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Jさんの場合

 あなたも恨み、ありませんか──?

 無念が晴らされることなく胸の内でどんどん強くなると、怨霊となる日が、やって来てしまうかもしれません──。

 この『怨霊の背景を探る!』は、怨霊となった人々に霊界通信を通じて、インタビューする番組です。

 はい! というわけではじまりました、本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、本日は怨霊のJさんをお迎えしております。


「よろしくお願いします……」


 よろしくお願いします!

 蚊の鳴くような、小さな声ですね。リスナーの皆さんからは見えないでしょうが、霊界通信を通じて、私にはJさんの姿が見えております。……緊張されてます?


「はい……。前回放送を拝聴したのですが、ブロッコリーが大変よく売れていると……。それだけ影響力のある番組ということですよね」


 あー。どうなんでしょうか。パーソナリティの私としては、あまり実感がわかないところなんですが、先々週かな? お手紙をたくさんいただきまして、一部でカルト的な人気を博しているそうです。ありがたいことです。

 さて、怨霊になられた理由をうかがっていく前に、Jさんのことを教えてください。


「40代、兼業主婦でした。平成の頃に亡くなっております」


 なるほど。主婦の方なんですね。では、怨霊になられた理由をうかがいたいのですが。


「はい……。子供が心配で……」


 なるほど、お子さんが心配で、成仏できないわけですね。

 Jさんが亡くなられたとき、お子さんは小さかったとかでしょうか?


「20歳です」


 成人されているんですね。ああ、今は18歳で成人でしたっけ。

 うーん、でもお子さんが心配というだけなら、幽霊だって構いませんよね?

 怨霊になるということは、Jさんの恨みがあるはずなんですよ。


「はい。恨み、ございます」


 どのような恨みですか?


「……」


 あ、やっぱり緊張されてます?

 では一旦CMをはさんで、CMの間に気持ちを整えてもらいましょうか。続きはCMのあとで!


***


 はい。本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、Jさんにお越しいただいております。

 お子さんが心配で怨霊になられたということですが、その辺、くわしくうかがっていきます。

 Jさんの恨みというのは、どなたへ向けての恨みですか?


「特定個人というのではありません……。組織ですね……。この番組でも、たびたび名前が出ている『しきたり』という……」


 ええっ! また「しきたり」の被害者が!? 続きますねー。


「こちらで何人かが『しきたり』による被害を告発しましたよね。それを聞いて、私も……と」


 ああー。なるほど。

「しきたり」による被害を告発したい方が、この番組に集まってこられてたってことなんですね。

 類は友を呼ぶと言いますか、朱にまじわれば赤くなると言いますか……被害者の方が「この番組なら話せるだろう」と考えてくれているってことですね。

 それは大変ありがたいことなのですが……、正直なところ、「しきたり」関連はちょっとおっかないなぁというのが、私、パーソナリティの本音でして。わははは。

 だって……ねぇ……スポンサーが関係してないとも限らないでしょう?


「……ダメですか?」


 あ! いえ! 決してダメだというわけではないんですよ!

 前々回、お話をうかがったIさんは「しきたり」に加害側で関係していた方でした。

 不正義を糾し、相手に自分のしたことをわからせるという目的で、加害に加担したらしいんですね。ところが、実際には濡れ衣だった。

 だから今度は、Iさんが加害に加担したことを理由に、Iさん自身が被害に遭うことになってしまった──と。


「はい……。聞いてました」


 ありがとうございます。

 これは我々の推察ですが、「しきたり」というのは情報搾取のための機構なのではないか? と。

 最初の被害者、それから正義心をくすぐられて騙されたIさんみたいな人……。

 情報を利用する側にとっては、二度美味しいですよね?

 被害者だけでも「濡れ衣を着せられた状態」と、「被害者が語った真実」の両方の情報を利用できるわけです。

 騙されたIさんみたいな人がいると、さらに情報が増える……というわけです。


「それを『ウツボカズラ』と言っておられましたね」


 はい。食虫植物のようなものだと、Iさんはおっしゃってました。

「しきたり」は基本的には「因果応報」だというけれど、少しズレているという話もありました。

 これも、情報搾取目的でわざとズレさせて、反論させるためにやっているのではないかと……個人的にはですよ? 推理しています。


「それで……私が怨霊になった話は、聞いていただけないのですか?」


 あ! いえ! そういうわけではなく!

「ウツボカズラ」であるなら、怨霊の方の反論自体が情報搾取になるのではないかという点を懸念してまして──。


「聞いていただけないんですか?」


 ヒェッ! 今ものすごい音を立てて、スタジオの防音扉が叩かれています!

 聞きます! 聞きますからやめて!


「聞いていただけるんですね。よかったです……」


 はい。それでJさんは、どのような被害に遭われたのでしょうか?


「子供の情報を、第三者に勝手に利用させるぞ……と脅されました……」


 えっ!? お子さんの情報を!?

 それは……Jさんが怨霊になるほど恨むのも当然ですね。


「元々は、私の情報が使われていたんです……。でも私の情報を搾取する上で、家族の情報も、必然的に入手できてしまいますよね──。若い人の情報は高く売れると言われました……」


 わあああ! ガラスを引っ掻くような音が聞こえてきます! やめて! その音苦手なんですよ! Jさんのお怒りは、ごもっともです! 至極当然の恨みですから!

 ……あ、止まりましたね。よかったぁ……。

 Jさんの情報が勝手に使われていることも問題ですが、家族の情報もとなると、大いに問題があります。


「はい……。ですから私、祟らねばならないのです……『しきたり』を……」


 そうでしたか……。

 つまりJさんは、死後もお子さんを守るために、怨霊になったということですね。


「私は用済みなんだそうです──。既に情報を搾取し終えたから……」


 ……。よ、用済みとは……また、おそろしい話ですね。

「しきたり」が情報元になる人間を、モノのようにしか見なしていないことが伝わってきます。


「ですから私は、自分の子供を守らなくてはいけません……。私と同じような目に遭わせないためにも……」


 Jさんが「しきたり」を恨む理由が、よく伝わってきます。


「私の話は以上です……」


 Jさん、本日はお話を聞かせてくださって、ありがとうございました。

 それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!

 ……「家族に手を出すと、おとなしい人でもブチギレる」……私にはJさんの姿が見えていたのですが、Jさん、とてもおとなしそうな、儚い印象の方なんですよね。

 怨霊というよりは、幽霊といった感じの方です。そういう方でも、家族に手を出されると、怨霊になってしまう。

 いやー、もうこんなの、反社会的勢力みたいなやり口ですよね!


「元反社会的勢力が関わっていると言っていた方もいましたよ……。そう信じ込ませたいだけで、実際には違うようですが──」


 えっ……。ますます「しきたり」から危険な香りが漂ってきましたね。

 怖いなぁ。もうあんまり首突っ込みたくないなぁ。はは……はははは。


 さて。この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!

 ちょっと肌寒いなー。風邪でしょうかね。皆さんも、風邪などひかないようにご自愛くださいね!

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