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死霊術師は開拓村でスローライフをおくる  作者: 結城 からく


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第48話 死霊術師は下層の脅威を披露する

 ルシアと眷属の奇襲を受けながらも、レリオット一行は進むことをやめなかった。

 傷の治療と魔力の回復を行ってから移動を再開する。

 少なくなった聖騎士たちは、陣形を変えながら敵の対処にあたる。

 ここで撤退するつもりはないらしい。

 相当な執念である。


 普通なら生還できるかを考える段階だが、彼らに死への恐怖は微塵も見られない。

 むしろ全身から荒れ狂う怒気を発散していた。

 仲間を殺されたことを恨んでいるようだ。

 それをさらなる原動力にしている。


 恐怖で瓦解してくれれば楽だと思ったのだが、そう上手くはいかないらしい。

 彼らは死ぬまで足を止めない。

 どれだけ犠牲を払ってでも、この迷宮を破壊する気なのだろう。


 明らかに常軌を逸している。

 レリオットは意図的にそういった精神性の者を集めたに違いない。

 尻込みして生還を優先するような者は、彼にとって不要だったのだ。


 そんな一行は中層を進んでいく。

 私は何度も殺されながらもしつこく監視を続けた。

 レリオットは私が他のアンデッドと異なることに気付いている様子だが、連続戦闘を前に構う余裕がないようだ。

 彼が少しの間でも離脱すれば、たちまち聖騎士は全滅するに違いない。

 ひとまず私を殺害して監視を妨害するだけに留めている。


 中層を進む彼らを阻むのは、ルシアの執拗な妨害工作であった。

 幻影魔術でアンデッドの数を誤認させ、死角から眷属を突撃させる。

 通路の破壊による迂回の強要も一度や二度ではなかった。

 ルシア自身が姿を見せない代わりに、徹底した妨害が繰り返されている。

 レリオットと戦うのは無理だと悟った上での行動だろう。


 無論、この間もテテの操るアンデッドは変わらず登場している。

 アンデッドたちは、損害を考慮しない捨て身の攻撃を敢行した。

 一体ごとの脅威は大したものではないものの、それが何十体も集まれば無視できるものではない。


 結果、中層を突破する頃には、レリオット一行の生き残りは十三人になっていた。

 ルシアによる最初の奇襲からさらに減った。

 どれだけの強者でも、この環境では厳しいということだ。


 彼らが全滅にまで至らないのは、アンデッドと聖魔術という相性と、剣聖レリオットの存在があるからだろう。

 激戦の連続でも、レリオットは変わらず圧倒的な強さを誇っている。

 むしろ苦境に追い込むほど力を増している気配すらあった。


 英雄の特徴だ。

 彼らは不可避な運命を捻じ曲げる。

 常人にとっては、まさに非凡な怪物である。

 そういった素質を有しているが故の英雄だった。

 彼らの活躍が後の世に語り継がれるのも自然なことであった。


 今回の迷宮探索も、レリオットが最下層まで攻略すれば立派な英雄譚へと昇華される。

 人々は喝采を送るだろう。

 迷宮破壊による不利益を被るのは、開拓村を始めとする一部の者だけだ。

 大多数の称賛に呑み込まれて聞こえなくなる声に過ぎない。


 もっともそれは、迷宮を完全攻略できればの話である。

 レリオット及び聖騎士たちの生還は私が阻止する。

 英雄でも覆せない末路はあるのだと伝えなければいけない。

 開拓村を守るためなら、私は幾千もの悲劇を生み出す所存であった。


「なんだこの不死者は……見たことのない奴ばかりだッ」


「あちこち毒だらけだ! 滑らないように注意しろ!」


「くそ、腕を斬らねぇと……!」


 下層へ踏み込んだ一行は、地獄絵図の最中を突き進んでいた。


 天井を這い進むのは朱殻蟻だ。

 杭のように変形させた顎の牙は、高速回転するようになっていた。

 天井から落下した朱殻蟻は、魔術の防御ごと聖騎士を抉り貫く。


 そこへやってくるのは、数十人分の死体で構成されたスケルトンだ。

 巨大な骨の塊となったスケルトンは、異様なまでの耐久性を獲得した。

 数本の骨が折れようと構わず突進を繰り出す。

 避け損ねた聖騎士は、鋭利な骨に轢き潰されて即死した。


 左右に揺れながら闊歩するのは肥大アンデッドである。

 肥大アンデッドは、泥状の瘴気を吐きながら動く。

 聖騎士がその膨らんだ腹に刺激を与えれば、破裂音と共に爆発した。

 そして、やはり泥の瘴気を四散させる。


 奇声を上げながら駆けるのは、アンデッドのゴブリンだ。

 複数の怨霊に取り憑かれたその個体は、他者に跳びかかって呪いを押し付けようとする。

 それを嫌って倒すと、今度は内部の怨霊が暴走し、様々な呪いを撒き散らす。

 不運にも呪いを受けた聖騎士は、指先から腐蝕した末にぐずぐずの肉塊になって死亡した。

 乱戦においてこの上なく厄介なアンデッドに違いない。


 それらの異形に加えて、蔓延する瘴気は浄化が困難な濃度を保っている。

 既に聖魔術を用いても完全には防御できない。

 それどころか、半端な聖魔術では発動すらできないほどであった。

 瘴気を弾けるだけの効力に満たないためだ。

 必然的に一行は魔力をより多く消耗しなければならない。

 聖騎士の数が減るほど、生き残りの負担は増大していく。


 生者の活動を拒絶する空間だが、アンデッドにとっては最適な環境である。

 不死性が強まり、よほどの損傷を負わなければ活動を止めなくなる。

 聖なる光を受けても焼け爛れることもなくなり、接近しても動きは鈍らない。

 両陣営の格差は著しい。


 そういった数々の事情があり、上層や中層に比べると下層の攻略難度は別次元と化していた。

 これまでは突破される前提の作りだった。

 一般の冒険者が挑んでも稼ぎを得て生還できる程度に抑えてある。


 しかし、下層からはそういった遠慮を捨てている。

 侵入者の殺害を目的としたものだ。

 言わばこの迷宮の本性である。


 私は死にゆく聖騎士を目にして満足する。

 丹念に時間をかけて汚染した甲斐があった。

 強力なアンデッドも自然発生し、私が手を加えることで無類の特性を得た。

 今や聖騎士たちは生存すら危ぶまれた状況だった。

 形勢はとっくに覆っている。


 そうして悪辣なアンデッドの軍勢を倒し、なんとか最下層へ続く階段に辿り着いた時、一行はレリオットと四人の聖騎士のみになっていた。

 残りの者は皆死んだ。

 今頃はアンデッドとなって各層を徘徊しているだろう。


 聖騎士の肉体と魂は貴重だ。

 上手く弄ると強力な個体へと変貌させられる。

 レリオットの始末が済み次第、改良しに行くつもりだった。


 僅かな休息を済ませた一行は階段を下り始める。

 慎重な足取りの彼らは、聖魔術を惜しみなく使いながら進む。

 温存など考えられない局面だと理解しているのだろう。


 その先には迷宮最強のアンデッド――死骸騎士が待っている。

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