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36話「夕夏家総統継承式!③」

 オレにマミエが抱きついている所を見られて、ヤマミはいつものより不機嫌な顔で「どういう事!?」とカツカツ歩み寄ってくる。

 冷や汗いっぱいに動揺をあらわにするオレは震えたまま動けずにいた。


「わたし、ナッセと結婚する!」

「えっ!?」


 抱きついたままのマミエが突然そんな事を言い出し、オレは驚いて困惑。


「マミエ! 嫌ってたんじゃないの!」

「父さんはキライ! この天使ナッセがスキ! だから結婚する」


 ストレートすぎる……。英才教育受けてるはずなのに、カタコトみたいな言い方……。


「離れなさい!!」


 ガシッとヤマミがマミエを引き剥がしにかかる。それでも必死に「イヤだ~!!」とオレにしがみついている。

 困ったのでウニャンを見る。

 他人事のように毛づくろいしてる。師匠(クッキー)ェ……。


 ナッセと引き離されたマミエはキッと睨んで合掌すると、周囲を囲むように大地の壁がゴゴゴとせり出してくる。

 それに対しヤマミは『偶像化(アイドラ)』を生み出し、刃を生やした杖を振り下ろし岩の壁を砕く。


「妹のクセに人の彼氏に手を出さないで!!」

「イヤだ!! 姉さんこそズルい!! でも結婚してないなら、わたしが結婚するっ!!」


 負けじとマミエは怒涛と土砂の大津波を高々と押し寄せさせた。ズゴゴゴゴ!!

 それに対抗するべきヤマミも周囲に無数の漆黒の小人が躍り出て、それぞれ地面を這わせて土砂の大津波へ激突。盛大な黒炎が轟々燃え盛っていく。


「なんでそういう事になるの!?」

「ナッセはわたしのダンナにするのー!!」

「もう私の彼氏よ! 諦めなさい!!」


 ドガ────ン!


 しばし姉妹ゲンカが繰り広げられているのを見て、オレは後頭部に汗をかいて呆然とする。


 とは言え、マミエも『赤い刻印(エンチャント)』ナシでこれほどとは……。

 元々高い資質を持ってたのか、割と善戦してるなぁ。リョーコもよくこんなのに勝てたな。




 二人寝れる部屋。その入口でヤミザキが、疲れて寝ているマミエを抱っこして「済まない事した」とペコペコ謝ってきた。

 ヤマミは腕を組んで「ふん!」と頬を膨らましていた。

 後ろでオレはタジタジ。


「朝すぐに出るから、お父さんよろしくね」

「ううむ。明日も色々あるのだが……、まぁ強制はできんな」


「そ、それにしてもダグナ様が総統を継ぐとは思いませんでした。いいんですか?」


 オレの声にヤミザキは視線を移してきた。すると彼は物憂げな顔で首を振ってくる。


「ヒカリに会えた事だし、もう未練はない。長生きする必要もない……。それにこれまで器にしてきた人たちを思えば、これ以上罪を重ねる事はできん」

「……そうか」

「これから夕夏(ユウカ)家の未来はダグナたちが築いていく。そして次の孫が継いで、そのまた次も……」


 しんみりとヤミザキは語ってくる。


「もし、遠い未来、夕夏(ユウカ)家が滅ぶ事になっても?」

「私にできる事は後の子孫へバトンタッチしていく事だ。故に、夕夏(ユウカ)家の未来の行く末は私ではなく、その代の誰かが決めていけばいい」

「……そう」


 ヤマミとの問答で、ヤミザキが既に達観している事を察していた。

 あれだけ執拗に生へ執着していた彼が、ついに他の誰かに譲るのだ。そしてまた『赤き刻印(エンチャント)』も自分自身のみに留めて、誰かを支配したりする事もしない。


「マミエも、これから自分の足で歩む事になろう……」

「ナッセへ執着するのも御免こうむるけどね」


 純粋な女の子だからか、妖精王という神秘的なイケメンに憧れるのも無理ないかな。

 時を置いて落ち着くといいんだけどなぁ……。

 しばらくはここへ来れないや。



 ヤマミは「おやすみ」とドアをバタンと閉めた。


 ツカツカとこちらへ歩み寄る。怒っているようで萎縮する。

 そして視線を外したと思ったら、その先にベッドで丸くなっているウニャンがいた。


「どうして急にそんな事したの?」

《マミエも夕夏(ユウカ)家で中心となる人物になっていくから、そのきっかけを与えただけだよ》

「マミエが?」


 ウニャンは尻尾をフリフリさせる。


《今はまだ精神的に幼く、これまでの経緯で心を閉ざしてる部分はまだある。でもね、自分から羽を伸ばして成長していく時期に差し掛かってきているんだ。そのきっかけとしてナッセの妖精王を見せる必要があったのさ》

夕夏(ユウカ)家の中心となるってたけど、未来が見えてるの?」


 ウニャンは顔を前足で掻きながら《まさか?》とおどける。

 近づいていったヤマミはウニャンの首の後ろを掴んでヒョイと持ち上げる。スタスタとドアの方へ歩いていく。


《……少なくとも夕夏(ユウカ)家と日本を大きく動かす資質はあるね。同じくらい資質があるヤマミはナッセと一緒に異世界へ行く事になるから、マミエはその後釜って所かな》

「その“資質”という単語は“因果”の隠語と捉えていい?」


 毅然と腕を組んだまま見下ろすヤマミに、ウニャンはしばし沈黙するしかなかった。


《キミのような勘のいい人は末恐ろしいね……》

「そう。分かったわ。悪いけど二人きりにして!」

《ち、ちょっ……》


 ドアを開けてウニャンをポーイと放り出した。



「いいの? 師匠(クッキー)をあんな扱いで」

「いいわよ。どうせ時空間移動で帰れるし、嫌ならここへ戻ってる。ったく」


 今度はキッとこちらを睨む。ひええ!


「マミエの事は失礼だったけど……、どうだった?」

「え? うん、嫌われてると思ってたんだけど、急に好きになっていたからビックリしたよ」

「ふーん?」


「んで、ウニャンが唐突に現れてきて異空間へ引きずり込まれて、妖精王見せろって言い出したんだ。唐突すぎて何が何だか分からなかったけど」


 するとオレの両肩にガシッとヤマミの手が置かれて、ギュッと掴んでくる。


「自覚する事ね……。あなたは顔がいいんだから、これから多くの女性が振り向く事がある。モテて有頂天になるのも男として仕方ないと思う。でも浮気だけは絶対にしないで!」

「は、はいぃ……!」

「うん! それが私に『好き』って言ってくれた責任よ!」



 するとコクアが「ナッセ様! 深夜ゆっくり……」と入ってきて、途端に硬直。

 恐ろしい剣幕のヤマミにギロッと睨まれて、コクアは冷や汗タラタラで震えだした。


「すみませんでしたーっ!!」


 バタンと脱兎のごとく去っていった。


 オレが他の女に抱かれた事がかなり気に障ったらしく不機嫌だった。

 さっきまでオレの事で話題盛り上がってた仲だったのにな。


 するとギュッとオレの腕に抱きつく事で胸を押し付けられてムニュッと感触がした。


「誰にも渡さないから……」




 寝る時も手を握ったままで、それだけ恐れていたんだなと察した。

 オレがヤマミから離れて、他の女へ行ってしまうのが怖いのは、恋愛している女性としては普通の心理かもしれない。

 頭で分かっていても、感情では納得できない、そういう部分もあるのかな……。


「大丈夫、離れないよ」

「ん……」


 まどろんでいって、安らかに意識が落ちていった……。

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