95話「地区予選 ~決勝戦だぞ!⑤」
────ヤマミの戦い!
コピックで塗られたかのような淡い色合いの住宅地。漫画として黒い線で紡がれたその描写は美しい。加えて少女漫画として丁重な装飾が見受けられ、キャラの周りにエフェクトや花の描写を添える事で美しさに磨きが掛かっている。
そしてその空間を創った当の本人は────……!
主人公っぽく金髪の毛のロングが艶っぽくてハイライトも入ってて、目もクリッと大きく、素朴なようで取っ付きやすいキャラ描写。魔法少女という設定に沿って、ピンクの色調のフリルいっぱいのドレスが純真さを表している。
《あたしは魔法少女賀廊コミッコちゃん! 中学二年の、恋する純粋な女の子ですぅ!》
セリフのフキダシを吹きつつ、片目ウィンクで明るく笑い、ピースしながら軽やかにポーズを取る。
ヤマミはジト目で「……その年で痛いわね」と呟くと、コミッコはムカーッと凄い怒りの形相を見せた。
《うっさいなぅ~! さっさとやられちゃってぅ~!》
するとパンをくわえた美少女軍団が9999人もヤマミを押し潰さんとなだれ込んでくる。
しかもドドドドドドドと言う擬音が具現化されているぞ!
冷めた目でヤマミは周囲に黒い小人を召喚。それは踊りながら周回する。
《血脈の覚醒者!?》
コミッコは緊張して身構えた。
「消えて!」
ヤマミが凛と掌を差し出すと、黒い小人たちは次々と地面へ潜っていく。それは這いながら美少女軍団へ襲いかかる。
次々と被弾すると黒炎が獰猛に燃え盛っていく。
《きゃああああーっ!!》
《きゃあ────っ!!》
《いやあああっ!!》
《あついわっ!!》
《うぎゃあああーっ!!》
いくつもの絶叫のフキダシを吹きながら、轟々燃え尽きていった。
ヤマミはクールに長い黒髪をサラッとかきあげた。そんな様子にコミッコは後頭部に汗を垂らす。
「降参しなさい。闇属性の黒炎は焼き尽くすまで消えないから」
《……初っ端から容赦しないんですねぅ~?》
「どうせ空間結界内で創ったキャラクターでしょ?」
ヤマミは割り切った風に言いのけて、コミッコはおののく。
まるで戦争を経験したかのような歴戦の風格。某漫画のネタで言うなら「恐らく凄惨な戦争を経験をしてきた者だ。面構えが違う」になるだろう。
まさか、こんな精神性の人とは思わなかった。しかしコミッコは空間結界使いゆえ自ら負けないという自負を取り戻して、気を取り直す。
《……それならば、そういう事にしますぅ~》
「降参しないのね?」
徐々にコミッコは戦慄する。周囲に煙のようなエフェクトで恐れている感情を描写している。
《むごたらしいわぅ! まさか生徒会長さんが、悪の手先だったなんてっ!》
「何の話?」
《くっ! 同じ学校の生徒として……信じられないですぅ!》
葛藤を帯びつつ、杖を毅然と突き出してコミッコは健気な風を演技する。
ヤマミは「なんなの?」とゲンナリしていく。
コミッコはこんな状況すら、自分の物語として組み込もうとしているのだ。
ヤマミはその風貌から凛とした生徒会長なのだが、実は悪の組織の手先だという設定。
そして今、罪のない美少女を皆殺しにしてきた。それを主人公として目の当たりにして葛藤しながらも、それでも立ち向かわねばならないというシチュエーションにコミッコ自身は没頭していこうとする。
《あたしは生徒会長ヤマミさんを尊敬してたのですぅ……。でも、でもっ! そのような悪事を平然と行うなんて、見過ごせないですぅ! この愛と正義にかけて、あなたを倒してみせますぅっ!!》
キリリと主人公らしく健気に気張るコミッコ。
「茶番には付き合えないわ……」
黒い小人たちが地面を塀を這って、コミッコへ殺到して黒炎で貪るが、コマ割りが燃え尽きただけ!?
なんと後方までコマ割りが続いて、奥でコミッコは《当たらないですぅ!》といたずらっぽく笑う。
空間結界使いによる座標転移だ!
「そう。ここにいる限り完全回避ってワケ?」
《うん! 絶対に絶対あったらないんだからぅ~!》
自信満々とコミッコは胸を張る。
《マジカルエッジ・シューティング!!》
今度は反撃だと言わんばかりに杖を振るって、ヤマミの周囲に無数のコマ割りが出現し、可愛らしい装飾の短剣が射出された!
魔道士であるヤマミは防げないだろう、とコミッコはニヤッとする。
《魔法の武具で串刺しになっちゃってぅ~~!!》
「……物騒ね」
カッとヤマミの指輪の宝石が輝いた瞬間、自身の体がくるくると回りながらパッパッと洋服が光の粒子となってスラリとした魔法少女らしい特殊な衣服に変換された。たゆたう髪の毛を波打たせ、両手を組んだ祈るポーズで凛とした表情を見せた。
パシュン、と後光のように放射状の閃光をバックにヤマミは決めポーズで降臨。
《な、な、なんですってぅ~~!?》
紫色調でレオタードのようなワンピースでミニスカ。白いマントをなびかせ、両端が翼を模した白いカチューシャを頭に毅然とした顔を見せる。
彼女も魔法少女になったのだ。
そして杖から光の刃を伸ばし、軽やかな体術で周囲の武具をズバババッと鋭く砕いていった。キラキラと反射光を煌めかしながら破片が散らばっていく……。
その最中で凛としたヤマミがビシッと杖をコミッコへ向けた。
「残念ね! 白兵戦ができる特攻形態もあるから!」
コミッコはワナワナ震えだしていく。
《ち、ちょっとぅ~!! それあたしの相棒的魔法少女ビジュアルじゃないっ!》
「……知らないわよ! そんなもの」
指差してなんか抗議してきたコミッコに、ヤマミはゲンナリため息。
突然、燃え尽きたはずの美少女軍団が無事な姿で横たわったポーズで再出現した。思わずヤマミも竦んで見渡すが、横たわっている美少女軍団は寝入ったまま動く様子はない。
「…………なに??」
《生徒会長さんが燃やし尽くしたはずの、悪の組織に洗脳されて狂人化した生徒たちが!? ま、まさか! 浄化する為に、浄化の魔法を放っていたのねぅ~!》
「ってか、自分でけしかけてなかった……?」
《聞こえな~ぅ! 聞こえなあ~ぅ~!!》
コミッコは耳を塞いでブンブン首を振る。都合の悪い事は無視無視ぅ~!
そんな様子にジト目のヤマミは右肩を落として呆れた。
《うう……ん》
《ふぁ》
《なんでここで寝てたかしら?》
《やだ……道路でぇ……?》
なんか次々と美少女軍団が目をこすりながら起き上がっていって、ヤマミに気付くと「生徒会長様! ありがとうございました!」と頭をペコペコ下げて、そそくさと歩き去っていく……。一人もいなくなってしまったぞ。
「何がしたいの?」
《誤解してゴメンなさいですぅ~!》
なんかコミッコがペコペコして謝ってくる。そしてトテテテテと駆け寄ってきて、ヤマミの手を取り合って明るい笑顔でニッコリする。
どうやら物語の設定をムリヤリ変えて、実は悪の手先だと思った生徒会長の魔法少女は、狂人化した美少女を黒炎で浄化して救ったという筋書きにしたようだ。それを察してヤマミは引きつっていく。
《同じ魔法少女! これからもよろしくねぅ~! えへへ!》
「え? ええ?」
《だって同じ仲間でしょうぅ~? この年にもなって魔法少女だなんて、誰も恥ずかしくてやりたがらないですぅ~! なので本当は相棒となる魔法少女が欲しかったんですぅ~~!!》
「そ、それは……、私の場合はちょっと違……」
《ねぇ同じ魔法少女として、あたしと共に道を歩みましょうぅ~!!》
周囲にキラキラと光飛礫と泡みたいなエフェクトで、同じ魔法少女として巡り合わせたという感動のシーンを取り繕った。
しかも背景に花を添えつつ大きなバストアップのヤマミとコミッコが見つめ合う感じで映る。
試合などそっちのけ、コミッコは妄想の世界に没頭中だ。
そしてコマ割りが切り替わるとコミッコは自信満々で、ヤマミの片手と繋げたまま明るく片目ウィンク!
何故かヤマミもビシッとポーズを取らされていた!?
《二人はプリプリキュミ~ン!! 今後コミッコとヤマミで行っちゃいますぅ~!!》
最終ページとしての煽り文として「新たなる魔法少女が仲間に!? コミッコとヤマミの百合恋愛開幕!!」と記された。
完全にコミッコの妄想の世界が漫画として具現化されたのだった。
次のページは「新展開!! 二人の魔法少女のはちゃめちゃな学校生活!」と予告文を添えた、ヤマミとコミッコのオリジナル制服でバストアップされた絵だった。
それに観客は「ええ……?」「試合は??」「なになに?」「ユニット結成?」と戸惑いでドヨドヨし始めていった。
そのままスウッと暗転して真っ暗になってしまった。
これではコミッコとヤマミがどうなっているのか誰も分からないぞ!?
気付いたらピンクでリボンやフリルいっぱいの可愛らしい部屋になっていた。ベッドの上でヤマミは膝立ちのまま呆然……。
同じくベッドの上にいる、恋する目をしたコミッコがヤマミへ向き直ってニコッと微笑む。ヤマミの手を掴むと艶かしい触りでスリスーリ……。
ヤマミは背中にゾワッと悪寒が走った。
《うふふぅ~! これで、ぐんずほぐれつ愛し合えますぅ~!》
トロンととろけた目を見せながら赤面しつつ、チューするべき唇を剥く。しかも中から舌がチロチロ覗かせているぞ。
濃厚なベロチューをかますべき、ヤマミの肩を掴まえて迫るようだぞ。
はふはふ、興奮したコミッコが恍惚な顔で……。
《一緒に……乱れましょうぅ…………》
まさに痴女! 痴女の中の痴女!! 百合至上主義の痴女だ────っ!!
「寄るな──ッ! ブラックホール・ダークリベンジャ──ッ!!!」
ボガガ────────────ンッ!!!
突然、空に浮いている一つの箱が豪快に爆発してナッセはビクッと竦んだぞ!
モワモワ広がる爆煙、そして散らばる破片と共に降り立つヤマミ。側にユリの模様であしらった麗しい棺桶が転がる。シュウウウ……!
「い、一体中で何があったのかぞ??」
「頼むから聞かないでくれる?」
ヤマミはジト目で肩を落としている。なんか疲れてるみてーだぞ。
「あ、ああ……ぞ」
今回のキャラ紹介!
『賀廊コミッコ(魔道士)』
貧相な細い女性で出っ歯が目立つジト目の黒髪メガネっ子。パッとしない印象。
だが空間内では、ハイライトが入った金髪ロングで目もクリッと大きく、まさに少女漫画らしい主人公キャラになっている。魔法少女に憧れている。
プロになったら「プリプリキュミ~ン」という魔法少女漫画を描こうと思っている。
実はこの中で一番熱心に同人活動をしていて、コミケにも行っている常連。あとBL好きだがレズも好き。
漫画監獄(『空間結界』で漫画調の世界を展開)
パンをくわえた出会い少女(9999人で走らせて相手を押し潰す)
マジカルエッジ・シューティング(コマ割りから可愛らしい短剣を撃ち出す)
マジカル・バーニングライト(燃えるような光球を放って、敵を爆殺)
マジカル・ハートショット(ハートの魔法弾を撃つ)
マジカル・ライトニングアロー(雷の矢を撃って、敵をバリバリ感電させる)
威力値:17300




