352話「細けぇこたぁいいんだよ!」
二〇一〇年五月二五日火曜日────。
帰宅後、オレの部屋でヤマミと一緒にテレビを見ていた。
休日に限らず、ほぼ同棲みたいな生活は慣れてしまって、彼女がいるのが当たり前になっていた。
ポテトをパリパリしながらテレビに映る大型宇宙船を見ていた。
《太陽系外の恒星系へ旅立つプロジェクトが始まっているようです。比較的近いプロキシマ・ケンタウリ星系を目指して星間航行する為にプレートスライド現象を利用した──》
国連でなんか大掛かりな企画を立てているようだぞ。
大国同士が力を合わせて、最先端技術を集約させた超大型コロニーを建設してるみたい。
完成するのは今から約十年後らしいんだってさ。
ひょっとしたら某漫画みてーに王位継承戦とか始める予定でもあったりして?
「まぁ、オレたちは来年に異世界へ行くから関係ないかな?」
「そうね」
ヤマミもテーブル中央にある皿のポテトを手に取りパリポリ。
《──して、事前に太陽系列の惑星連合と連携する為に外交を計画しており──》
太陽系惑星には様々な知的生命体がいて、それぞれ独自の社会を築いているってたっけ?
四首領ダウートだって、昔は太陽系を回って旅していたって言うし、カグヒメルも土星人っつったしな。
天王星には今のところ、天王星人みたいなのは見かけてないしなぁ。
「地球に近い火星にも火星人が文明築いているのかしらね」
「かもな。会長のじーさんも何か言ってたし」
火星。第四惑星であり、地球に非常に似た岩石惑星。地球の半分ちょいぐらいの大きさ。
オレが知ってる限りじゃ酸化した鉄によって赤く見られる極微細の砂で覆われている。名前に反して結構冷えた環境。
二酸化炭素が主になっている薄い大気。
かつては水があって大気も豊富にあったらしいけど、地質活動が早く寿命を迎えて磁場が弱くなってしまった為に太陽風によって大気と水が剥ぎ取られたらしい。
今でも少しずつ大気が剥ぎ取られていて、いずれは月みたいなのになるんじゃないか?
……ただし、ここの世界線の火星は恐らく違うかもしれない。
「前にアクトが連れてってもらった政府公認の最重要保護センターのトップシークレット機密情報あったでしょ」
「あったなー。実は太陽系惑星全部に生命体がいますよーって感じの……」
地球にもいるウサギもカメもクラゲも、元々は外来種で数千万年もかけて地球に馴染んできた種。
ウサギは異常に繁殖力が強く、カメは寿命が極端に長く、クラゲも同一転生するらしい謎の生態を持っている……。
実はアクトが木星人だという設定にも驚いたぞ。
本当に荒唐無稽な話っぽいけど、実際起こっている事なんだよな。
まるで暗黒〇陸みてーな雰囲気をだしてたけども『空想』が加速度的に広がっているせいってた。
参照『152話「開幕篇① 未知広がる世界ァ!」』よりァ!
「そこで火星の情報は出てこなかったわよね?」
「ああ、気になるよな……」
火星に関しての情報が全く出てこなかったっけな。
《──火星との外交は困難を極めて、外交官が根気よく説得しているが未だ取り合ってもらえず……》
テレビでは火星をバックにニュースキャスターが延々と話してる。
地球内でも外交が困難な国は主に独裁国家が多い。魔界オンラインのおかげで少なくなっていったらしいな。
比較的緩くなって、外交しやすい情勢になってきた。
──だから、国連で星間航行プロジェクトみてぇなのが立ち上げられたとも言える。
それはあくまで地球上での話。他の惑星だと事情は違うようである。
「火星……、惑星レベルで独裁やってたとしたら……?」
「ありえるわね」
「まぁ、火星がどんな社会情勢かしらねーけど縁なさそう。異世界行くし……」
「そうね。晩は何を食べる?」
「麻婆ナスとかにする?」
「いいわね」
難しい事言ってるテレビを切った。プツン。
「細けぇこたぁいいんだよ」
二人一緒に外を出ると、すっかり夜になっていたぞ。都市の煌びやかな街灯などが視界に入る。
他のマンション、コンビニ、魔導自動車、魔導電車などの灯りが飛び交う。
最寄りのスーパーへ入って、色々カゴに入れていく。
麻婆ナスの元となるパックを見つけて「あったわ」とカゴに入れた。
あらかた揃えるとレジに持って行って精算。買い物袋を手に外へ出た。
「あー、来月から夏季大会始まるんだっけな?」
「そうね。学院限定のクラシック大会『仮想対戦・甲子園』」
「ああ。でも去年では二年生だった生徒の大半が今では卒業したっぽいしなぁ。強敵のカレンやオオガやマジンガ出てこないんだっけ?」
「ええ。でも思わぬ強敵いるかも?」
「だなぁ……」
夏季大会となる地区予選大会が六月から七月、本選は八月に行われる。
秋季大会の『仮想対戦・明治魔導聖域』は東京で行われていた。
しかし『仮想対戦・甲子園』は兵庫県で行われる。
野球の甲子園球場とは別に仮想対戦センターがあって、そこが創作士にとっての甲子園となる。
……なんて細けぇこたぁいいんだよ!
「サクッと終わらせて卒業して、念願の異世界だー!」
「ふふ」
拳を突き上げてノリノリするとヤマミが笑ってくれる。
ヤマミと一緒に買い物袋をぶら下げて歩道を歩きながら、夜空を見上げた。
月より少し小さめながら、赤く映る火星があった。赤というより茶色の月みたいなものだ。
この並行世界へ来るまでは、そんな風にクッキリは見えなかったな。
そこからキラーンと光った気がした。それは流れ星のように弧を描いて宇宙を駆け抜けて地平線の向こうへ消えていった。
「……火星から降ってきたようにも見えるなぁ」
「そう見えるだけかもね。小さな隕石が降ってきては大気圏で燃え尽きてしまう」
ドーン!!
なんと流れ星が消えた先の地平線から、小さな爆発が噴き上げられたのが見えた。
山脈の向こうに落ちたのかな……? それとも海? 地面に地響きが来てないから、相当遠くに落ちたのかな?
荒れ果てた山岳地帯で火炎地獄が轟々と燃え盛っている。
その中で黒いシルエットがゆらりと現れた。
ザッと足を踏み鳴らす。
「宇宙帝Z!! 今ここで地球に参上ッ!!!」
白い騎士鎧を纏う銀髪少女が気丈に名乗った。騎士姫って感じだ。
しかし誰もいない山岳地帯なので虚しい……。
「うーむ。それより地底世界へ行けるのここだったわよね? 早く行かないと……」
キョロキョロ見渡しながら坂を降りていく。
すると天然洞窟の奥にマンホールのフタがあるのを見かけて「あった!」と喜ぶ。




