Kさんの場合
気がつけば、心の中に秘めていたはずの無念に囚われている──。
怒りや後悔、悲しみ……あなたもそんなこと、ありませんか?
気をつけないと、怨霊に近づいていってしまうかもしれませんよ──?
はい! この『怨霊の背景を探る!』は、怨霊となった人々に霊界通信を通じて、インタビューをしていくコーナーです。
なぜ怨霊になったのか? 怨霊の方々の無念とは? 生きている我々が気をつけていくためにも、まずは怨霊の方々の無念について知りましょうというコーナーなんですね!
本日は怨霊のKさんをお迎えしておりまーす!
「こんにちは。こんばんは? ……おはようございます……?」
あはは。この番組は深夜の放送なので、「こんばんは」か、「おはようございます」ですかね?
よろしくお願いします。
「本日はお呼びいただき、ありがとうございます」
こちらこそ、来ていただいてありがとうございます。
怨霊になられた理由をうかがっていく前に、Kさんのことを教えてください。
「30歳、専業主婦です。自殺で亡くなりました……おそらく」
おそらく……?
ご自分の死んだ理由がわからない感じですか?
「気がついたら、死んでいたので……」
それは、ポックリ亡くなったのとは、また違う感じですか?
「そう……ですね……。自分が何をしているか、自分でわからなくなっていたというか……」
そうでしたか……。
最近、自殺で亡くなられた方が何人かいらっしゃってますが、怨霊になられているくらいなので、生前抱えていた無念も大きい……ということでしょうか。
Kさんが怨霊になられた理由について、おうかがいしてもよろしいですか?
「育児ノイローゼです」
あああ。そうでしたか……。
産後うつや育児ノイローゼだと、そういうこともありうるのかもしれませんね。わからないまま、衝動的に……と。
一旦CM入れましょうか。CMのあと、Kさんが怨霊になられた理由をうかがっていきます!
***
はい。本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、ゲストにKさんをお招きしています!
Kさんは、育児ノイローゼで自殺されたというお話でしたね。
いやー、育児ノイローゼ、最近はよく聞く話です。育児って大変ですからね。
赤ちゃんって、最初は3時間おきに授乳が必要じゃないですか? 3時間ごとに起きないといけないから、パパさんやママさんは、大変ですよね。
実際には、1時間ごとに起きる子がいたり、粉ミルクを飲んでくれない子がいたり、夜泣きで全然寝てくれなかったり……なんてこともあると聞きました。
「そうですね……。でも子供はかわいいですよ。……かわいい……?」
……。Kさん、さっきから自問が多いですね。
「すみません、すみません……。自分のことなのに、わからなくなってしまって……」
あああ、謝らないでください。
うつやノイローゼで、そういう状態になることもあると聞いていますから。
大丈夫! 大丈夫ですよ!
「大丈夫じゃないです……。だって私、死んでしまっていますから……」
あ……ああ、そうでしたね。
ラジオなのでリスナーの皆さんには見えませんが、Kさん、やつれた顔にそっと手を当てて、悲しんでおられます……。
スタジオの電灯が、ゆらーりゆらりと揺れていて、どこか不穏ですね。それにあわせて、影が伸び縮みしています……。
……Kさんが亡くなられたのは、いつ頃ですか?
「平成の……半ば頃です……」
割と最近亡くなられたんですね。
ワンオペ育児が社会問題にもなっていますが、もしかしてKさんも、そういう状態だったりしましたか?
「はい……。主人は仕事の忙しい人でしたから、朝7時前には出社して、夜9時を過ぎないと帰ってきませんでした……。ですから、どうしてもワンオペ育児に……」
それはなかなかの激務ですね。平日は毎日そんな感じですか?
「はい。帰宅後はお風呂に入って食事をすると、寝てしまいます……。子供をお風呂に入れてはくれますが、それ以外はほとんど子育てに関わってくれず……。休日は疲労をとるために、ずっと寝ているような状態です……」
なるほど。ワンオペ育児が問題になっていますが、これ、ブラック労働との兼ね合いもあるんですよね。
ブラック企業で働いていると、どうしても子育てに時間がとれない……その気力もわかない……ということはあるでしょうから。
家族を守るためにモーレツに働いているお父さんたちには、ちょっと耳の痛い話ですね。仕事から帰ってきたら、子供に顔を忘れられていた……「おかえり」じゃなくて「いらっしゃい」なんて言われたなんて、悲しい話もありますから。
激務の人って、晩ご飯のお惣菜とか買って帰ることが多いじゃないですか? ああいうのも、料理する気力がなくなってしまうほどの激務が関係してるのかもしれません。
激務でなくても、通勤に時間をとられることもありますよねー。
令和の今はライフワークバランスが提唱されて、その辺、少し意識する人が増えたんじゃないでしょうか。
ブラック労働の裏側で、Kさんのようにしわ寄せを食らっていた人たちが声を上げた結果ですね。
これ、女性が社会進出したのも大きいと思います。だって女性を雇っている会社にとっては、そうやって疲弊していく、ときには辞めてしまう女性社員を見ているわけじゃないですか。
女性を雇うことが、企業にとってリスクでなくなるためには、ライフワークバランスというのは重要なんです。
……旦那さんのこと、恨んでいますか?
「どうでしょう……。私もパーソナリティさんと同じように考えていたんです、最初は。夫もブラック企業の犠牲者だって。高いお給金をいただいているなら、お惣菜を頼むとか、ベビーシッターに頼むこともできますけど……ブラック企業って、そうではないですよね」
そうですねー。
安い給料でこき使うのが、ブラック企業ですからね!
昭和の頃って、シャカリキに働く社員を褒め称える文化だったじゃないですか?
あれ、お給料がよかったから、それでなんとかなっていた……という部分もありますよね。
バブルが弾けて、失われた30年なんて言われて、昭和の頃と比べると、お給料も上がらなくなった。
なのに人の認識が昭和の頃のままなら……そのしわ寄せは、どこかに出てしまいます。
「夫の手取りは20万円ほどでした。子供を育てるのだって、お金がかかります……。その状態で、ワンオペ育児と家事をこなしている私に八つ当たりをしはじめて……あれ? と」
ああああ! そーれはよくありませんねー!
え、家事もワンオペだったんですか?
「はい。小さい子供って、部屋の中を散らかしますよね。何度片付けても散らかされてしまう。……それを、帰宅した夫が『なぜ部屋が片付いていないのか』と責めるんです。『俺なら30分でできる』とか。片付ける間にも子供の面倒を見なくちゃいけないし、また散らかされてしまう。そういうことは考えていないんです。……それでもう、疲れてしまって。私が元々片付けが得意ではないのもありますが……」
ああああ! それ、典型的なモラハラってやつですね?
そうでしたか……。それもKさんの育児ノイローゼの原因になったのかもしれませんね。
おや……? スタジオの中に、なぜかモヤが発生しています……。
「ただ、夫は子育てに関して無知なだけです。知れば少しは変わるかもしれない。誰だって、初めて親になるときは、わからないものでしょう? そう思って話をしたり、両親学級などにも出席を求めたりしたんですが……」
……ダメだったんですね?
「はい。断られてしまいました。しまいには『お金がないのは、お前が浪費するからだ』と言うようになって……悪いことは全部、私のせいみたいな言い方をするんです」
なるほど。そこまでくるとモラハラですね。
……それでKさんはノイローゼに?
「……だと思います。でも、わかりません……。考えようとすると、頭にモヤがかかったようになって……私が悪いのかもしれません。『金か! 金があればいいのか!』と怒鳴られたこともありました……」
いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ! お話を聞いている限りでは、Kさん悪くないですよ!
それは旦那さんに「お前が悪い」と洗脳されていたようなものです。
……Kさんの頭にモヤがかかるのと時を同じくするように、スタジオの霧も濃くなっていってます!
「そうでしょうか……」
そうですよ! これ、Kさんが悪いみたいな結論になってしまったら、番組にクレームのお手紙がたくさん届いちゃうじゃないですか!
……では、やっぱりKさんが怨霊になるほど恨んでいるのは、旦那さんということですか?
「よくわかりませんが……それは違うような気がします。どちらかというと……社会全体の問題なのかなって……」
社会全体の問題!
急に主語が大きくなりましたね!?
「たとえば……昭和の頃って、女の子は家庭科、男の子は技術科……みたいに、学校の授業も分かれていたじゃないですか」
ああ、ありますね!
最近ではその辺りも、男女の区別なく授業を受けるらしいですが。
「そういうところで、男性が子育てについて、家事について知る機会というのが、元々少なかったのではないでしょうか……。だから出産した時点で、女性とは知識のスタートラインが違うのかもしれません……。女性は出産がありますから、もちろん身体の負担などでも違いますけど」
なるほど。先ほど、旦那さんが子育てに関して無知だっただけだ、知れば少しは変わるかもしれない……とKさんがおっしゃっていたお話にも通じます。
「そういう細かなことの積み重ねが、社会のひずみになって──私はそこで苦しんだ結果、ノイローゼになったのではないでしょうか……。だから、社会全体の問題なのかもしれないって……」
なるほど。Kさんのお話を聞いて、腑に落ちる点がいくつもありました。
Kさん、本日はお話を聞かせてくださって、ありがとうございました。
それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!
……「無知の知!」「家族を守るためにすることは、働くことだけではない!」……この二つです。
無知の知というのは、自分が無知であることを知っていれば、教えを請うこともできるということですね。子育てともなれば、無関心ではいられない。男性も父親になるんですから。
二つ目は、家族を守るためだとシャカリキに働く人、たくさんいますけれど、それだけではかえって家庭を壊してしまうこともある……というところですね。熟年離婚に、気をつけましょう!
さて。この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!




