Lさんの場合
『怨霊の背景を探る!』
このコーナーでは、怨霊となった人々に霊界通信を通じて、インタビューを敢行!
なぜ怨霊になったのか? 怨霊の方々の無念とは?
それをうかがうことで、リスナーの皆さんの知的好奇心をくすぐる、意外と社会派のコーナーです!
怖いもの見たさ──あ、ラジオだから聞きたさか……そういうリスナーさんも大歓迎!
生きている我々が気をつけるためにも、怨霊の方々の無念について知りましょうというコーナーなんですね!
本日は怨霊のLさんをお迎えしております!
「あら……はじまりましたか? こんばんは。本日はお招きいただき、ありがとうございます。Lでございます。どうぞよろしく」
あーらー! Lさん、マダムって感じの上品な方ですね!
本日はご出演をありがとうございます。
早速ですが、Lさんのことを教えてください。ごく簡単にで構いませんので、ご年齢や性別や職業、生き霊か死霊について、教えていただけますか?
「まあ! 女性に歳をきくものじゃありませんよ。……あなた、霊界通信で私のこと、見えてらっしゃるんでしょう? だったらあなたが説明してくださいな。必要があれば、補足しますから」
えっ!? 私がですか!?
えーと……Lさんはマダムという感じの、妙齢のご婦人でいらっしゃいます。少し古い時代に生きておられたような印象がありますね。
「古い時代! まあ……人を原始人みたいにおっしゃるものではなくってよ。失敬な方ね」
わああ、すみません!
昭和の初めか、大正か……そんな時代に生きておられた方のように、お見受けしたものですから。
「あら、正解。私は大正生まれですが、昭和を生きた人間です。亡くなったのは昭和の終わり頃かしら。激動の時代でしたわねぇ」
そうですねぇ。
Lさんが亡くなった理由はどのような?
「寿命です」
あ、天命をまっとうされたんですね。
それで、怨霊になられたというのはどういった理由でしょうか。
失礼ですが、天命をまっとうされて怨霊になられた方は、これまでにあまりいらっしゃらなかったので……。
「長く生きていれば、色々ありますよ」
そりゃそうですね!
でもそこをうかがっていくのが、このインタビューの趣旨でして……。
「知りたい? うふふふ」
ぜひ教えていただきたいです。
「かわいい息子が、離婚したんですよ。元奥さんだった方が、なんでも悪く受け取る人で……かわいそうに、濡れ衣を着せられて離婚したんです」
ははあ、なるほど。
Lさんは元お姑さんの立場だったということですね。
では、恨んでいるのは元奥さんということですか?
「恨んでいるなんてものじゃありませんけどね。……母として、息子を見守っています。これ以上、あの女狐にひどい目に遭わされないように」
女狐とは……まるで昼ドラみたいなセリフですねー。
ドラマの中では聞くことがありますが、実際に言う人に初めてお会いしました。
「何かあったら、許しませんよ!!」
今、パリーン! とガラスの割れる音がしました!
どこのガラスが割れたんでしょうか……。
「割りませんよ。今日び、飾りガラスなんてお高いでしょう? イメージです。ワイングラスを叩きつけるような」
ワイングラスを叩きつけるイメージですか!? 生前、そのようなことをされていた……とか?
わはは。でも割れてないなら、よかったです!
割れてたら、誰かケガをするかもしれませんからね。
「生前も割りませんよ。だって、もったいないじゃありませんか」
さ、さすが、大正から昭和を生きた方です……!
「それで、女狐の話、聞いてくださいます?」
はい。Lさんが怨霊になられた背景をうかがいます。
「広告とか、入れなくてよろしいの?」
あ、長くなる感じですかね?
ではお言葉に甘えて、CMのあと、Lさんのお話をうかがっていきます! 続きはCMのあとで!
***
いやー。今回ちょっと曲者だなー。
「よく言われます」
あははは、そうですか。
……おっと、CM明けてますね?
本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、怨霊のLさんをお招きしています!
「よろしくどうぞ」
よろしくお願いします。
Lさんは、大正から昭和を生きられた方で、大往生された……ということでしたね。
怨霊になった理由は、息子さんが元奥さんに濡れ衣を着せられて離婚したから……ということですが。
「はい。あの女狐め、私のかわいい息子が、浮気してたって濡れ衣を着せたんです。あんな子だとは思いませんでしたわ」
あらー。浮気ですか。
離婚としては、よくある理由ですね。
「私の息子ですよ? 浮気なんてするわけ、ないじゃありませんか」
……。
息子さんには、聞いてみたんですか?
「いいえ! いいえ! 聞くわけないじゃありませんか! 私は息子を信じているんですから!」
そ、そうなんですか……。
またもやガラスの割れる音がしています……Lさん、あまり興奮せずに、どうか。
元奥さんからはお話、聞いていますか?
「聞いていますよ。スーツのポケットからキャバレーのマッチ箱が出てきたとか、クレジットカードの明細書にホテルの名前があったとか、そんな話でした。しかもそれ、離婚の数年前の話だって言うんですよ! いつまでも昔のことをネチネチと!」
いや、それ……は……。
限りなく黒寄りのグレーじゃないですか? 明細にホテルの名前があるのは、ちょっと……。
「それだけで決めつけるんですか? ……大体ね、浮気なんてされるのは、元奥さんが綺麗にしていないからですよ。百歩譲って浮気していたとして、元奥さんに足りないものを求めて、浮気したんじゃないですか。可哀想な息子……!」
……なかなか昭和の発想ですねー。Lさんは昭和の方ですから、仕方ないのかもしれませんが。
こうして無条件で信じてくれる相手がいるというのは、息子さんにとって、心強いですね。
ただ……元奥さんにも、きっとそういう人がいますよ。
「離婚のときに慰謝料をとられたって言うんです! お金目当てだったんですよ、あの女狐!」
それ、浮気が長期間続いてたとか、元奥さんの堪忍袋の緒が切れたとかいう可能性、ありませんか?
浮気での離婚は、慰謝料をもらう権利がありますよ。だって不法行為ですから。
「……私だって、自分の夫に浮気されましたよ。方々を遊び歩いて、帰ってくるのかわからないのに、夕食を作って待っていました。でも離婚しませんでした」
そういう方もいらっしゃいますね。夫婦関係の再構築を選んだ方。浮気は男の甲斐性なんて時代もありました。
でもそれはLさんの場合であって、Lさんの息子さんの場合は、また違うんですよ。
Lさんと息子さんは、別の人間なんですから。
「もう私、息子が濡れ衣を着せられたのが屈辱で……。悔しくて、怨霊になってしまいました」
そ、そうですか……。
でもそれこそ、Lさんのおっしゃったように、「いつまでも昔のことをネチネチと」なのでは?
……お話を聞いた感じですよ? Lさんからのお話を聞いて、あくまでも私が思ったことなんですが……。
私には、Lさんの逆恨みのように聞こえます。
「私の息子、モテるんですよ。浮いた話の一つや二つ、出てきてもドッシリ構えているのが妻じゃありませんか? 元奥さんは、なんでも悪く受け取りすぎるんです」
……あのねぇ、Lさん。
ばんばんワイングラスの割れる音が続いていますが、落ち着いてください。
浮気は不法行為です。
「私の育て方が悪かったっていうんですか!」
あっ! Lさん! Lさーん!
……霊界通信がブチっと途切れてしまいました。これは……かなりお怒りのようですね。Lさん、くわっと目を見開いていました。目力が怖い。
……あ、通信繋がらない? ダメ。ダメかぁ……。
お話の途中ですが、Lさんへのインタビューは、ここでお開きとしましょう。
最初は上品なマダムみたいな感じでしたから、お話が聞けると思ったんですけどねー。激昂すると人間、変わりますからね。残念です。
楽しみにしていたリスナーの皆さんには申し訳ありません。
Lさんも、本日はご出演、ありがとうございました。
それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!
……「愛情は、ときに目を曇らせる」……やっぱりこれですかねー。
インタビューでは、Lさんが息子さんをとても愛してらっしゃるのが伝わってきました。しかしそれが、ときに判断を狂わせてしまうこともある。
……元奥さんに濡れ衣を着せてるの、Lさんの方だと思うんだよなぁ……。
悪口は、たまに自己紹介になるってやつでしょうか。
自分が浮気されて我慢した分、息子さんの元奥さんが我慢しなかったのが、耐えられなかったのかもしれませんね。
この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!
あ……。スタジオの外につながる窓ガラスに、手が……。コツコツと窓ガラスを叩いています。
左の薬指に、豪華な指輪がついています……。ここ、二階なんですけどね……。




