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51話「ナッセの悪役令嬢TS転生編④」

 ゲームを始めたら、主人公の美少女が金髪を揺らしながら颯爽(さっそう)とした顔で学校へ歩いて行く事からシーンが始まる。

 次々と攻略対象のイケメンたちが様々なリアクションしながら主人公を追い越しながら学校へ向かっていく。

 期待と夢を胸に膨らます主人公シンシアは明るい笑顔で学校を見上げる。

 しかし!


《平民風情が来ていい所じゃなくてよ!》


 なんと紫と黒でのグラデーションを背景に冷笑を浮かべるエリゼが立ちはだかってくる。悪そうなツラの取り巻きもぞろぞろ。

 おののく主人公。

 しかし、そこをロシュア王子様というイケメンが主人公をかばうように立ちはだかる。エリゼは不機嫌そうに舌打ちして捨て台詞を吐いて去っていく。

 そして主人公シンシアとロシュア王子様の初めての出会いというシーンになる。



 ……思い出す限りじゃ、こんな感じだったかなぞ?


 オレはエリゼとして、慎ましかな態度(のつもり)で学校へ続く道を歩いていた。

 すると取り巻き悪女トリオがぞろぞろと寄ってきた。


「エリゼ様。ご機嫌麗しゅうございます」

「最近会ってくれないけれど、元気そうで良かったですわ」

「これからまたみんなでエンジョイしていきましょう」


 顔立ちこそ美人だが、嘲笑しているような表情に(にご)ったような目で性悪さが窺い知れた。

 いかにもな悪女だなぞ……。


「あら、ゴメンなさいですわ。しばらく一人でいたいので先に行ってくださいまし。でも、弱い者いじめはいけねー……いけませんわ」


 取り巻き悪女トリオは怪訝な顔をして「なんなの?」「感じ悪いですわね」「まぁいいわ」と先へ行ってしまった。

 ふう、屋敷にいた頃も誘い何度かあったけど断ってたし、今回も断らせてもらった。これで悪役令嬢のフラグへし折れたぞ。……たぶん。


 すると攻略可能なイケメンたちが次々と通り過ぎてきて、緊張した。

 振り返ると目の前に主人公のシンシアが明るい笑顔で歩いてきたぞ。


「あら? こんにちは」

「ああ。いえ、こんにちは。これからもよろしくな……お、お願いしますわ」

「はい」


 丁重に頭を下げてから、にっこり笑ってくれた。


「……エリゼ様ァ!!」


 呼ばれてギクッとする。なんとシンシアの横にロシュア王子が!

 ゲームの通りなら凛々しく睨みつけて追い払うシーンだ。でも今は取り巻きもいないし、ケンカ売っていないし、何もないはず!


「お前は何を企んでいる? とある日から俺との関わりを一切断って、何がしたいんだ??」

「おほほほ。ご機嫌しゅうございます。ロシュア王子様」

「能書きはいい! 俺はエリゼ様の婚約者の立場でやむを得ない! だが、もし怪しい行動を起こせば黙ってはいないぞ!」


 そうだよな。昔っからエリゼはロシュアにも酷い態度を取ってて嫌われている。

 婚約者だからといい気になっていたエリゼにロシュアも腹に据え兼ねていた。嫌悪するのは当然だろう。

 人格が変わってから父と協力して、あれこれ理由をつけて会うのも断ってきた。だから不審に思われるのも仕方ない。


「いや、オ……わたくしは静かに勉強してぇ……したいのです……。魔族でも攻めて来ない限りは平穏に過ごすさ……しますわ」

「魔族……?」

「シンシアさんゴメンな! でも絶対巻き込まねーからませんわ」


 パンと合掌して頭を下げる。


 そのまま逃げるように学校へ走っていった。ビュオッと疾走(はし)りすぎて周りの人が「うわぁ~」と烈風に煽られた。

 ロシュア王子は「……何かあったら許さんぞ!」とツカツカ厳しい足取りで学校へ向かう。

 取り残されたシンシアはどことなく落ち着かずソワソワしていた。


「私……どうしたのかな…………? 胸がドキドキして…………」


 一見、コテコテな貴族風だけど目を見てると吸い込まれそう……。

 凛々しい風貌なのに素直な少年のよう、まるで妖精の王子様みたい…………。




 入学式が終わり、生徒たちはぞろぞろとグラウンドの測定場へと並んでいた。

 取り巻きも攻略対象イケメンもロシュアもシンシアも一緒に並んでいる。魔法学校へ入学するにあたって、腕前を測るらしい。

 モブ生徒が得意な魔法や武器でドスンバゴンと稽古用の模型に叩き込む。


 凄い技を披露したエリートに、周りの歓声が湧き上がったりもした。


 つか、ゲームにはそういうシーンないんだよな……。

 そのまま入学式のワンシーンからすっ飛ばして、初めての授業日で色々イケメンと初対面会話するんだよな?


 ロシュアは剣で「王国剣!! 烈光閃剣斬!!」と瞬間抜刀みたいに光輪から軌跡を描く。なんと模型が真っ二つだ。鋼鉄並みに硬いはずなのに、なんて威力だ。


「見ろ! 断面があんなに綺麗に……っ!?」

「やはり……勇者の血を引いているだけある!」

「ロシュア王子様を超えるヤツなんて、ここにはいねぇよ!」

「やっぱ敵わねぇな……!」

「しかもイケメンだし、非の打ち所がない!」

「くっそ! ズルい! 天は二物を与えないんじゃなかったのかよ!?」


 ざわざわ驚愕している面々。

 正直言って、同年代では最強だと思う。入学するのが不思議なくれぇだ。


「思ったより強いなぞ……」


 ロシュア王子はこっちを見て、フッと自信満々に笑んでくる。


 ゲームでは攻略対象となるイケメンの面々も負けじと必殺技で模型を崩すくらいはやってのけた。

 茶髪チビのイケメンだけは思った威力にならず「ちぇー」と不機嫌になった。

 ついにオレにも出番がきた。模型の前にザッと立ち、太陽の剣(サンライトセイバー)をかざす。


「えっ!? エリゼ様は光の剣を使うのか?」

「確かに父は剣聖だが……、剣術は教え込まれてないはず?」

「主に攻撃魔法が得意だったはずだ」

「ははは! まさか、王子様と張り合うつもりか?」

「やめとけって。王子様とは格が違うんだよ」

「おーい! 剣聖の娘ちゃん、がんばれよー! ……なーんてなー」

「「「ぎゃはははははははははははは!!」」」


 バカにしているのが分かる笑いの合唱。

 王子様も首を振って「ヤレヤレ」と失笑してるし……。


 見くびられたもんだな! だったら思い知らせてやんよォ!!


 吹き荒れる激流と共に、オレの太陽の剣(サンライトセイバー)へと(しずく)が収束されていく。それはたちまち銀河を模した螺旋状の超デカい大剣に変貌していく!


 これこそが最強奥義『賢者の秘法(アルス・マグナ)』!

 周囲から自然霊の力を収束して、その嵐のような莫大な力を一点に超圧縮して完成する技! これによって様々な技などが極大化される! まさに『その場で創れる賢者の石』だぞ!

 そしてこれで太陽の剣(サンライトセイバー)を極大化して、銀河の剣(ギャラクシィセイバー)に進化させたのだーっ!


「え? な、なんなん!? 巨大な光の剣??」

「あれ魔法か????」

「つか、でけぇ! 家ごと斬れそう!」

「とてつもない威圧! 王子様超えてねぇ!?」


 超デカい大剣で、模型に向かって全てを吹き飛ばす勢いで薙ぎ払う!!


「ギャラクシィ・シャインスパァ────クッ!!!」


 ズド──────ン!! 大地が大きく震えて、烈風が急に巻き起こった。


「「「「!!!!!!?」」」」


 ロシュアも取り巻き悪女トリオもイケメンたちもシンシアも誰もが全員竦み上がった!

 なんとグラウンドに扇状の巨大なクレーターで深々と抉れているのを見て、誰もが唖然と見開いていった。ありえない威力に震えるしかない。思わず「大魔王かよ!?」と驚き戸惑った!!

 審査員の先生もポカ────────ンとした。顎が外れそうパート(ツー)


「よし! ここでも最強奥義使えっぞ!!」


 拳を握って歓喜。

 ふと静かになったな、と思って振り返るとみんな肩を落として目を丸くしてポカ────────ンと呆然している。


 あ、そか! ここにいたら次の人が邪魔になるもんな!


「す、すまねぇ! 次どうぞ……でございますわ」


 恥ずかしくなってフッと去った。←速すぎて瞬間移動レベル!


 そんなエリゼに、ロシュアはワナワナ震えて悔しがっていた。

 自分がトップとして疑わなかったのに、婚約者(アイツ)は俺の攻撃力を軽々と超えやがった……!

 ただの貴族風情が王族のこの俺を上回るなど……信じられるものかっ!


 新しく模型を拵えて、再び測定を開始した。

 取り巻き悪女トリオが洗練された火炎魔法を披露。模型を容赦なく轟々と焼き尽くす。

 だが誰も見向きせず、審査員ですら「はい次」と流してしまう始末。


「きいー! こうなったのもエリゼ様のせいよっ!」


 取り巻き悪女トリオは、悔しくてたまらずハンカチを噛み締めた。


「私だって、ギャラクシーアターック!!」


 恋する乙女シンシアは健気に杖で模型をペシペシ叩く。




 人気のない静かな廊下でふうと息をついた。


「調子に乗っちまったな……。ちっと隠さねぇとな」


 オレ自身がエリゼだという事を忘れてしまう事がある。

 つい素を出してしまう。気を付けねーとな……。ともあれ、これならゲーム通りになっても乗り越えられるはず…………。

 もし元に戻らないんだったら名前を変えて普通に冒険者でもやろう。



「よぉ! さっきはすごい事やらかしたなー!」


 声がした方へ思わず見上げる。

 なんと上の柱拵えで褐色イケメンがリンゴを(かじ)りながら、こちらを見下ろしていた。猫みたいな印象だ。


「お、お前は……?」

「おう! オレはマノリアだ。食うか?」


 もう一つリンゴを放ってよこさせた。それを受け止めて「ど、どうも……」と頭を下げる。

 すると猫のように軽やかに降り立ってきた。思わぬ長身でのけぞった。でか!

 オレの頭をポンポン叩いて「よろしくな! 楽しい事になりそうだぜ」と笑ってくれる。


「マノリア様。ご機嫌お麗しゅうございます……」

「おいおい! そんな取ってつけたような礼儀いらねーよ。二人きりの時ぐらい素でいいぜ。その方が魅力的だしな」


 トゥンクと胸に来ちゃう。ってバカバカ! オレ男なのに!

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