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Mさんの場合

 ヒュー、どろどろどろ……『怨霊の背景を……探る……』。

 あなたにも恨み、ありませんか……?

 人の世にあふれる恨みつらみ……このコーナーでは霊界通信を通じて、怨霊となった方々にインタビューを行い、その理由を探っていきます。

 なぜ怨霊になったのか? どんな恨みがあるのか?

 それを聞くことで、我々生きている人間が死後に怨霊化しないための学びにしよう──というコーナーです。

 今日のゲストさんは、今までご出演くださった方の中で、最年少じゃないでしょうか?

 怨霊のMさんをお迎えしております!


「……」


 お話、できますか?


「やだ」


 え! やだ!? 困ったなぁ。

 リスナーの皆さんには見えないでしょうが、私、パーソナリティには、霊界通信を通じてMさんの姿が見えています。

 Mさんは小さい女の子ですね。かわいいクマのぬいぐるみをぎゅっと抱っこしています。

 ……かわいいクマさんですねぇ。クマさんのお名前はなんていうんでしょうか?


「糸くずがはみ出てる、ダニがわいてそうなクマ」


 は!?

 ……え、もう一回お願いしてもいいですか?


「糸くずがはみ出てる、ダニがわいてそうなクマ。パパがお名前をつけたの」


 ……。パ……パパさんがつけたお名前だったんですねー。

 Mさんも、そのお名前で、ずっと呼んでたんですか?


「ううん。私はイトちゃんって呼んでた」


 なるほど、イトちゃんですか……。

 Mさんは何歳でしたか?


「あのね、イトちゃん、たまに日向ぼっこしてたんだよ! ダニ避けのやつ、シュシュッてして! 日向ぼっこが終わったら、コロコロしたり、ちっちゃい掃除機でブオーンってしてたこともあったよ!」


 ああ、Mさんがイトちゃんのことをとても大切にしていたのが伝わってきますね……。


「ダニ、わいてないよ。糸くずじゃなくて、毛だよ。ねぇ、イトちゃん。……『うん。あたしはかゆくないよ』……ほら! イトちゃんもこう言ってる!」


 うーん、これは……なんとなく、察してしまうところもありますね。

 Mさんは、イトちゃんと長いお付き合いですか?


「イトちゃんはねぇ、私が生まれたときに、お祝いでもらったクマちゃんなんだよ」


 そうですか。じゃあ、Mさんが生まれたときからのお付き合いってことですね。


「そう。私がちっちゃいときから、一緒にいるの。ねー。イトちゃん」


 それで、Mさんはおいくつですか?


「……」


 ……イトちゃんは、何歳?


「5歳だよ!」


 なるほど。ということは、Mさんも5歳ということですね。

 お聞きになりましたか、皆さん! 5歳! 最年少ですよ!

 怨霊の方たちはそれぞれに恨みを抱えているものですが、5歳の女の子がそれほどの恨みを持つなんて──。

 なんとなく察する部分はありますが、一体何があったんでしょうか。

 Mさんはご存命──いや、まだ生きていますか?


「……」


 イトちゃんは、生きてますか?


「あのねぇ! イトちゃんはね! 私が死んじゃったときに、一緒に棺桶に入れられて、ボーッて燃やされちゃった」


 ……そうでしたか。Mさんはお亡くなりになっているんですね。

 それで、怨霊になった理由……なにか、恨みに思うことがあって、現世に留まっているのでしょうか? あ、イトちゃんがですよ。


「イトちゃん、何かある? ……『あたしは、痛いのも苦しいのも嫌い。お友達のMちゃんにそんなことをした、パパが許せない』……そうだったの? でもパパがいなくなると、ご飯が食べられなくなるって、ママが言ってたよ!」


 ……。こ……れは……児童虐待があったということですかね……。


「『でもパパは嫌い!』……んもー。イトちゃんたら。嫌いでも、ピーマンを食べないといけないのと同じだよ? パパは家族なんだから!」


 ……。小さなお子さんって、よく大人の真似をしますよね。

 先ほどイトちゃんにMさんが言った内容は、Mさんがお母さんに言われてきた言葉のような気がします……。

 なんだか初っ端から救いのなさをビシバシ感じていますが、これは一旦、我々が身構える時間が必要かもしれません。

 CMをはさんで、最年少怨霊、Mさんのお話を引き続きうかがっていきます! 続きはCMのあとで!


***


 はい、それでは引き続き『怨霊の背景を探る!』のコーナーをお送りしていきます。本日は、これまでインタビューをしてきた怨霊の中でも最年少! Mさんをお招きしています。


「……」


 イトちゃんも、よろしくお願いします。


「『よろしくお願いします』」


 Mさんは自分のことをお話されたくないようなので、クマのぬいぐるみのイトちゃんを通して、お話をうかがっていきます。

 Mさんが怨霊になった理由は、まだ聞けていないのですが……お話を聞いている限りだと、児童虐待があったのではないか? と疑われますね。

 イトちゃん、Mさんが亡くなった理由はなんですか?


「『パパが頭を殴ったんだよ。ウイスキーの空き瓶で! それでね、目の前が真っ赤になって、頭がぐわーんってなって、倒れちゃった。……そのまま、Mちゃんは死んじゃったんだ』」


 えっ、ウイスキーの空き瓶で?

 どう考えても、5歳の女の子相手にするようなことではないですね……。

 ……パパは酔っ払ってたとかですか?


「『酔ってないよ。Mちゃんが片付けてなかったおもちゃのブロックを踏んじゃって、すごく痛かったんだって! それですごく怒って、ウイスキーの空き瓶で、バーンって!』」


 ああー。ブロックって、うっかり踏むと痛いんですよね。

 お子さんのいるご家庭だと、よくあることです。片付けたと思っていても、妙なところからひょっこり出てくることがありますから。

 ……イトちゃん、それで、Mさんは亡くなったんですか?


「『そう! 起きなかったの!』……えー! イトちゃん! 私はちゃんと起きたよー! 起きたときには、頭が血で真っ赤になった私が足元に転がっていたけど……」


 なるほど、それが死因ということですね。

 そのときのご家族の反応なんかは、ありましたか?


「……」


 あ、イトちゃんに聞いています。


「『ママはあわててたよ! 救急車! って。パパは、ウイスキーの空き瓶を持ったまま、ぼーっと立ってた。少しして、床に座ろうとしたら、割れて粉々になった瓶の破片がお尻に刺さったみたい! ざまあみろってあたしは思ったけど、パパはそれで怒っちゃった』」


 生々しいですね……。


「それでパパ、ママに怒鳴ってお掃除させたんだよね。ママも救急隊の人が来たときに危ないからって、お掃除してた」


 それは……証拠隠滅と、とられかねないのでは? 警察の方は来ましたか?


「『Mちゃんが救急車で運ばれていって、しばらくしてから、警察の人も来たよ。パパもママも逮捕された!』」


 Mさんを殺害した犯人がきちんと逮捕されたというのは、まだ救いではありますね……。


「『Mちゃんは幼稚園でも、どうしてあまりお話しないの? って先生に聞かれてたよ! Mちゃんはあんまり大人の人と話さなかったんだ! それでお話ができない子なのかなって疑われて、施設に行ったこともあったよ!』」


 障害があるかもと疑われたってことですね。


「『そう! だけど、施設の人が根気強くお話したら、Mちゃんはちゃんとお話できたんだ! あたしもがんばって、お話を手伝ったよ! それでなぜか、パパとママが叱られたみたい! この子は怯えています、って』」


 なるほど、施設の人は、虐待を把握してたってことですね……。

 それでも、Mさんに救いはもたらされなかった、と。


「『だけどね、パパとママが叱られたから、もう余計なことは話すなってMちゃんがぶん殴られたよ! だから余計にMちゃんは、お話ししなくなっちゃったんだ!』」


 ……児童虐待ではよく聞く話ですが、なんとも胸が痛くなります。


「『警察や病院の人にも話したことがあったよ! Mちゃんは小さいけど、ちゃんと考えて、自分で警察に行ったんだ! えらいよねー! 病院は、首を絞められて腫れ上がったから、ママが連れて行ってくれたよ! そこでもママがいないときに、病院の人にお話したよ!』」


 ……そ……そんなにたくさんの人が虐待を知っていて、それでも誰も助けられなかったっていうんですか!?

 現在は児童虐待に関する法律などもあるはずですが……Mさんが亡くなられたのはいつ頃です?


「『昭和だよ!』」


 おうちに、テレビや洗濯機はありましたか? テレビは白黒でしたか?


「『うん! あった! テレビは色がついてたよ!』」


 なるほど……。ということは、高度成長期以降の出来事と考えて差し支えなさそうです。

 では、Mさんが恨んでいるのは、ご両親ということですか?


「ぜーんぶ。私が本当のことを言っているのに、嘘つき呼ばわりして、助けなかった人たち、ぜーんぶ。……ね、イトちゃん」


 Mさんがぎゅっと抱きしめているクマのぬいぐるみのイトちゃんが、笑い声をあげています!

 Mさん自身もくすくす笑っていますが……。

 一体なにがおかしいんでしょうか。


「私たちが死んで、みーんな、オロオロしてるから」


 ……これは……、Mさんが怨霊になるのも無理はない……という理由ですね。

 非業の死をとげた方が、無念から怨霊になることはありますが、5歳でこんな目に遭ってしまったMさんが怨霊になるのは……むしろ、自然なことなのかもしれません。

 Mさん、イトちゃん、インタビューに応じてくださって、ありがとうございました!


「ばいばーい!」


 さて、それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!

 ……「児童虐待、本当になんとかなりませんかね?」……もうこれくらいしか、私に言えることはありません……。

 こんなの、あんまりですよ。

 幼稚園、施設、警察、病院──そういった人たちがMさんへの虐待を知っていて、それでも死亡事件が起きてしまったってことですから……。

 クマのぬいぐるみのイトちゃんくらいしか、Mさんの支えになっていたものがないんじゃ? と疑ってしまいます。

 実にやりきれません。


 この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!

 スタジオの中に、スキップするような足音と、Mさんの笑い声がこだましています……。

 あの世では、せめてイトちゃんと楽しく過ごして欲しいですね。

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