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死霊術師は開拓村でスローライフをおくる  作者: 結城 からく


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第16話 死霊術師は守護者を生み出す

 夜明け直前、私は人工迷宮へ移動する。

 背後には多種多様なアンデッドが付き従っていた。


 最も数が多いのはゴブリンである。

 およそ四十体で、あれから巣を襲撃して残らずアンデッド化したのだ。

 中には魔術適性を持つ個体もいたが、特に苦労することもなく殲滅できた。


 次に多いのが土狼だろう。

 こちらはだいたい十五体ほどいる。

 ゴブリンたちが飼い慣らしていたものだ。


 他にもゴブリンの上位種であるホブゴブリンや、人間を丸呑みできるほどの大蛇、風魔術で相手を切り裂く剣鳥など有用な魔物を確保した。

 開拓村からかなり離れた地点まで探索した甲斐はあった。

 別行動で探索させていたアンデッドたちも、順調に仲間を増やすことができたようだ。


 全体の規模から考えると生態系に少なくない影響を及ぼしそうだが、その辺りはまた別の機会に考えよう。

 極端な話、村での狩りに支障が出なければ問題ない。

 多少の損害なら私の力で補填できる。


 複雑に入り組んだ通路を、ひたすら徒歩で進む。

 整備作業を任せたアンデッドを経由して、迷宮内の地形は事前に把握していた。

 現在進行形で広がる地下空間も、最短距離でテテのもとへ向かうことができる。


 いずれ侵入してくるであろう冒険者にとっては、厄介極まりないだろう。

 マッピングによる効率的な攻略を無効化するため、常に朱殻蟻のアンデッドで地形を改変させている。

 各所にアンデッドを徘徊させて、罠も設置する予定だ。

 徹底的な妨害工作によって、最下層までは行かせない。


 それらを突破してくる冒険者は、私が直々に相手をしよう。

 別に難しい話ではない。

 ただ迎え撃って追い返すだけだ。

 場合によっては殲滅してもいい。

 迷宮の設備と戦力を整えれば、片手間にでもこなせるようになる。


 将来的には私が手を加えなくとも運営できるような形にしたかった。

 それが理想の形である。


 私もやるべきことが山積みなのだ。

 迷宮にばかり注力できるわけでもない。

 開拓村にはまだ"処理"すべき人間がいる。

 発展に伴ってさらに増えていくだろう。

 彼らを始末するのも私の役目だ。


 ただ殺害するだけなら簡単だが、善良な村人たちに迷惑をかけないように工夫がいる。

 開拓村に恐怖の種を撒くわけにもいかない。

 できるだけ波風が立たない形での排除が絶対条件だった。

 焦らなくていい。

 油断せずに地道にやっていこう。


 作業するアンデッドを横目に、私は移動を経て最下層に到着する。


 この空間の主であるテテは居眠りしていた。

 干し草の山に布を敷いただけの簡易ベッドで横になり、静かに寝息を立てている。

 綺麗な鼻ちょうちんが収縮と膨張を繰り返していた。


 彼女の周りには護衛兼見張り役のアンデッドがいる。

 彼らは微動だにせずにテテを見下ろしていた。


 その光景に私は嘆息する。


 いくらなんでも気が緩みすぎではないだろうか。

 無警戒にもほどがある。

 確かにここは安全だが、それにしても肝が据わっている。

 テテの順応ぶりには尊敬の念すら抱く。


 わざわざ起こすこともないので、私は彼女から離れて作業をする。

 戦力増強の仕上げだ。


 集めてきたアンデッドの一部を密集させて、死霊魔術で解体・結合していく。

 さらに数体の朱殻蟻も混ぜ合わせた。

 原型を失った大量の肉塊が蠢き一つになる。

 無秩序な状態から徐々に形を作り上げていった。


 ほどなくして作業は終了する。

 そこに立っていたのは、赤黒い騎士のような何かであった。


 人間の範疇ながらも屈強な体躯。

 数十体のアンデッドを極限まで圧縮して形成したものだ。

 余分な肉については術式付与に消費した。


 全身を隈なく覆うのは、朱殻蟻の甲殻と大蛇の鱗である。

 随所には土狼の毛皮があしらわれていた。

 これらが外見を騎士のように見せている。


 手にはロングソードを握っている。

 魔物の骨を主軸に、剣鳥の羽を組み合わせて作った。

 振ると風魔術が発動し、遠距離の対象を切断できる。

 生物由来の魔術武器だ。


 私はその出来栄えに満足する。


 これは最下層に設置するための魔物だ。

 森に強力な魔物がいなかったので、自作することにした。


 死体の合成は死霊魔術の得意技である。

 調整次第でいくらでも自由にアンデッドを作製できる。

 この能力こそが死霊術師の強みであり、人々から忌避される原因の一つであった。


 出来上がったアンデッドは、死骸騎士と呼称する。

 最下層に君臨する守護者として、存分に力を発揮してもらおう。


 私の見立てでは、並の冒険者ではとても敵わない。

 無数の強化術式と、数十体分の魔物の怨念が込められている。

 たとえ魔族だろうと虐殺可能だろう。

 素体の質を考慮すれば、十分すぎる性能と言える。


 今は労働力が必要なので、死骸騎士の量産はしない。

 アンデッドの数が飽和してきたら考えようと思う。


「なに、それ……?」


 困惑する声が聞こえた。

 見ればテテが眠そうな目をこすりながら起きている。

 彼女は死骸騎士を凝視していた。


 私は死骸騎士を指し示しながら答える。


「新しい戦力だ。これで並大抵の冒険者は倒せる」


「そんな魔物を手軽に作れちゃうのね……世界征服でもするつもりなの?」


「まさか。私はただ、あの開拓村の発展に貢献したいだけさ」


 私のすべての行動目的はそこに終着する。

 今までも、そしてこれからも一貫していた。


 人工迷宮は着々と準備が整いつつある。

 最下層の守護者も完成した。

 あとは冒険者の到来を待つのみだ。

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