23.雨羽 霧香は、懸命に
タイトルをちょっと変更しました
【View ; Kirika】
草薙つむり。
私はその名前を知っている。よく知っている。
何せ、作家買いするくらいに好きな作家さんだ。
SNSでもアカウントをフォローしているし、彼女の出した本は全部買っている。
そんな人が、変な男の人を殴り飛ばしたあと、髪を掻きあげてから、すっきりした顔でタバコをくわえ、火をつけている。
「やっぱ、ムカつくやつをブン殴るとスッキリすんなー」
ふーっと、紫煙を吐き出すその姿は、何とも満ち足りた顔をしていた。
……イメージが……。
私の大好きな先生のイメージが……。
「ふむ。人を殴り馴れているな。
武術を嗜んでるようだが、本質は喧嘩か? ストリートファイトに馴れている様子だが」
そして、そんな大好きな先生の動きを冷静に分析している黒い格好のお姉さん。
「ま、若気の至りでな」
ストリートファイト?
女性向けライトノベルを執筆してる女性作家さんがストリートファイト??
タバコを口にくわえ、両手をブルゾンのポケットに突っ込んで戻ってくる草薙先生。
ただ、その目はどこか真剣なものだった。
「それより――アンタのとこのお嬢さんが正気に戻ってない。まだ終わってねぇぜ」
「最後までつきあってくれるのか?」
「乗りかかった船だ。あのバカをボコるくれぇの協力はするさ」
シニカルに口の端を釣り上げる様子はカッコいい。
イメージはだいぶ崩れちゃったけど、だけどカッコいい人なのは間違いないのかも?
「クッソ! そっちの最高の髪質の女といい、テメェといい……どいつもこいつもオレを殴りやがって!! オレは女の味方なんだぞッ!!」
よろよろと立ち上がって叫ぶ男に、だけど先生と黒いお姉さんは蔑んだ視線を向ける。
「言っていろよヘンタイ系色男。テメェの存在は女の危機だ」
「同感だ草薙。錐咬 香兵。貴様は我ら女にとっての害悪だ」
うんうん!
カッコいい二人に挟まれながら、私はうなずく。
「は? 味方だろうがよッ!
髪は女の命なんだろ? その命を磨いてやってるんだ! オレは女にとって命の大恩人ッ! 味方以外の何者でもねぇだろッ!!」
なんて滅茶苦茶な理屈ッ!
「だから……あの子を操ったの!?」
思わず私が声を上げると、錐咬と呼ばれた男は狂気じみた顔をして激しくうなずき、口早にまくし立てる。
「そうだよ! そうなんだよ! あんな髪の神がもたらしたような芸術的髪質の女はそうそういねぇんだ! 保護する必要があるだろ? だけど髪は抜け落ちたら元気がなくなる。生きた身体があってこそだ! だからこそ髪の毛の為だけに生きる身体を残してあるんだ! 髪を崇め、髪の為に尽くす、そう髪こそ神! そうやって髪を保護しなきゃもったいないだろうが!」
もう――理屈じゃないんだ。
こんな人が、実際にいるんだ。
今更になって、私は身体が震え出す。
ただただ感情に任せて乱入したけれど、それはとんでもなく危ない行為だったんだって、今になって自覚し始めた。
結局、これはいつもの空回りだ。
誰にも認められず、理解されず、だけど自分の衝動を誤魔化しきれずに動いちゃう。ただそれだけの、空回り。
とはいえ、いつもと規模が違う。
一歩間違えれば自分の命に関わっていたような、大きすぎる空回り。
だからだろう。
いつもなら、笑って誤魔化して逃げ出すはずの自分が、ただただこみ上げる何かに絡め取られ、身動きができないのは。
だけど――そんな私の肩にポンと黒いお姉さんが置いた。
「何を怖がる必要がある。あんな男、君と比べたらずいぶんと格下だぞ?
君が飛び出してきてくれた時、嬉しかった。危険な行為ではあったが、それでもお嬢様とわたしを助けてくれようとしたんだろう?
その勇気、感謝するに値する。ありがとう」
何の役にも立たなかったはずの私に、お姉さんはお礼を言ってくれた。
そのことに何とも言えない気持ちになっていると、逆の肩を草薙先生がポンと叩く。
そちらに視線を向けると、いたずら好きなイケメンを思わせる表情でウィンクを投げてきた。
「顔を上げなよ。あたしが気まぐれに乱入しようと思ったのは、君の勇気を見たからだ。君があそこでバスから飛び降りなければ、あたしはここに乱入したかは分からないんだぜ?」
「ならば間違いなく君は恩人だな」
自分がカッコいいと思ったお姉さんたちから認められた。
自分の行為が決して空回りなんかじゃなかったと知れた。
「良かった」
心の底からそう思った時、私の手の中に半透明の長い布のようなものが現れる。
「これは?」
「ストールじゃないかな? 君の能力だろ?」
「ふむ。わたしには見えないが、開拓能力は人の精神や心が形になったものらしいからな。君の中に生じた変化が、それを生んだのかもしれないな」
それを身体に纏う。
すると、草薙先生が笑った。
「はは。なんか天女の羽衣って感じだな。似合ってるよ」
「天女が味方になったというコトか。それはありがたいな」
笑いながらお姉さんたちは一歩前に出た。
「さっき、あたしのコ・マイマイちゃんを強化してくれたやつを、そっちの姐御に」
「和泉山 静音だ」
「だってさ。静音さんにさっきの能力を頼むよ?」
「でも……どういう効果が出るかは、分からなくて……」
それが役に立つかどうかだって……。
効果がランダム過ぎて、こういう場面ではあまり役に立つ気がしないんだけど……。
「何かが強化されるんだろ? それで充分だ」
「ああ。腕力、脚力、あるいは単純に運の強化であっても、心強いコトに代わりはない」
「わかりました」
そうして私が手を伸ばそうすると、身体に巻き付いていたストールがスルスルと伸びて、その両端が二人の背に触れる。
「お? あたしにもやってくれんの?」
え?
もしかして、直接触らなくても、この伸び縮みするストールで触れるだけで良くなったの?
だとしたら、すごい変化だ。
手が届かないところにも届けられるようになったんだから。
祈る。
二人の無事と、勝利を。
負ける戦いじゃないとは思うけど、だけどあんな変な人に負けて欲しくはない。
この戦いが有利になるように、二人に祝福を――ッ!
些細な祈り手……ううん。新しい祈り手になったんだ。もっと別の名前に変えよう。
一生懸命に、だけど素早く祈りを終えられるような、そんな名前がいい。
「二人に祈りを――手早くも懸命なる祈り手ッ!」
【TIPS】
霧香の祖父は、現役の神主。
結構歴史の古い神社の家系らしい。
霧香自身も、時々巫女服に着替えて神社でバイトをしているぞ。




