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50話「ナッセの悪役令嬢TS転生編③」

 例の貴族交流会へ行く時に盗賊に絡まれたが、エリゼであるオレが返り討ちにしたぞ。

 おかげで貴族交流会へ行けなくなって喜んでた。

 ……しかし!



 ズン、と重々しい威圧を漲らせ殺気立つ父。

 屋敷を出た広い草原で、その(おごそ)かな父と向かい合っていた。


「お前は一体何者だ! 本物のエリゼをどこにやった!?」

「……困ったな」

「答えろッ!! 魔のモノめッ!!」


 父は剣を引き抜く。由緒正しい聖剣の煌きが眩しい。


「せ、聖剣レージョカリバーを!?」


 その後ろで母と妹がブルブル震えている。執事は申し訳なさそうでショボンしている。メイドたちはザワザワしている。

 なーんか執事の話で、オレがメッチャ剣が強いと聞いた父が「わが娘エリゼじゃない」と思っているようだった。


 たぶん、魔族辺りが本物のエリゼをさらって偽物のオレをよこしたか、エリゼに乗り移った魔族かなんかだと思ってるのかもしれない。

 しかし父は本当に強そうだ……。威圧でビリビリ体に響く。


「我が主人である『ロベルト・ゴーマンキチ』様は、かの剣聖。かつて若りし頃は冷徹に魔族や悪党を数多く斬り落としてきた歴戦。その功績で王国より聖剣を授かってもらって以来、無敵無敗。早い引退で身を固めたが、今もなお衰えぬ威圧。一ミリたりとも衰えてございませぬ」


 なーんか執事が饒舌(じょうぜつ)に説明してくれたぞ。

 つまり健在って事か。

 身を固めて育児などに専念してても、体を鍛える事はおろそかにしなかったみてぇだ。

 ……ちょい強敵って事かぞ。


「ならば剣で会話するしかないかぞ!」

「ではそうしよう……!」


 父は立てた聖剣を体正面にかぶせて一礼する。貴族の礼儀かもしれない。

 光の剣で同じように礼儀を真似る。ペコリ。


「魔族風情が!!」


 逆に(あお)ったようで、地を蹴って剣を振り下ろしてくる。

 光の剣を横に振るい交差する。爆ぜた衝撃波が周囲に吹き荒れて草原がバサバサ揺れる。そのまま押し切ってくる父に弾かれ、軽やかに後方へ飛ぶ。

 追いかけてくる父と剣戟で切り結んでいく。何百何千も斬り合い続け、地面を揺るがして草の葉っぱが舞い散っていく。


 ガキン! 互い剣を交差して間近で睨み合い! ぐぎぎ!


 父に剣に敢えて弾かれ、後方へ跳んで間合いを取る。

 煙幕が流れ、父はゆらりと横へ足を運ぶ。前屈みに身構えたまま待ち構える形。それを見て執事は息を呑む。


「す……すごいですな……! 聖剣を持った我が主と互角に戦えるなど……!」


 父は高速で素振りして、一陣の烈風がブオッと吹き荒ぶ。


「……わが娘は一度たりとも剣の教えを受けてはいない。その魔法の剣の生成もできはしまい。確かに魔法の才能は高かったが傲慢で努力を(おこた)っていた。しかし今のお前は隙も見せぬ凄腕の魔法剣士だ」

「すまんぞ。なんか説明しづらいけども……」

「回復魔法で執事を助けたらしいが、エリゼはそのような行為は好まん」


 記憶によると、確かに高い才能に鼻をかけて遊びほうけていたな。それもイジメで色々。


「しかしお前は相当強いと見た。それに本気も出していないな……」

「そりゃエリゼの父を相手に本気出せねぇって!」

「お前は魔族でなければ一体何者だ!」


「オレはナッセ! 寝てたらエリゼになったとしか説明できない」


 しばし考え事して父はふうと溜息。


「元に戻る事はできんか?」

「できてたらとっくにしてる。まさか女になってるとも思わねぇし、貴族なんて性に合わねぇ……!」

「また一度頭を打てば、元に戻るかもしれん。あんな娘でも私の大事な家族だ」

「え? ちょっと!! なんか魔法の本とか歴史の本とかで調べて、解決する方法見つけた方がよくねぇ!?」


 有無を言わさず大地を蹴って、オーラ漲った父が剣を振るう。

 思わずエーテルを噴き上げて「太陽の剣(サンライトセイバー)ッ!!」と大剣に変えて受け止める。ガン、と激突音と共に烈風が吹き荒れた。


「待て待て待て!!! この体、エリゼだろっ!!」

「うぬおおおおおおおッ!!」


 どこにでもいるんだな! 話を聞かないヤツっ!


 音速で激しく斬りかかってくる剣戟を、太陽の剣(サンライトセイバー)で捌いていく。

 マジで殺す気だ、そう言わんばかりの超本気のパパさん連撃っ!!

 広い草原を所狭しとあちこち斬り合いを繰り広げていった。その度に大地が震え、烈風が巻き起こり、草原が荒らされるようにいくつも穿たれていく。


「ナッセ甘いな!! 防戦一方では勝てはせぬぞっ!!」


 地面に切り込み、飛沫を噴き上げて亀裂を走らせていく。

 後方に飛んで「ったくしょうがねぇ!!」と剣を正眼に構え────!


 ────これがオレの得意技! 行くぞっ!


流星進撃(メテオラン)!!」


 父の目には、エリゼの背後に天の川が走る夜景が造形付加として映る。

 同時に鋭く降り注いでくる流星の軌跡。


「五連星ッ!!」


 目にも止まらぬ瞬間連撃を聖剣に叩き込む。父は「ぐ!」と必死に踏ん張る。それでも流星を再び降らせる。


「七連星ッ!!」


 絶え間もなく降り注ぐ激しい剣戟を聖剣に一点集中。刀身にヒビが!

 それでも間髪入れず更に流星を降り注がせた。父は「うおおおおおお!!!」と見開いて絶叫。


「一〇連星ッッ!!」


 三度続く嵐のような一瞬連撃でついに聖剣は粉々に砕かれ、父は後ろへ吹っ飛んで転がっていった。

 ふう……、息をついて剣をぶら下げた。

 加減が難しくてやりすぎたが、どうせ聖剣は再生するだろうと思って武器破壊を狙ったぞ。これで父は戦えない。



「な、何もできず……負けたですと……!?」

「なんなの!? 一体姉さんはどうなったのですのっ!?」


 執事も妹もビックリするしかない。

 あの剣聖である父が、長女エリゼに一太刀浴びせる事もなく圧倒的にねじ伏せられた。信じられない光景に目を疑うしかないのだろう。

 普通は逆の事が起きるべきなのにな。

 ……いや剣もろくに扱えぬ従来のエリゼなど、父は歯牙にもかけないだろう。



 そんな周囲の反応に構わずオレは、倒れている父へ手を差し出す。


「悪いな。だがエリゼは絶対に返す。……方法まだ皆目つかねぇけど」

「…………ううむ」


 父はオレの手を取って身を起こし、観念したようだった。


 目の前の偽物エリゼは殺す事を良しとはしなかった。先程から剣戟を重ねていたが、魔族らしからぬ甘さが窺えていた。

 腕前はとんでもなく強く、本気になれば世界で有数の剣聖と並ぶほどかも知れない。目利きが狂ってなければ、それ以上……。

 人格としては子供っぽいが、元のエリゼよりは話が分かってくれるようだ。


「だが、その間は貴族としての礼儀作法を学んでもらうぞ」

「え?」


 ()頓狂(とんきょう)に見開く。ヤバい予感……。


「影武者も代役もいないからな。その体に叩き込んでやるから覚悟しろ」




 地獄のような調教で「ギエ────!!」と根を上げるほど叩き込まれたぞ……。

 転生する前の記憶も手伝ってくれたか、付け焼刃でもちと身に付いた。


 ────そしてゲーム世界で本編となる魔法学校へ行く事になったぞ!

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