわけでもない、つわりもない、出産の苦しみもあるわけじゃない……いつもと同じ暮らしをしてただけじゃないですか……」


 あ、Nさんの恨みは、虐待の加害者であった旦那さんの方を向いている?

 先ほどは後悔とおっしゃってましたが。


「旦那は直接の加害者です。でもそれを見ていたのに、止められなかった私も──間接的に加害者なんです……」


 こう言ってしまっては身も蓋もないですが……、まあ、そうですね。

 児童虐待事件がよくニュースで取り上げられますが、大抵、直接の加害者である父親が逮捕されますよね。そして母親も、幇助……という形で逮捕されます。

 お子さんにとっては、どちらも加害者である……というところでしょう。

 ……だって、本当にお子さんが大事なら、離婚すればいいんですから。


「はい……。こんなことになるなら、離婚すればよかったと思います……」


 肩どころか、背中までずっしり重くなってきました。

 外では雨が降りはじめましたね……。

 これまでも何度か怨霊の方にインタビューをしていると、雨が降ることがありましたが、これまでとは違った雨の降り方です。しとしとという感じです。

 ……Nさんは、離婚できなかったんですか?


「お金があるわけじゃないので……。住むところや仕事が心配で、離婚できませんでした……」


 ご実家とか、他に頼れる方はいなかったんですか?


「私の両親はすでに亡くなっていましたから──」


 そうですか……。

 もしかしたら、時代もあったかもしれませんね。

 結婚して一人前……みたいな風潮、昔はあったじゃないですか? お見合いまでして。

 あんな感じで、現代なら女性にそっぽを向かれちゃうような、問題のある男性もいたかもしれません。

 結婚すると、自分の実家を出て、相手の実家に嫁に入る……そういう意識がある方もいました。

 家に嫁ぐ……そんな考え方です。

 今でも少し、そういう風潮が残っていますが……。


「うちの子が泣きわめいて助けを求めていたとき──私、何をしていたんだろうって……。だんだん、泣かなくなっていって……」


 ……。

 泣くのは助けを求めているから、と聞いたことがあります。

 泣かなくなるというのは、助けさえもあきらめた状態だ……と。


「泣かなくなっていったから、この子は受け止めて、乗り越えられたのかもしれない……。強くなった……。そんなふうに思ってしまったのかもしれません……。仲のいい、家族でした」


 違いますね。

 泣く……というのは自然に感情が出せる状態です。

 それができないというのは──深刻ですよ。

 声をあげずに、涙だけ流す……そんな状態になったら、要注意です。

 Nさんは仲のいい家族だとおっしゃるけれど、お子さんにとっては、違ったんじゃないですか?


「はい……。私がそう思い込んでいるだけでした……。しつけをしなくてはいけない……子供が大きくなって世の中に出たら、そんなことはたくさんある……そんなふうに思っていた時期もありました……」


 しつけ……ですか。

 虐待をする親って、大体「しつけ」と言うんですよね。

 本当に「しつけ」であるなら、命を落とすほどの暴力を振るう意味、あります?

 だって死んでしまったら、その「しつけ」、ぜーんぶ、意味がなくなってしまいますよ?


「……すみません……。すみません……」


 言っても聞かない子って、いますよね。

 そういう子に、ときに暴力を振るうことはあるかもしれません。

 私も、子供の頃はお尻を叩かれたり、ゲンコツをもらったりしましたからね!

 どれほど怒っているのか、どれほど心配しているのか、真剣さを伝えるため……というのはあるかもしれません。

 でも、命を落とすほどの暴力は、間違っています。


「はい……。おっしゃる通りです……」


 親しき中にも礼儀ありって、昔からよく言うじゃないですか?

 あれって、家族にだって言えることなんですよ。

 親と子供は、同じ人間ではないんですから、違う受け止め方をする、違う理解をする──というのは、当然なんです。

 だからこそ、互いに尊重しよう……という風潮が、現代では強くなっていますね。

 Nさんが生きていた時代だと、少し違うかもしれませんが……。


「はい……。うちの子が亡くなってしまったのは、そういうことを許す時代だったのも、あるのかもしれません……。でも、私はそれを見逃してはいけなかったと……そう後悔しています……」


 アメリカの研究だったかな?

 日本は親と子の結びつきが強い、と見られるそうですね。投影が強い。

「癒着」とまで言われているのを読んだことがあります。

 親子が一体化してしまうんですね。親子がそっくりな、ピーナッツ親子なんて言葉も以前はありました。

 ……旦那さんの暴力を見逃していたNさんが、そんな自分をお子さんに投影していた……そういうことも考えられます。


「わかりません……。でも、そうかもしれません……」


 Nさんからすると、自分に暴力が向かってくるのではないか……という恐怖心もあったのではないですか?


「……ありました」


 その恐怖心に、母親として立ち向かえなかった……だから離婚できなかった……そういうことじゃないでしょうか。


「ごめんなさい……ごめんなさい……離婚していればよかった……」


 いや、Nさんを責めているわけではないんですよ。

 だってNさんを責めても、お子さんが生き返るわけじゃないですからね。

 残念ながら、もう終わってしまったことです。それも、かなり昔に……。

 でもね、Nさんの話を聞いて、現在同じような境遇にある方……まだなんとかなる……そんな方が、もしかしたら、いらっしゃるかもしれない。

 Nさんみたいに、後悔から怨霊になる前に……踏み出して欲しいなと思います。


「はい……そうですね……」


 いわゆる「他山の石」「人のふり見て、我がふり直せ」ってやつですね。

 お金とか仕事とか、心配ごとは何かとあるでしょうけれど……。

 まずは、「命を守る行動を」と、私なんかは思いますねー。

 警報みたいですけども。あはは。

 Nさん、本日はお話を聞かせてくださって、ありがとうございました!


「ありがとう……ございます……。やっと……やっと話せた……。これで、私の後悔も、少し──」


 ……Nさん、少し姿が薄くなっていきました……。成仏に近づいたんですかね? そうだといいなぁ。


 さて、それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!

 ……「しつけなら、死なない」……これですかね。

 一般的なしつけでよく言われるのが、「怒る」と「叱る」は別という話ですね。

 その違いは曖昧で、判断が難しいところではありますが──、まず間違いなく、「しつけなら、死なない」んですよ。


 この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!

 ……雨、止みませんね。しとしとと降りつづいています……。

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