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人生をやり直した令嬢は、やり直しをやり直す。【コミカライズ】  作者: 川崎悠
第二幕

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26/55

26 リュジー

「ん……」


 私は、ゆっくりと意識を覚醒させた。

 崖底に身を投げ、激流に流され。それでも抗おうと泳いだ記憶がある。


(……でも、けっきょく力尽きてしまったわ)


 どうなったのだろう。死んではいないのか。それとも、ここは死後の世界か。


 目を開いていく。見上げてあったのは、木製の作りの天井。


(どこかの建物の中? 捕まった? 命は奪われてない……)


 ならば、王家の影に拾われたのだろうか。


 パチパチと音が聞こえる。温かいような気配と匂い。

 暖炉に火が入っている? 私の身体を温めてくれているようだ。


(え。身体。私の? なんだか、すーすーとするような)


 ……ちょっと嫌な予感がしたわ? わ、私。服を着ていないわね?

 下着さえも着ていない……! え。王家の影がそんな事したの?


 た、たしかに身体は冷え切っていたし、衣服は濡れていたけど。


(レグルス様の元へ連れていくのに、こんな事したんじゃ殺されるんじゃないの……?)


 流石に。流石に女として襲われはしないだろう。でも恥ずかしい事には変わりない。

 裸なんて侍女など、同性にしか見せた事ないのだ。


 当然だけど、1度目・2度目の人生、どちらのレグルス様にさえもだ。

 だというのに。今の私は、服も下着も来ていない全裸の姿だなんて……。



「──気が付いたか、キーラ」

「ふぁふぇ?」


 すっとん狂な声が私の口から出た。え、え? 今の声、どこから聞こえた?

 すぐ近くじゃない? 近過ぎなかった?


「キーラ。無事で良かったな」

「ふぇ……ふぁっ!?!?」

「ん?」


 顔を横に向けた。そこには。


 黒い髪、翡翠(ひすい)色の瞳、そして褐色の肌をした……見た事のない、美しい()が、居た。



「!?!?!?!?」

「お、おい。暴れるなよ、キーラ」


 なんで、なんで、なんで!?


 え、だって、私、裸! 全裸! 素っ裸! なのに男性に、抱かれて!?!?


「い、いやっ! なんで、私は!」

「ちょっ、こら。暴れるな」

「いやっ、いや!」


 え!? しかも、この男に抱き締められている!? 裸で! 裸で!?


「なっ、なんで! なんでなんで!」

「……ああ、もう!」


 と。その美しい男は、私に迫ったかと思うと、抱き締め、そして。


「んんんっ!?」


 ……唇に。……唇を、奪われた。


「んんんんっ……!」


 私の、初めてのキス。2度あった人生で、それでも初めてのキスが、この男に奪われたのだ。


「んっ、んんっ、んくっ、んっ……」


 ゾクリ、と背筋に電流が走った。


(そんな……。気持ち、いい?)


「んんっ!」


 私が感じたのは、嫌悪感ではなかった。絶望感でもない。


 ……快感を、感じた。


 強制的に引き出されるような、快感。


「はっ……はぁ、あっ、んんっ……!」


 一度、唇が離れると、息をする。でも、すぐさま次のキスが襲ってきた。


「んんんっ」


 男にされるキスが、気持ちいい。裸なのに、裸だから、余計にその快感が私の羞恥心を煽った。

 反応してはいけない身体の反応が、晒されてしまう。


 男の逞しい胸板に触れてしまっていて、自分の身体に起きてしまった反応を知られてしまう……。


「ちゅ、んっ。んんっ……はっ! はぁ……はぁ……」


 どれだけ続いたのか分からない深い、深いキスの時間。

 強制的に、自分が女だと意識させられるような快感を与えられて、全身の力が抜けてしまった。



「……落ち着いたか? キーラ。俺だ。分かるだろ?」

「……、……、その声、まさか」

「ああ、そのまさかさ」



「──リュジー(・・・・)。……リュジー、なの?」

「そうだよ。キーラ。ずっと、お前の傍にいた悪魔さ」

「どう、して」


 人間の姿の、リュジー。


 それならば、さっき与えられた快感が理解できる。

 あれは、いつも彼が私の肌を這いずった時に得られる感覚の、もっと強いものだった。


 落ち着いて彼の身体を見る。


 絶世の美男子と言っても過言ではない程の、美しい男性の顔。


 黒く艶やかな髪の毛は、少し癖がある。瞳は翡翠色の瞳。


 肉体は、逞しくも、痩せたようにも見える身体で……。

 男を何も知らない私が思い描く、理想のような体型。


 どこか。そう、どこか煽情的だ。この美しさと逞しさだけで、幾人もの女が、彼に抱かれる事を願ってしまいそうな程。


(色気があるわ。男性の色気って、こういう事を言うのね……)


 キスで与えられた快感のせいか、頭がポヤポヤとしている。

 胸はドキドキと高鳴っていて、まるで今の私の身体は、恋する乙女のよう。




「どうして、人間の姿なの?」

「んー……。やむなく、だな」

「やむなく?」

「ああ。やむなく『受肉(じゅにく)』した」

「……じゅ、にく?」


 人間の身体を手に入れた、という事? 悪魔ってそんな事が出来るの?


「残念ながら軽々しくは手に入れられない。もちろん、代償つきだ」

「だ、代償って。貴方、どうして」


「キーラを助ける為にはこうするしかなかった」

「私を? あっ」


 そうだ。私は、あの豪雨と激流の中、気を失ってしまったのだ。


 だというのに、こうして命があるという事は、他の誰でもない。あの場に居たリュジーが助けてくれたという事。


 そして、軽々しく助けられると言うのなら、リュジーだって私にあんな無茶をさせなかっただろう。

 私は覚えている。


 崖底へ落下する時も、リュジーはかなり無理をしていた筈。

 だったら、あの状況から私を助けるなんて、余計に無茶だった筈よ。


 それでも彼は、私を助けてくれた。



「そ、そんな。……いいえ。ありがとう。ありがとう、リュジー。貴方が私を助けてくれたのね……」

「……そうだな。まぁ、どの道、手遅れだったのもあるんだが」

「手遅れ? そう言えば、あの時そんな事を」

「……ああ」


「何が。何が手遅れだと言うの?」


「……お前に願われる前に、俺は、お前を助けた。崖に飛び降りた時だ」

「え? そうね……」


「あれはダメ(・・)だった」

「ダメ?」


「……悪魔が、そうおいそれと人間の世界に干渉できるなら、今頃この世は悪魔だらけになっていると思わないか?」

「それは……そうかもしれないわね」


「そう。悪魔が人間の世界に干渉するにはルールがある。必要以上に、或いはルール以上に干渉しようとするなら代償を背負うのは、悪魔自身だ」


「……リュジー。貴方」


 そんなにまでして、私を助けてくれたの。



「悪魔の、悪魔らしい生き方を失う。……受肉したなら尚更だ。この身体は、これから人間の肉体というルールに縛られる」

「……それは、つまり。今の貴方は……『人間になってしまった』と、そういうこと?」


「そうだ。影のままでは、キーラをあの流れから助けられなかった。だから力強い肉体が必要になった」

「…………」


 自らの、今まで生きてきた身体を失ってまで。


「まぁ、多少の融通は利きそうではあるものの。今まで通りというワケにはいかないな」

「……リュジー。私、どう言えばいいのか」


「キーラ」


 リュジーが。男性の姿をしたリュジーが、優し気に私の頬に手を置いた。


「お前が生きていたのなら、それでいい。俺が好きでした事だ。お前が負い目を感じる必要はない」

「りゅ、リュジー」


 涙が溢れそうになる。それだけじゃなく、胸が温かい。

 トクントクンと、心地よく高鳴ってしまって。


(あっ。私……今、裸、だわ。彼は……)


「そ、その? リュジー?」

「なんだ?」

「あ、貴方のその服は……何かしら?」


 見れば彼は、褐色の地肌に、黒いシャツと、黒いズボンを履いている。


(どこから出てきたのかしら、この服)


「ああ、これはまぁ、俺の元・身体なんだが……」

「え、リュジーの身体なの?」

「まぁな。今は、ただの服だ」

「そ、そう?」


(いやいや、そうじゃなくて)



「ど、どうして私は裸で、貴方は服を着ているのかしら? そ、それよりもまず、何故、貴方は私を抱き締めているの?」

「……何を言っている」

「何をって」


「抱き締めているのは、いつもの事だろう? キーラの肌に直接、ずっと抱き着いていた。これは、いつも通りの行為だ」

「そっ……! それは!」


 いつもは、ただの『影』だったからよ!


「い、今の貴方は人間の、男性なのですから! 少し話が変わってきます!」

「……そうか? しかし、キーラの服も下着も乾かしている最中だ。それにキーラは今、体温が下がっていたからな。こうして温めてやるしかなかったと思うが……」


「そ、それは! それは! ……あ、ありがとうございます」

「ああ」


 恥ずかしい。嫌だと言うのなら、もう目を覚ましたのだから離れればいい話なのだけど。

 でも。


「……リュジー」

「ああ」

「……人間になったのなら。行く場所を探さなくちゃいけないわね」

「そうだな」

「…………行く当ては、私……という事でいいのかしら?」

「そのつもりだったが」

「そう、よね」


 でも、だけど。それって、つまり。



 私は、もう一度、リュジーの顔を、その瞳を見つめた。


 まだ裸のままで、よく考えれば、彼の腕を枕にして。

 彼の逞しい胸板に手を添える。


 彼の手は、私を包み込んで抱き寄せたまま。


 ……それでも。それだけ(・・・・)だった。



 彼は、影だった時と同じように私を包み込み、温めて、話し相手になってくれるだけだ。



(もどかしい。もどかしいわ……)



 もしも今、彼に耳元で愛を囁かれたら。

 もしも今、彼に男性としての欲望を見せつけられたなら。


 そして大切な部分を貫かれてしまったのなら。


 私は、一人の女として得られる悦びと幸福のすべてを手に出来ていたでしょう。



 身も心も彼に捧げて。それでも多幸感に打ち震えるばかりだったでしょう。


 ……それはまさに堕落。

 悪魔にすべてを捧げて、なお幸福感を得られる確信。



 ……だけど、彼はそうしなかった。


 慈しむように、ただ私を包み込み、温め、守ってくれるばかり。


 安心感。信頼。幸福。

 私は今、それらに包まれているのに、ただ男女の情熱だけが無い。



(とても、もどかしいわ……)


 いっそ、彼がただの人間であったなら。

 ただ一人の男に過ぎなかったのなら。


 一糸纏わぬ、裸の女を見て、その欲望を注ぎ込んでくれたかもしれないのに。



「キーラ」

「……なぁに。リュジー」


 私は、彼の腕に抱かれながら、身体を委ねる。


 すると、彼は私の頬に指を添え、そして顎の下に手をやって。



「んっ……!」


 また、キスをした。


 ゾクゾクと快感が背中を駆け抜け、お腹の奥まで熱くなる。

 トクントクンと胸が高鳴り、胸の中から幸福感が溢れてくる。


 悪魔のような甘美な快感。

 全身を支配され、女としての悦びだけで幸せになれるような錯覚を覚えた。



「はぁ……はぁ……どうして」

「俺は、お前が好きだぞ、キーラ」

「えっ」


 な、何を言っているのかしら。


「なに。今はもう人間だからな。先の事を考えると、死ぬまで人間として生きていく事になる。ならどうするか」

「ど、どうするの?」

「キーラのすべてを奪う」

「え、ええ……?」


「イヤか?」

「…………」


(すべてを奪う、って。もし、そんな気があるなら、とっくに……)


 リュジーがその気になれば、私は逃れる事など出来る筈がない。

 今やこうして男性の力さえ手にしてしまったのだし。


 ……力があるというのに、リュジーは私の意志を問う。

 私が選ばなかったら、スッと身を引いてしまいそうな、そんな距離感。



「……ずっと。一生。私の傍に居るの? リュジー」

「ああ。死ぬまでキーラの傍に居る」

「……人間の男女として、愛し合うの?」

「ああ。そうしたい」

「……どうして、そうしたいって言ってくれるの?」



「キーラの事が気に入ったから。お前の生き方が。選択が。その矜持が。……悪徳(・・)が。

 好きだから。

 言っただろう? 俺の好みは悪女だって」


「……そう、ね。貴方はそう言っていたわね」

「まだ、キーラの望む『愛』は分からない。だが……」

「だが?」



「キーラを、助けて、話して、手を触れて、唇に触れて、抱き締めて。

 見守って、背中を押して、共に歩いて、笑って、怒って、泣いて。


 ……そうしながら、死ぬまで一緒に生きたいとだけ思っている」



 ────。



「……リュジー。それは、それはね」

「ああ」

「……愛している、って。そう言っているのと、同じことなのよ」


「そうか? ふむ……?」


 そこだけ分かっていないなんて。悪魔の情緒は分からないわ。


 ……でも。

 私は、……今までで一番、満たされた気持ちになった。


 胸の中に、とても温かいモノがいっぱいになったのだ。



「じゃあ、リュジー」

「ああ」


「……これからも一緒に生きていく為に。色々と準備をしないといけないわね」

「そうしよう」


 そして。


「最初のキーラの人生に、幸福を」

「……ええ」


 私は、この人生で、最期の時まで愛する相手を決めたのだった。



第二幕 完結。

次回からは、いよいよ最終幕の第三幕に入ります。


……ちょっと、ノクターン(ムーンライト?)の方がいいかな?

などと思ったり。

文学的な官能は、なろうでも許されるか。


仮にここで×××な展開を挟んだら、18サイトでも生きていける?

どうでしょう。(作者、基本はアダルトな方のサイト出身)


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。。。

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― 新着の感想 ―
[一言] そっちの方出身…!どうりでエロいと……ッ! 何だったらそこらの擬音と喘ぎ声ばっかのムーンやノクターンものよりエロが伝わってきましたね。これが隠した方がエロいというやつか……。
[一言] 寸止めいいですね…。 この手の話ならばこの寸止めのままの方が読む方としてはムラムラしていいかと。
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