表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

Lさんの場合

『怨霊の背景を探る!』

 このコーナーでは、怨霊となった人々に霊界通信を通じて、インタビューを敢行!

 なぜ怨霊になったのか? 怨霊の方々の無念とは?

 それをうかがうことで、リスナーの皆さんの知的好奇心をくすぐる、意外と社会派のコーナーです!

 怖いもの見たさ──あ、ラジオだから聞きたさか……そういうリスナーさんも大歓迎!

 生きている我々が気をつけるためにも、怨霊の方々の無念について知りましょうというコーナーなんですね!

 本日は怨霊のLさんをお迎えしております!


「あら……はじまりましたか? こんばんは。本日はお招きいただき、ありがとうございます。Lでございます。どうぞよろしく」


 あーらー! Lさん、マダムって感じの上品な方ですね!

 本日はご出演をありがとうございます。

 早速ですが、Lさんのことを教えてください。ごく簡単にで構いませんので、ご年齢や性別や職業、生き霊か死霊について、教えていただけますか?


「まあ! 女性に歳をきくものじゃありませんよ。……あなた、霊界通信で私のこと、見えてらっしゃるんでしょう? だったらあなたが説明してくださいな。必要があれば、補足しますから」


 えっ!? 私がですか!?

 えーと……Lさんはマダムという感じの、妙齢のご婦人でいらっしゃいます。少し古い時代に生きておられたような印象がありますね。


「古い時代! まあ……人を原始人みたいにおっしゃるものではなくってよ。失敬な方ね」


 わああ、すみません!

 昭和の初めか、大正か……そんな時代に生きておられた方のように、お見受けしたものですから。


「あら、正解。私は大正生まれですが、昭和を生きた人間です。亡くなったのは昭和の終わり頃かしら。激動の時代でしたわねぇ」


 そうですねぇ。

 Lさんが亡くなった理由はどのような?


「寿命です」


 あ、天命をまっとうされたんですね。

 それで、怨霊になられたというのはどういった理由でしょうか。

 失礼ですが、天命をまっとうされて怨霊になられた方は、これまでにあまりいらっしゃらなかったので……。


「長く生きていれば、色々ありますよ」


 そりゃそうですね!

 でもそこをうかがっていくのが、このインタビューの趣旨でして……。


「知りたい? うふふふ」


 ぜひ教えていただきたいです。

 

「かわいい息子が、離婚したんですよ。元奥さんだった方が、なんでも悪く受け取る人で……かわいそうに、濡れ衣を着せられて離婚したんです」


 ははあ、なるほど。

 Lさんは元お姑さんの立場だったということですね。

 では、恨んでいるのは元奥さんということですか?


「恨んでいるなんてものじゃありませんけどね。……母として、息子を見守っています。これ以上、あの女狐にひどい目に遭わされないように」


 女狐とは……まるで昼ドラみたいなセリフですねー。

 ドラマの中では聞くことがありますが、実際に言う人に初めてお会いしました。


「何かあったら、許しませんよ!!」


 今、パリーン! とガラスの割れる音がしました!

 どこのガラスが割れたんでしょうか……。


「割りませんよ。今日び、飾りガラスなんてお高いでしょう? イメージです。ワイングラスを叩きつけるような」


 ワイングラスを叩きつけるイメージですか!? 生前、そのようなことをされていた……とか?

 わはは。でも割れてないなら、よかったです!

 割れてたら、誰かケガをするかもしれませんからね。


「生前も割りませんよ。だって、もったいないじゃありませんか」


 さ、さすが、大正から昭和を生きた方です……!


「それで、女狐の話、聞いてくださいます?」


 はい。Lさんが怨霊になられた背景をうかがいます。


「広告とか、入れなくてよろしいの?」


 あ、長くなる感じですかね?

 ではお言葉に甘えて、CMのあと、Lさんのお話をうかがっていきます! 続きはCMのあとで!


***


 いやー。今回ちょっと曲者だなー。


「よく言われます」


 あははは、そうですか。

 ……おっと、CM明けてますね?

 本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、怨霊のLさんをお招きしています!


「よろしくどうぞ」


 よろしくお願いします。

 Lさんは、大正から昭和を生きられた方で、大往生された……ということでしたね。

 怨霊になった理由は、息子さんが元奥さんに濡れ衣を着せられて離婚したから……ということですが。


「はい。あの女狐め、私のかわいい息子が、浮気してたって濡れ衣を着せたんです。あんな子だとは思いませんでしたわ」


 あらー。浮気ですか。

 離婚としては、よくある理由ですね。


「私の息子ですよ? 浮気なんてするわけ、ないじゃありませんか」


 ……。

 息子さんには、聞いてみたんですか?


「いいえ! いいえ! 聞くわけないじゃありませんか! 私は息子を信じているんですから!」


 そ、そうなんですか……。

 またもやガラスの割れる音がしています……Lさん、あまり興奮せずに、どうか。

 元奥さんからはお話、聞いていますか?


「聞いていますよ。スーツのポケットからキャバレーのマッチ箱が出てきたとか、クレジットカードの明細書にホテルの名前があったとか、そんな話でした。しかもそれ、離婚の数年前の話だって言うんですよ! いつまでも昔のことをネチネチと!」


 いや、それ……は……。

 限りなく黒寄りのグレーじゃないですか? 明細にホテルの名前があるのは、ちょっと……。


「それだけで決めつけるんですか? ……大体ね、浮気なんてされるのは、元奥さんが綺麗にしていないからですよ。百歩譲って浮気していたとして、元奥さんに足りないものを求めて、浮気したんじゃないですか。可哀想な息子……!」


 ……なかなか昭和の発想ですねー。Lさんは昭和の方ですから、仕方ないのかもしれませんが。

 こうして無条件で信じてくれる相手がいるというのは、息子さんにとって、心強いですね。

 ただ……元奥さんにも、きっとそういう人がいますよ。


「離婚のときに慰謝料をとられたって言うんです! お金目当てだったんですよ、あの女狐!」


 それ、浮気が長期間続いてたとか、元奥さんの堪忍袋の緒が切れたとかいう可能性、ありませんか?

 浮気での離婚は、慰謝料をもらう権利がありますよ。だって不法行為ですから。


「……私だって、自分の夫に浮気されましたよ。方々を遊び歩いて、帰ってくるのかわからないのに、夕食を作って待っていました。でも離婚しませんでした」


 そういう方もいらっしゃいますね。夫婦関係の再構築を選んだ方。浮気は男の甲斐性なんて時代もありました。

 でもそれはLさんの場合であって、Lさんの息子さんの場合は、また違うんですよ。

 Lさんと息子さんは、別の人間なんですから。


「もう私、息子が濡れ衣を着せられたのが屈辱で……。悔しくて、怨霊になってしまいました」


 そ、そうですか……。

 でもそれこそ、Lさんのおっしゃったように、「いつまでも昔のことをネチネチと」なのでは?

 ……お話を聞いた感じですよ? Lさんからのお話を聞いて、あくまでも私が思ったことなんですが……。

 私には、Lさんの逆恨みのように聞こえます。


「私の息子、モテるんですよ。浮いた話の一つや二つ、出てきてもドッシリ構えているのが妻じゃありませんか? 元奥さんは、なんでも悪く受け取りすぎるんです」


 ……あのねぇ、Lさん。

 ばんばんワイングラスの割れる音が続いていますが、落ち着いてください。

 浮気は不法行為です。


「私の育て方が悪かったっていうんですか!」


 あっ! Lさん! Lさーん!

 ……霊界通信がブチっと途切れてしまいました。これは……かなりお怒りのようですね。Lさん、くわっと目を見開いていました。目力が怖い。

 ……あ、通信繋がらない? ダメ。ダメかぁ……。


 お話の途中ですが、Lさんへのインタビューは、ここでお開きとしましょう。

 最初は上品なマダムみたいな感じでしたから、お話が聞けると思ったんですけどねー。激昂すると人間、変わりますからね。残念です。

 楽しみにしていたリスナーの皆さんには申し訳ありません。

 Lさんも、本日はご出演、ありがとうございました。


 それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!

 ……「愛情は、ときに目を曇らせる」……やっぱりこれですかねー。

 インタビューでは、Lさんが息子さんをとても愛してらっしゃるのが伝わってきました。しかしそれが、ときに判断を狂わせてしまうこともある。

 ……元奥さんに濡れ衣を着せてるの、Lさんの方だと思うんだよなぁ……。

 悪口は、たまに自己紹介になるってやつでしょうか。

 自分が浮気されて我慢した分、息子さんの元奥さんが我慢しなかったのが、耐えられなかったのかもしれませんね。


 この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!

 あ……。スタジオの外につながる窓ガラスに、手が……。コツコツと窓ガラスを叩いています。

 左の薬指に、豪華な指輪がついています……。ここ、二階なんですけどね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ