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344話「美牧モエキの日常」

 モエキはトボトボ歩いていた。

 野外授業も一人で疎外感に耐えられず暴走しまくった挙句、かばった少女に隷属させられそうになった。

 しかも失禁するという醜態まで晒した。

 これも後先考えず感情任せに行動したゆえだろう。


「こんなんじゃナッセさんに嫌われるのも仕方ありません……」


 一年生の誰も私なんか気に留めない……。それどころか避けられてしまう……。

 もう心がドロドロ冷たく黒く染まっていくのを感じる……。


 自分の部屋へつくとカバンを下ろし、ジャージに着替えるとガラスのテーブルのそばで横座りして虚無に囚われていた。

 たった一人だけ静寂の部屋にいる。

 みんながリア充で自分だけ陰キャのぼっちだと責めるかのように……。


「うう……うううぅぅっ…………」


 肩を震わせて涙を流していく。

 このまま宝石のような心が濁っていって、魔女化してしまうんだわ……。(妄想)

 悲しみに暮れたままスーパーファミコンを取り出し、ガションとソフトを差し込んで電源オン!

 モエキはコントローラーを握って必殺コマンド!


「うぬがああああッ!!」


 感情をぶつけるように格闘ゲームに夢中になった。

 燃え上がるような激情で並み居るキャラを薙ぎ倒していって、ラスボスと激しい攻防。

 モエキは顔を歪めて「ぐぬ! うぬ! このッ!!!」と極限集中してコントローラーのボタンを猛連打。

 対空技でラスボスのライフをゼロにし、スローモーションになっていく。


「やっしゃああああああッ!!! 難易度最高クラス制覇ああああッ!!!」


 右足でダンと踏みしめ、ガッツポーズ!

 お嬢様キャラを演じていたモエキらしからぬワイルドな態度である。


「あ~~スッキリしましたわ~~!」


 さっきまで陰鬱だったのに、満面な笑顔で恍惚していた。

 これこそが彼女のルーティンのようである。

 うーん、と腕を上げて背伸びする。


「うん! 野外授業では暴走しちゃったけど、かなり強くなれたんだし何も怖くない!」


 すると携帯がティロッティロッと鳴る。

 素早く手に取り「はいもしもし」と応答する。


《元気ですか?》

「あら? 地元の円香(マゴカ)カナミじゃない!?」

《なぜフルネームで……? ともかくモエキ先輩に報告したくて……》

「なにかしら?」


 ウキウキワクワクで地元の唯一の友達と電話しているようだぞ。


《聞いてくださいっ! 私、結婚しました! 相手は緋焔(ヒエン)アケミツさんです!》


 嬉しそうだったモエキは真顔になって「……そう。よかったわね」と消え入りそうな声で返しプツッと切った。

 さっきまで有頂天だったのにズーンと急降下とばかりに落ち込んだ。

 なにしろ高校で後輩だった可愛い友達が、抜け駆けのように結婚しやがったからな。

 モエキとしては大阪へ来たのに友達ゼロ、恋人イナーイですもん。


「せめてナッセさんがフリーだったらねぇ……」


 深いため息をついて俯く。

 スーパーファミコンに違うソフトを入れて電源オン!

 テレビに映る左へ流れる宇宙と白い自機。右端からザコ敵が隊列を組んでやってくる。


 パパパパピューン、パシュッ!


 スピードアップして、まずミサイル、次は貫通性のあるレーザー、自機と同じ動きをするオプション、敵弾を三発まで耐えられるバリアまでパワーアップしていく。

 敵キャラを破壊するたびに返し弾がくるが、器用にかわしていく。


「むむむっ、くぬっ! ふんっ! そこっ!」


 敵弾の弾幕が激しいにも関わらずモエキは器用な動きで回避しまくっていく。

 いかなる強敵ボスも撃破、撃滅、大壊滅ーッ!!

 敵の本拠地が大爆発して自機が画面に向かって飛び去るシーンが終わるとエンディングロールが始まった。


「ふう……高難易度のシューティングもノーミスでクリアよ!」


 恍惚と満面な笑顔でスッキリ。はぁ……。

 喉が渇いたなと思って冷蔵庫を開けると、ビール缶が三つと賞味期限切れた卵二つだけだった。


「これじゃあ晩飯食べれないわ。困ったわね……。買いに行こうかしら」


 汗を垂らしつつも、ジャージを脱いで優雅な洋服に着替えた。

 見栄を張る為にエレガントな動きで外を出た。誰が見ても金持ちのお嬢様かと思うくらい煌びやかなモエキさん。

 スーパーへ着くと、いい匂いがする。

 ルンルンと買い物カゴを腕に乗せて品定めしていく。


「あっ!? これはッ……!?」


 限定カップ麺を見かけて、すぐさま四つカゴに入れた。

 続いてイケメンだらけの乙女ゲーのウェハースが目に入り、箱ごとカゴに入れた。

 チョコレート、クッキー、マシュマロ、アメ、ポテトとお菓子には目がなくカゴに入れまくっていた。


「あるのがいけないのよ! あるのが!!」


 最後にビール缶六本セットも入れて、レジに溢れんばかりのカゴを二つドスンと載せた。

 店員さんドン引きしつつも、業務としてバーコードをピッピしていく。

 パンパンになった袋を四つ両腕に抱えて、優雅な歩き方をムリにしながらマンションへ帰った。


 ビリッ!


 まずポテト袋を開封して、バリボリベリバリと味わっていく。

 更にビール缶を開けてゴクゴクゴックン!


「ぷぱー! 生き返るわぁ」


 満足げに恍惚する。酔いも手伝って上機嫌だ。

 午後七時になると晩飯は限定カップ麺でズズゾーといただいた。

 お風呂を沸かすと一時間三十分ぐらい浸って「天国天国」と鼻歌してたりした。フフ~ン!


 いつものジャージを着てスーパーファミコンでRPGゲームの続きをやっていた。

 眠気を催すとセーブして電源オフ!

 灯りを消してベッドへインして抱き枕に抱きついたまま「寂しいよぉ……」とモゾモゾしながら寝入った。

 朝になると寝ぼけながらも歯を磨いて、朝飯はカップ麺ですます。

 新しく買った牛乳をゴクゴク飲んで目を覚まさせた。

 買い置きしてそのまま残っているブラックコーヒーは一つも手をつけられず、隅で沈黙していた。


「いってきますわ!」


 誰もいない部屋に笑顔で挨拶し、明るい外へ優雅に歩き出した。

 アニマンガー学院が近くなると生徒たちと遭遇するようになってきて笑顔で「おはようございますわ」と優雅に挨拶して気取っていた。

 誰が見ても私生活含めて貴族のような優雅な生活をしてきたのだろうと思わせられる。


「あっ!」


 ヤマミがナッセと一緒に学院へ入っていくのを見て、ギリィィと歯軋りした。

 あの気取ったアマ許さないわよ、と凝視する。

 イメージ的にヤマミが性悪な悪役令嬢だと思って、薄ら笑みを浮かんでいるに違いないと妄想していた。

 そして自分が正ヒロインとして真っ直ぐ立ち向かう正義だと錯覚。

 ふつふつと怒りが沸いて理性が吹っ飛ぶ。


「悪役令嬢ヤマミ許すずましッ!! 婚約破棄させてくれるわああああッ!!」


 なんか叫んどるモエキに、周囲の生徒はドン引き。



 カグヒメルはジト目で「そんなんだから友達ができないのじゃ」と呟いた。

 通りすがりのミキオとサラクも呆れていた。

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